第4話 浴衣姿のお姉さんとお祭りデート
夕暮れ時。神社の境内へ続く道にて。祭囃子が聞こえてくる。
あまね「ふふ。下駄は歩きづらい? 大丈夫、お姉さんが手をつないでてあげるから。せっかくきれいに染まった藍色の浴衣を着てるのに履物がスニーカーじゃもったいないでしょ? よく似合ってるよ」
あまね「わたしも似合ってる? ありがと♪ 朝顔の柄が可愛くてね、気に入ってるんだ。花火が始まるまで色々見てまわろっか。まず手始めに――」
※時間経過※
あまね「焼きそば、いいえ。お好み焼き、いいえ。そう選ばれたのはタコ焼きでした。なぜなら――はい、アーンして」
あまね「えー。昨日は耳かきさせてくれたのに、アーンは照れちゃうんだ? でも、お姉さんは簡単に諦めないよ。一個、まずは一個だけ。なんなら一口でいいから。熱いのが嫌なら、お姉さんがふーふーしてあげるけど?」
あまねは耳元に顔を寄せて、
あまね「(ささやき)耳ふーは好きなのに、こっちのふーふ―はいらないんだ。お姉さんちゃんと覚えとくね」
あまね「お、観念しちゃった? アーン、それじゃ冷めないうちに召し上がれ。――それじゃ、わたしも。あむ……うーーーーん。ふんわりと噛んだらとろ~り。コリコリのタコ。ソースとマヨネーズもイイ感じ!」
あまね「おやおや、ひな鳥みたいにお口開けちゃって。もしかしてもっと食べたいのかな? ふふん♪ 作戦通り! 一個だけで満足できるわけないよね――はい、どうぞ。美味しい? たーんとお食べ。それにしても、どうして出店の食べ物ってこんなに美味しいんだろうね。りんご飴、かき氷、ベビーカステラ、チョコバナナ……どれも食べたくなっちゃう」
あまね「……太る? お祭りなんだから気にしない気にしない」
金魚袋を持った人が通りかかって、
あまね「あ、見て見て金魚。きれいだね、鮮やかな夕焼けの色が水面に映ってるみたい。」
あまね「食べ終わったら、ちょっとやってみる? (タコ焼きを食べて)あむ」
あまね「……いいの? あー、そっか。キミんちに持って帰るの大変だもんね……すごく遠いし。残念、金魚ちゃんとは縁がなかったみたい」
あまね「さーて、お次はアレにしよう!」
※時間経過※
あまねは背後から肩を抱き、密着状態でサポートしている(耳のすぐ後ろあたりから話しかけてくる)。
あまね「よーく狙いを定めて~。ん、ひょっとして緊張してる? ふふ、肩に力入りすぎだよ。遊びなんだからリラックスして。リラ~ックス。うんうんそんな感じ。もう一度、狙いを定めて~~。発射ーー♪」
パンと景品に当たり、倒れる音がする。
あまね「ナイスぅー! あまねお姉さんがついてたらこれくらい百発百中よ。 いっそのこと全部の景品、狩っちゃう? ――と思ったけど、やめとこ。おじさんが悲しそうな顔で景品を拾い上げてるもの」
あまね「景品のブレスレット、暗いとこで光るやつだー。子供ってこういうピカピカ光るおもちゃ好きだよね。わたしもキミとお揃いだから喜んでつけちゃう。お、けっこう明るく光るね」
あまね「そろそろ何か食べ歩きできるようなものを買ったら、花火が見やすとこに移動しよ。穴場があるんだ」
夜。神社の境内にて。
あまね「ここはちょっと小高くなってるから、見晴らしがいいんだ。風も気持ちいいでしょ?」
あまね「神社の境内にある林の中を通る必要があるけど、普通の人はなかなか来ないんだよ。え、神さまが怒ったりしないか? 平気平気、こんなことで怒ったりしないよ。ここに祭られてる神様は。そもそもわたしが案内してるんだし。キミのわたあめ一口ちょうだい。はむ……見た目を裏切らないフワフワと甘さ」
あまね「食レポの語彙が貧弱……? (ふざけて拗ねた感じ)別にレポートしようと思ったわけじゃありませんー。わたあめの感想はフワフワとアマアマで充分なんですー。チョコバナナ食べたらチョコとバナナの味するのと同じですー。む、笑ったなー」
あまね「ふふふ。そんな風にキミが楽しんでくれて、お姉さんは大満足。出店と花火っていうどこにでもあるようなお祭りだけど、せっかく何時間もかけて来てくれたんだから、また来たいって思ってほしいもん」
あまね「ここの人は踊ったりしないのかって? あー、夏祭りと盆踊りが一緒になってるイメージね。このお祭りはちょっと違うかな。山の神さまに色々な感謝を示すためにやってるっぽいから。花火なんかも元々はなくて、ここ数十年で始まった気がする。どう詳しいでしょ? お姉さんのこと見直した? ――え……山の神さまに色々な感謝を示すためってのがザックリしすぎ?」
花火の音が鳴り始める。
あまね「ほら、花火始まったよ。お山に大きな花が咲いたみたいで好きなんだよね、わたし。一瞬で散っちゃうにしてもいいものはいいんだよ。ん、どうしたの? こっちなんか見て。 お姉さんがイイ感じのこと言ったから驚いた?」
あまねはもう一歩近づいてきて、ほおをつつく。
あまね「……キミはいったいお姉さんをなんだと思ってるのか。(頬を触りながら)うりうり、そっちこそお姉さんの理解がザックリしすぎだぞー。まあ、変に遠慮されたり敬われたりするのはイヤだから、キミにはずっとそんな感じでいてほしいいんだけどさー」
あまね「そっか。変わらないか。(小声)ありがとね」
花火の音がなる。
あまね「(明るい声で)――ううん、何でもなーい」
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