第3話
寒さを感じてハッと目が覚める
「ここは………」
(あ、目が覚めた?)
「…この声は……やっぱり……“夢”じゃなかったって事なのか……?」
(当ったりー!“これ”は現実だよ?)
寝ていた身体を起こして見覚えのある大木に座ったまま寄りかかる
「………さっきは姿が見えてたと思ったけど?」
(あー、あれは結構“力”使っちゃうんだ。だからなるべく節約したくて。でも心配しないで?直ぐ側って訳にはいかないけど、見える所にはいるから)
「見える所…?」
俺は意識を失う前に見た妖精の姿を思い浮かべながら周囲を見渡す
(あはは、見える所って言ってもそんな近くじゃないよ?別次元って言った方が早いかな?)
「そう…なのか?」
よく分からない事を仰る妖精さんだが、とりあえずは俺の事を見てくれていると言う事実は、もう陽も落ちたのか暗くなってしまった森の中に1人佇む俺にとっては、唯一の安心感をもたらしてくれる
「……んで?いろいろ説明してくれるんだよな?」
(うん、そだね。僕の教えられる範囲の事ならなんでも答えるよ)
どうやらこの訳のわからない状況を、何処かで見ているらしい妖精さんは隠す事なく教えてくれるようだった
そんな俺はまた1つ新たな事実を知ってしまいふと呟く
「……僕っ子かよ……」
新たな属性が追加された妖精さんの事を頭に浮かべながら、俺は質問を投げ掛けるのだった
「まず、俺はどうしてこの場所に?」
(うん。多分薄々勘付いているのだろうけど、ここは君がいた世界とは違う世界。君らが簡単に理解しようとするならば、僕が言えるのは“異世界転移”ってやつだよ)
「…やはりか……あの時の足元の光がそうだな?……あれは、君が?」
(うーん、そのへんは説明出来ないかなぁ。いずれは教えてあげれるとは思うんだけど)
教えてあげれる……つまり妖精さんは知っているが、何かの制約があるのか“今”は無理だと言うことか
「あの襲ってきた人達は…?」
(彼らはこの世界最大の軍事国家、“シュタートギャルド”から依頼された冒険者ギルドのメンバー、だよ。今、君には莫大な懸賞金がかけられているの。詳しい理由はまだ説明出来ないんだけど、彼ら冒険者メンバーはこの森に無数に蔓延っているよ。君にはそれらを差し引いてでも十分なくらいの懸賞金がかけられているのさ)
「俺は何もしてないぞ?何故狙われている?」
(申し訳ないけど、それも今はまだ説明出来ない)
「奴ら、俺の装備と服装だけでこちらを襲ってきたんだが?」
(さっきと同じ理由に繋がってしまうからね。それもまだ説明出来ない)
「……秘宝ってのは?」
(それは……うん。世界を揺るがす程強大な力を秘めたお宝だよ)
「それを誰かが盗み出そうとして、結果的に失敗。その罪が何故か俺に降り掛かったと」
(うぐっ、本当にごめんよ。あんな場所に繋がるなんて思ってなかったんだ。もう少し安全な場所から全部説明するつもりだったんだけど…)
言葉の端々からなんとなく予想は出来るが、今は説明出来ないと言っている事だし、妖精さんがどこまで俺に協力してくれるかも未だ分からない。申し訳なさそうな声色はおそらくは本当なのだろうし、今は焦って藪を突付いた所で蛇を出すことも無いだろう
「あとは…俺のモデルガンなんだけど……」
(あぁ、そっちは全然答えられるよ?なんたって一番力を入れたポイントだからね!)
「どういう事だ?」
(君が元いた世界の本物と遜色ないようにしたよ!その銃もナイフも、無線機だって僕と繋がるようにしてある。今僕の声が聞こえているのはその無線機のお陰さ)
おそらくは無線機の向こうでドヤっている妖精さんを想像して少し和みながら、右胸にある無線機のスイッチを切り、左胸に納めていたナイフを抜く
すると途端に先程まで聞こえていた妖精さんの声が聞こえなくなり、変わりに森の囁きが大きくなる
ナイフに視線を向ければ、重量こそ変わっていないものの、その刀身は明らかに本物
元々納めていたトレーニングナイフとは完全に別物
相棒の45口径を抜いてマガジンを取り出して見れば、本物の弾丸がそこには納められていた
いろいろな変化に驚きながらも、俺は再び無線機のスイッチを入れ妖精さんとのコンタクトを続ける
「どうなってんだこれ?」
(ふふふ、驚いたかい?これらは君がこれからこの世界で生きて行く上での必要最低限さ。君には僕が魔法を掛けてあるからね。銃もナイフもそのお陰さ。もう見たからなんとなく分かるかもだけど、この世界は君がいた世界とは全てが異なる“剣と魔法”の世界。そんな世界に対抗するには、銃の1つや2つ必要さ)
「え!?俺魔法使えないの?」
(え?もちろん使えないよ?それとも元の世界では使えてたのかい?)
「いや、そうではないんだが……」
てっきり異世界転移あるあるで魔法が使えると思っていた俺は落胆する
(この世界の人間達は“魔力”、要は魔法の存在によって君らがいた世界のそれとは、比べられない程の“強さ”を手に入れているからね。人間の強度で言えば、同じ一般人でも、アスリートと比べるくらいには差はあるはずさ)
「……そんなにか?だとして……俺は一体何をすりゃ良いんだ?口ぶりから察するに、俺はこの世界の人達と争うような雰囲気だが…」
(大・正・解!いやぁ、君なかなか頭良いねぇ。君にお願いしたいのは、例の“秘宝”を盗み出して欲しいのさ。そして本物の銃やナイフは、力で劣る君が、この世界の人達と対等に渡り合う為の手段だね)
「な!?待て待て、なんで俺が?しかも秘宝なんてそんな簡単な所になんて置いてないだろ?それに銃が有っても弾はどうする?補給なんて出来ないし、撃ち尽くしてしまったら俺はお終いじゃないか!」
(その通り!そのための案内は僕に任せなさい!ちゃんと秘宝までのルートを案内して上げるよ。あと弾の補充だけど、それも抜かりないよ?君の武器はその銃。そして相手の武器は剣。君がこれから先、敵を倒したら手に入れた相手の武器に触れてみて?そしたらその武器は君の武器の弾丸へと変化する。そして腰のバックパックは簡易魔法鞄。中身はその鞄の100倍くらいの容量がある上、重量はどれだけ入れても変わらない代物。中身は手を入れれば何があるのか解るようになっているし、外からの衝撃が作用される事も無い別空間だから、グレネードなんかの爆発系武器も安心して収納してられる)
「っ!!だとしても!俺が秘宝を手に入れなきゃならない理由はなんだ?」
(んー、詳しい事までは言えないんだけど、君が元の世界に戻るために必要な物、かな。)
「いや、正直な所せっかくの異世界転移なら、それはそれで有りなんだが?」
(でも、君はこの世界では“異分子”。僕が魔法でこの世界に“固定”してなければ直ぐに世界から弾き飛ばされて死んじゃうよ?)
「くっ!?き、脅迫かよ?」
(いやいや、そんなつもりは全くないんだよ。ただ、僕は君に協力して貰わないと目的が果たせないからね。だから君が協力してくれないと言うのなら僕も協力は出来ないのさ)
「……そっちが勝手に呼び出したんじゃないのかよ?」
(…………ノーコメント。だよ)
「…………はぁーーーー…………」
俺は盛大に溜息を付くと、興奮して立ち上がっていた身体を再び大木へと沈め、目を幾分か瞑り考え込む
(……その、本当に悪いとは思ってるんだ。だから僕に悪意を持ってしまうのも理解できる。けれど、この世界の為を思えば、僕もなりふり構っていられる状況じゃ無かったんだ。だから許してほしいとまでは思わない、僕が憎いならば恨んでくれていい。けれど、本当に僕は君が最後の頼みの綱なんだ。どうかお願いだよ、僕に、この世界の為に力を貸して欲しいんだ!)
そう聞こえたと同時、一度は消えたと思っていた妖精が再び目の前に現れ頭を下げていた
小さな身体を更に縮こませて謝るポーズを見せる妖精は、目に涙を浮かべ震えている
その姿に理性を取り戻した俺は、矢継早に答える
「わ、分かったよ。その秘宝?とやらを手に入れれば良いんだろ?別に意地悪言うつもりは無いんだ。ただ、こんな状況にと惑っただけだ。だから泣かないでくれ、君みたいな可愛い子に泣かれると、いくら妖精だなんだって言ったってこっちの心臓に悪い…」
「……やっぱり……優しい人……」
えへへ……。そうはにかみながらありがとうとだけ言うと、妖精さんはまた姿を消してしまっていたのだった
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