第4話

「……俺は、これからどうしたら良い?」

暗い森の中、夜空に浮かぶ3つの月のような衛星が映す僅かな光源を頼りに、大木の根元から立ち上がり、隣にあった岩に腰掛け虚空へと1人呟く

(先ずは森を抜けた先に有る村を目指そう)

「そこには何があるんだ?」


(冒険者ギルドの支部があるよ。村って言ってもそれなりに大きい部類。さっき君を襲ってきた奴等もそこのメンバーだね)

「……何でわざわざ敵の本拠地に?」

(君はそこで捜索資料を見つけるんだ)

「捜索資料?」

(君、賞金首だって言っただろう?しかも莫大な。だから手広く捜索出来るように、支部事に捜索する範囲が指定されてる筈なんだ)

「なるほど?」

(つまり、その資料が手に入れば何処の支部がどれだけの規模の捜索をどれくらいの期間行うのかが解るってわけ)


「……まぁ、言いたい事は分かった。だがそれの為に俺が見つかってしまったら元も子もないだろう?」

(甘いよ。君、さっきの奴らがこの世界でどれくらいの強さかわかるかい?)

「いや、結果的に逃げる事は出来たが、あれは銃の存在が大きかった。それを除けば俺は奴らに手も足も出なかった。奴らはきっとそれなりに強い部類にはいるんじゃないか?実物を見た事はないが、元の世界での格闘家なんかと同じような動きをしてたぞ?」


(そう。だから言ったでしょ?一般人でさえアスリートのそれと同等程度だって)

「つまり?」

(彼らはその支部ギルドの下っ端も下っ端。10段階評価で下から2番目のHランク冒険者共さ)

「………まじか……」

(そう。ちなみにランクは必ずしも強さを表すだけではないけれど、ある程度の指標にはなる。それこそこの世界で一端の冒険者と認められるEランク冒険者にあの時出会ってしまっていたら、君は逃げる事も出来ずに為すすべなくやられて終わっていたかもだね)


「……それほどか…」

(肉体レベルだけの戦いであればそうなるね)

「その為の武器、か……」

(そう。肉体レベルで遥かに劣る君の唯一の勝ち筋がそれさ。正直君の世界の“科学”とやらは馬鹿げているよ。その武器は子供でも熟練の戦士を討てる脅威的な武器だからね)

「……………いや、そんな簡単な話しでは無い筈だ」

(……気付いたかい?流石だよ。君の考えている通りさ。この世界の高ランク冒険者、それこそトップランカーのAランクともなれば、そんなハンドガン程度では簡単に避けられるし、なるなら直撃した所でダメージにすらならないかも知れない)

「………………」

(そして……そんなAランク冒険者よりも格の高いSランク冒険者ともなれば、それはもう“化け物”の領域さ……神すらも相手に出来る程のね…)


「つまりは見つかれば即アウト。見つからずに敵の本拠地に乗り込み秘宝をゲット。そうすりゃ俺は無事にこの敵地から元の世界へと帰る事が出来るってわけか」

(そうなるね……)

「ちなみに村までの道中でランクの高い冒険者はどれほどいるんだ?」

(それは分からない。ただ、そうそう高ランク冒険者なんて遭遇する事は無い筈さ。もちろんだけど、上のランクになればなるほどその人数も限られてくる。あくまで推測の域を出ないけれど、その村での最高冒険者ランクは高くてもDランク程度だろうね。それ以上ともなれば、皆村を離れて王都を目指す筈だからね)


「なるほどな。ちなみに村に先ずは行くとして、最終目的地は何処になるんだ?さっき話しては王都って所か?」

(…そうだね。秘宝はその王都の地下にある大宝物庫に納められている。そしてそこに辿り着くまでには3つの村と2つの町、1つの要塞を超えて初めて王都に辿り着けるのさ)


長々と説明を受けて俺は少し考え、そして次第に身体を小刻みに震わせる

(……怖いのかい?)

怖い?確かに見つかれば即終了なこの状況に置いて、命のやり取りと言う物は、平和な日本の現代社会を生きる一般人の俺にとっては馴染みのない感覚

けれどこの感情は違う。今までそこそこに生きてきた俺が、初めて本気になれたサバゲーに出会った時と同じような高揚感

俺は正直興奮していた。謂わば今の俺は異世界転移に現代科学を持ち込んだチート主人公だ。少しイメージとは違い、魔法も使えないと言われたが、本物の銃に魔法鞄バックパックときた

まるでゲームそのもの、しかも俺が大好きなあの原初の蛇の格好そのままで、見つからないと言う前提のステルスプレイも俺好み

更に言えば、サバゲーに限っての事だが俺はステルスに関しては自他共に認める上級者

海外のステルスマスターには及ばないかも知れないが、それなりに自信はある

だからこれは武者震いだ。この世界と言う環境。やるしかないと言う状況。どれをとっても今の俺には発奮材料でしかない


………ふと冷静に今一度自分を見つめ直してみる

……俺はこんなに好戦的だっただろうか?

そして思い出すのは俺が人を1人既に殺めてしまっているという事実

思い出した瞬間に一瞬吐きそうな気分になるが、再度湧き上がる高揚感がそれを押し留める

「………妖精さんか?」

(うん、ごめん。……君が人殺しなんてしたくてした訳じゃないって分かってるし、それで君が嫌な想いを抱えてしまっているのも分かってる。だからこれは僕が出来る最後の力)

「魔法か……悪くない」

(本当に、ごめん…)

「気にするな。お陰で気持ちが大分楽になった。異世界あるあるだもんな、人の命が軽いのなんて。率先して命を奪うような行為はするつもりなんてないが、どうしようもない場合は必ず来るだろうし、そうなった場合は仕方が無い事だと割り切ろう」


この世界の奴らは、俺を見つけるなり殺しに掛かるだろう。そんな奴らを相手に不殺を貫こうとしたところで、こちらが殺られてしまえばそれで終わってしまう

命が軽いのだ、この世界は。俺を含めて等しく平等に


「それじゃぁそろそろ陽も差してくる。完全に明るくなる前に移動しよう、方向はどっちだ?」

先程まで暗がりの広がる森の中、月日が辺りをほんのりと照らしていたが、いつの間にか太陽のような陽の光がうっすらと遠くの方から差し込み始めた

(マップは無いけれどコンパスがバックパックに入ってるから先ずは西に向かって。1つ目の村があるよ)


「了解だ……………」

(?…どうしたの?)

「……これは“ミッション”なんだよな?」

(え?ま、まぁミッションと言えばミッションだね……いや、考えて見ればこれはミッションだね。君、これはミッションだよ)

「そうか。あと俺のコードネームだが……」

(コードネーム?そ、それは必要なのかい?)

「当然だ。ミッションにコードネームは必要不可欠だ。妖精さんもいちいち妖精さんなんて言ってられない。そちらはなんて呼ぶ?」

(うぇ!?僕かい?いや、普通に名前で呼んでくれたらそれでいいよ?それなら君はなんて呼ぶ?)

「……俺は……原初の蛇に憧れた蛇。ただ、毒が無いからアオダイショウのアオダイなんて呼ばれていた。だから“アオ”と呼んでくれ。そちらはビリーだったか?これからよろしく頼む」

(僕はビビィ!ビビィだよ。なんだよその踊りながら筋肉でも鍛えそうな名前は)

はて、そんな名前が世間を賑わせた事もあったような無かったような


「ビビィだな。了解」

なんて軽口を少し叩きながら

俺は45口径とナイフを同時に構える独特の姿勢を取ると、森の先を見つめ呟く

「これよりミッションを開始する」


俺の長く孤独な戦いが今、始まろうとしていた




(アオ君……本当にごめん…だよ)

不思議な高揚感に包まれていた俺は、ビビィの消え入りそうな言葉を聞きとる事はが出来なかった……

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サバゲー好きな俺異世界転移したけど敵認定されたので自力で帰還を目指す ロコロコキック @220819

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