革命

カンザキレイ

第1話

「いらっしゃいませ〜」

この仕事も、もういい加減飽きていた。

商品を陳列し、接客し、時折掃除をして、夜になったら時間を潰す。

朝日を見て、そろそろ終わりか、と思う。

そんな繰り返しがもうかれこれ5年。

新鮮味が欠けていた。

「おい!マルボロ!」

出たよ、うるせえな。なんで番号で言わねぇんだよ。知らねえよタバコの銘柄なんて。

「おい、お前、早くしろよ!」

「はい、すみません、何番でしょうか。」

「だからマルボロだって言ってんだろ!」

「すみません、番号でお願いできますか。」

「使えねえな、5番だよ!」

「かしこまりました。550円です。」

「高えなぁ、ほらよ!」

台の上に金を投げるなよ。そう思いながら、金を拾いキャッシャーに投入する。100円足りない。

「100円足りません。」

「はっ?足りないわけ無いだろ。お前が盗ったんじゃねぇのか。」

「すみませんが、足りません。どうなさいますか。」

「ふざんけんなよ、お前がどっかやったんだろ!お前が残り払っとけよ!」

「そう言われても困ります。」

「バカ野郎お客様は神様だろ!これは貰ってくから、お前がなんとかしとけよ!」

はぁ。たまにいる頭のおかしいジジイだ。80過ぎだろうあの頭には、まともにお金を払うという考えが抜け落ちているらしい。こういうのは対応するだけ馬鹿馬鹿しい、時間の無駄だ。もらい間違いにでもしておこう。そう思って前を向くと、いきなりビンタが飛んできた。

「お前みたいなクズは何にもできないんだから、金くらいちゃんと数えろよな!」

大した威力ではない。ぺちっ。その程度だ。

だが、堪忍袋の緒が切れるには十分だった。

「、、、ビニール袋にお入れしますね。」

そういいながら、ポッケに入っていたairtagといっしょにタバコをビニール袋に入れてから渡す。

「クズなら早くそうしろ!」

そう言って、ひったくるようにビニール袋を取ると自動ドアを抜けていった。

そのあとのことはいまいち覚えていないが、あのジジイがどこに帰ったか、それだけを確認していたら、勤務時間が終わっていた。


鍵は、郵便ポストの中にあった。

そっと開けると、テレビがついている。まだ起きているか?いや、いびきも聞こえる。

「もうね、いい加減限界じゃないかな。」

汚い家だ。ゴミが散乱してる。

カビもすごいし、変な匂いがする。だけど、不思議と気にならない。

なのになぜかキッチンはきれいなのが目についた。

「俺だってね、昔は敬老の心ってやつがありましたよ。でももうそんなものはどっかにいってしまったよね。」

薬が落ちてる。何粒かは空いてる同じ薬がたくさんある。何回か飲んで、すぐに無くしてしまうんだろう。

「これは俺の問題なのかねぇ、俺がキレやすいゆとり世代なのかねぇ。」

足の踏み場はないが、いびきの聞こえるドアの方に歩く。いびきはがやけにうるさい。でも何故か心は穏やかだ。静かにドアを開ける。ジジイの姿を視界に入れる。

「もう、充分だよね。さよなら。」

限界まで力を振り絞って、最大限の力を込めて腕を振り下ろす。この部屋の前の駐車場にあったコンクリは、頭の形を変えさせたあと砕けて散った。

「頭のおかしいのが、ようやく1人減った。これで明日から少し楽になるかな。」

airtagだけ探し、なんとか見つけた後、回収して吐き気のする部屋を出る。

ビニールの手袋と、レインコートを脱ぎ、全部持ってきたゴミ袋に突っ込む。

「この家は明日が燃えるゴミの日ね。ちょうどいいや。」

前日の夜だけど何個かはゴミ袋があり、ネットがかかってる。ゴミ袋をネットの下に押し込めば、ようやく解き放たれたような気がする。

「さあ、帰ってゲームしよ。」


本来ならば特別なはずのその日は、結局仕事終わりに寄り道しただけの普通の日となった。いや、いつもより少しだけ爽快感があった。なんとなく希望が持てた。


「お休み。」

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革命 カンザキレイ @dxa0010

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