宇宙の日

クロノヒョウ

宇宙の日





 『宇宙から国境線は見えなかった』

 そりゃそうだよな。

 国境線なんて地面に書いてあるわけもないし。

 そもそも誰が国境線なんてたいそうご丁寧なものを作ったのだろうか。

 そりゃあわかるよ。

 ここは俺の国、ここは俺の土地、ここは俺の家、って決めておかないとすべてがごちゃごちゃになってしまうことくらいは。

 でもさ。

「……ということで、今日、九月十二日は宇宙の日とされているそうだ」

 先生がそう言ったところでチャイムが鳴った。

「起立、礼」

 昼休みとなった教室が一斉に騒がしくなる。

「腹へったぁ、飯食おうぜ」

 机を動かし仲間が集まるとすぐに各々が弁当箱を開け始めた。

「なあ、今日さ、帰りに映画観に行こうぜ。エイリアン」

「エイリアン?」

「なんか今やってるよな。なんだっけ」

「ロムルスな。エイリアン、ロムルス」

「それそれ。でもなんでエイリアンなんだよ」

「いや、今宇宙の話聞いてたら観たくなった」

「俺はパス。怖いの観れない。無理」

「なんだよ。お前は?」

「俺はべつにいいけど」

「よし、決まりな」

 シリーズ化されている映画、エイリアン。

 未知の惑星で地球人がエイリアンの恐怖と戦うというストーリーだ。

 俺たちの間でも人気の映画だった。

「ねえ国境線って線がひかれてるの?」

「は? んなわけないだろう。ただ地球の大陸をわけてるってこと」

「なんでわけるの? 誰が?」

「さあな。みんな自分のものにしたいんだろ」

「同じ星に住んでるのに? どうして?」

「知らねえよ! 地球人に聞いてみろよ」

 仲間の会話を聞きながら俺は考えていた。

 本当に、同じ星に住んでいるのにどうして地球人は争っているのだろうか。

 地球だけでは物足りないのか、エイリアンの住む星にまで攻めてきては戦争を始めている。

 地球人目線で作られた映画は確かにおもしろいが、俺たちエイリアン目線で観ればただの恐怖でしかない。

 あいつが怖くて観れないと言った気持ちもわかるよ。

 もしもいきなりこの星に地球人がやってきて仲間が次々と殺されだしたらと思うとね。

 でもあれはあくまでも映画の話さ。

「もっと地球のこと勉強しなくちゃな」

「だったらお前、地球に行ってみろよ」

「えー、やだよ。国境線が書いてないならわかんないじゃん」

「ははっ、お前すぐに殺されそうだよな」

「やっぱり地球には行かない。僕は国境線も争いもないこの星が好きだもん」

 俺もそうだ。

 戦争なんてない、国境線も見た目の差別もないこの星の仲間が大好きだ。

 自分の土地を守るとか自分の思想を人に押しつけて勝手に戦争を始めてその結果、哀しみを産んでいるのは地球人の、自分のせいだということに早く気づいてほしいものだ。

 ねえ地球人のみんな。

 一度宇宙を想像してごらん。

 国境線どころか何もない、無限に広がるこの宇宙をさ。

 きっと小さなことで争っている自分のことがバカらしくなるよ。

 地球では今日は宇宙の日なんでしょう?

 ちょっと深呼吸して、空を見上げるのもいいと思うよ。



           完






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