第7話 着替えと別れ
この間はひどい目にあった。
モモっちにはまた叱られたし、中途半端な脳筋とまたいわれたし。
私は自分では意外と頭脳派だと思うのに。
部屋で1人ブツブツといってると急に眠気が襲ってきた。
「この眠気は…」
目を覚ますとやっぱりたもとに連れてこられていた。
まぁ、何もしてなかったからよかったけど。
ねぇモモっち、一言こっちに連れてくる前に連絡くれないかなぁ?
「大丈夫にゃ、一応みぃの状況みてから呼び出してるにゃ!今だってぼーっとしてたにゃ」
いや…たしかに考え事はしてたけどさぁ。
ぼーっとしてたわけじゃ…。
「呼び出したのは、みぃに会いたいって子がきたにゃ。」
「会いたがってる子?」
連れてくるにゃといって、原っぱのほうへとモモっちが駆け出していった。
私はその場に座り込んで少し待った。
遠くにはモモっちとその後ろに真っ白な大きな犬。
会いたいってもしかして…。
お互いの顔がハッキリと見える距離になって、真っ白な犬がスピードを上げて駆け寄ってきた。
「のあちゃん!」
覚えてる!私は大きな犬が怖かった。
見るのは好き、でも触るのは怖いって感じだったけど、触れるキッカケをくれたのはこの子だ。
「みぃ。久しぶり〜。ここにたまに現れるって聞いたから会いたいって我儘いってみた。」
真っ白な触り心地のいい毛並みを撫でまくる。
「大歓迎。私も会いたいって思っていたんだ。のあちゃんのお母さん、お父さんにも会ってないから元気かなぁ?って思っていたけど、まだのあちゃんがここにいるということは元気なのね。」
失礼なもの言いかもしれないけど、ここはそういう場所だから。
「うん。でもお母さん毎日泣いちゃって元気ない。」
「それは仕方ないかなぁ。いきなりの余命宣告だったからね。」
どの動物もそうだけど、我慢強いというか話せないから辛いとか、痛いとかいえないからか、突然亡くなっちゃう子は多い。
特に小さい頃から飼うと普通は人よりも早くに亡くなる子が多数だから。
「でも、みぃは私になんとなくデキモノがあるって気づいたよね?」
「うん、本当になんとなくね?のあちゃんが色んなところ触らせてくれたから、あれ?なんかポコってしてる?と思って。でも石井さん夫婦はちゃんと検診つれていってるって聞いていたし、私の気のせいかなぁって。」
それは本当に偶然。のあちゃんを週に3〜5回ぐらい触っていたからわかった。
横腹を撫ぜていた時に手に触れるポコってした感触。まぁ医学なんて全くないから、石井さんに、のあちゃんって確か検診つれていってますよね?
って聞いちゃったことがある。その後すぐかな?お医者さんでも見つけるのが難しい位置に腫瘍があったってきいたのは。
「でも、みぃがそういったからお父さんもお母さんもすぐに病院に連れて行ってくれて病気が見つかった。残念ながら治らなかったけどね?あ、でも感謝はしてるよ?身体は辛かったけど、ずっとお母さんもお父さんも側にいてくれた。買い物にいくのも、どっちかは必ず残って1人にしないでくれた。もし見つかっていなかったら二人ともいない時に死んじゃってたかもしれないもん。」
そっか余計なことかなぁって言ってから後悔してたけど、言ってよかったんだ。少なくても、のあちゃんには感謝された。
「最後にみぃと話せてよかった。」
「え?最後って?」
「うん、残るか毛皮を着替えるか悩んでいたんだ。」
毛皮を着替えるというのは、犬種はランダムもちろん色も。
もしかしたら犬ではなく猫かもしれない。
それでもそれを選ぶのは、大好きな人の元に戻りたい、また会いたいって子が選ぶ選択肢。そして必ずしも戻りたいと願ってる人の元にはいけないかもしれない。たもとに来た子には必ず説明している中のひとつ。
「本当にいいの?着替えるで?またあの場所にいけるかわからないんだよ?あそこで過ごした記憶も無くなるんだよ?ここにいれば、必ずのあちゃんのお母さんなら迎えにくるよ?」
「うん。迎えにきてくれるとは思う、でもなんだろうなぁ、また会えると感じるんだ。たぶんみぃに会えたからかな?」
私に元の飼い主のところに戻せる権限も力もない。願うことしかできないのだ。のあちゃんにそういっても答えは変わらなかった。
「会えなくてもみぃに文句いわないから大丈夫。だから手続きして欲しい。ゲン担ぎ?で、みぃが手続きしてくれる?」
私には拒否できない。ここはそういう場所だから。
だから小屋から書類を持ってきて内容を読み上げて肉球を押してもらう。
本当はここで待っていて欲しい。着替えるなんてくじ引きの1つに思う。
「本当にいいの?これが最後だよ?止めるなら今だよ?」
「みぃ、しつこいにゃ。」
モモっちに怒られた。
ただ願う。石井さん夫婦の元にいけるように。
契約書をのあちゃんの額にペタっとして見送る。
お願いします神様。頑張ってここで働いてます。たまに迷惑かけるけど。
私なりに頑張ってます。だから、のあちゃんの行き先をまたあの場所に…
ここは虹のたもと、もとい、虹の橋のたもと と呼ばれている処。
飼い主や待ち人を待ちながら、痛いこともお腹が空くこともなく、
みんな仲良く待ち人を時折見守りながら楽しく過ごせる場所。
いつかまた会える愛しい人を待つ場所である。
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