妖の唄

江蓮蒼月

妖の唄

 歌うことが好きで、それなのに才能はなくて。極めたいのに、それもできない。自分にある才能なんて何もなくて、幼少期の出来事が、母親にいらない期待を抱かせた。


 枯れた声で歌い続ける。諦めたくない。諦めたくない! それでも現実は無情で、まったくの素人の方が俺より遥かに上手くって。努力が報われることはなくて。それでも歌うことをやめなかった。心の中では、その現実に打ちのめされていた。


 俺は決めた。方向性を変えれば、少しは状況が良くなるだろう。自分で作った曲ならばきっと上手く歌えるだろうと。

 俺は作詞と作曲を始めた。歌よりも遥かに上手くできた。こっちの方が俺には才能があるのかもしれない。

 俺は母親から反抗するように音楽にのめり込んでいった。幼少期の地区大会優勝なんて偶然で、俺はスポーツなんて何もできないんだから。スポーツ選手にしたいみたいだけど、俺はその道に進む気はない。


 半年が過ぎて、俺はその歌を歌った。「妖の唄」というタイトルで、SNSでバズった。俺はそれから家を出て、一人で生きていくことにした。音楽を続けるためだけに。それが俺のすべてだから。

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妖の唄 江蓮蒼月 @eren-sougetu

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