第2話 お姉さんは河童の実在を信じてるっぽい不審者


あまね「……[お]きて。ねぇ、起きて。もうお天道様はとっくに空の上だよ~。……うーん、なかなか起きないなぁ。バスに乗れなくて駅から歩いてここまできたって言ってたし。でも、いつまでも寝てたら今度は夜寝れなくなっちゃうし。ここは心を鬼にして」


布団のすぐ隣に座るあまね。


あまね「(悪い笑みを浮かべながら)早く起きないとイタズラしちゃうぞー。ほっぺたプニプニ攻撃~。うわぁ……すごい弾力、お肌のみずみずしさ。う、羨まし……くなんかないぞー。うりうり~」


いったん頬をつつくのを止めるあまね。


あまね「こうなったら……」


あまねは耳元に顔を近づけ――


あまね「起・き・て。(耳に息を吹きかけ)ふぅーー……」


あまね「あ、おはよ。ごめんごめん、耳くすぐったかった? もうお昼すぎだよ。ご飯できてるから顔洗ってきてね~。食べ終わったら良いところ、つれてったげるから」


※ 時間経過 ※


遠くから野鳥のさえずりが聞こえてくる。


川の流れる音を聞きながら


あまね「どう? 川に足をつけるだけで気持ちいいでしょ?」


あまね「そうそう。川に素足で入ると、まるっこい小石たちがイイ感じに、足つぼを刺激して……え、足裏はくすぐったいだけで気持ちよくない……?」


あまね「あー……うんうん、くすぐったいよね。わかるわかる、わたしもわたしも。(わざとらしい話題転換)知ってる? 足つぼマッサージして痛いところがあると内臓のどこかは悪いみたいなのって嘘らしいから大人になっても騙されちゃダメだよ? お姉さんからのささやかなアドバイス。誰だって足裏を思いっきりグリグリされたら痛いんだから」


あまね「ねぇ、ちゃんと私の話聞いてよー。対お姉さん用のスルースキル高すぎだぞー」


川の中を歩き、あまねが近づいてきて。


あまね「そんなに真剣に何見てるの? あ、サワガニ! 小さいのが二匹もいる。可愛いね」


あまね「水が澄んでるから川底も見えるんだよね。季節によっては魚も取れるんだよ。自慢なんだよね、こういう自然が残ってるのってさ。あ、いや……なんていうのかな、村の人たちの努力の賜物的な……? 地元のいいものは自慢したいんだよ。うぅ……都会っ子との断絶を感じる!」


あまね「川とか山が好きなの? だからウチに来てくれたんだ。そかそか、案内してよかった~。」


チャプチャプと手で川の水を掬い上げる。


あまね「あ、川のお水は飲まないほうがいいよ。きれいに見えてもお腹を壊すことあるから。山で遭難しちゃったりして本当に飲むものがない時は仕方ないけどさ。――喉が乾いてるなら、瓶ラムネ取ってきてあげるね」


数歩離れて周囲を見渡すあまね。


あまね「川に浸けて冷やしてるんだ。えっと、どのへんだっけなー? 木の陰ができてたところに、置いたはず……あったあった」


あまねはラムネを2本を片手に持って戻ってくる。


あまね「うんうん、イイ感じに冷えてる」


瓶の中にビー玉が落ち、ラムネがシュワシュワと音を立てる。


あまね「はい、どうぞ。ラムネは味も好きなんだけど、開けた時のシャワシャワ~って音が気持ちいいんだよね。(ごくごくごくとラムネを飲んで)ぷはぁ! 夏の暑い日はこれだよね。お酒も悪くないけど、まだ一緒に飲めないし」


あまね「大人になったら一緒に飲んでくれるの? ほんと? 楽しみ~♪ 将来の計画はまたいつかにして、この後どうしよ? 泳ぐっていっても、このへんはちょっと浅めで泳ぐのには向いてないし。山を登っていけば泳ぐのにちょうどいい穴場はあるんだけど、河童がいるしなぁ。……あー、河童がいるってのは昔からの言い伝えね。キミみたいなかわいい子はイタズラされちゃうかも。行っちゃダメだよ」


あまね「わたし? 平気だよ、河童なんか寄ってこないよ。最近じゃすっかり地下に監禁されて労働力にされちゃってさ、弱っちくなってるし。――あ! 今、残念美人だからって言ったぁ。小声でぼそっと言っても聞こえるんだから。どこがどう残念なのよ」


あまね「ノスタルジックサマーの三種の神器とか、いきなり意味不明なことを言うとこ……? あれってそんなにダメなの……!? 今の河童も……? そんなー……仲良くなるのにいい話題だと思ったのに……」


ちょっと近づき、恐る恐る確認するあまね。


あまね「え。河童の話とかは面白そうだけど、わたしが醸し出す残念な雰囲気は隠しきれない? う、嘘だよね? お姉さん的には超ミステリアスお姉さんのつもりなんですけどぉ……?」


あまね「は? ミステリアスというよりヘンテコって感じ!? もうっ、お姉さんにひどいこと言う悪い子には――こうだ!」


あまねはバシャバシャと川の水をすくってかけてくる。


あまね「えいえい! 河童も寄せ付けないお姉さんのぱわぁを見せちゃうぞー。それそれ!」


次第にあまねと水の掛け合いになっていき――


あまね「……ちょちょっ!? やったなぁ♪ あはは。冷たくて気持ちいぃね。でも、それくらいじゃお姉さんには勝てな――」


あまね「(水が顔にかかり)おふっ! ……待って、鼻が……水が鼻に入った、待って待ってタンマ!」


あまね「(むせて)うぅ……鼻が狙われなんて。こっちが怯んだ隙に水をかけまくるあたり、分かってるね……『やると決めたら情けをかけず徹底的にヤる』。これが、生き残るコツだよ……大自然の中でも複雑怪奇な人間社会においてもね」


あまね「まあ、おかげでわたしもキミもびしょ濡れだよ。服が皮膚に張り付くこの感触はびみょー……」


あまね「(視線に気づいて)む! (歩いて近づきながら)お年頃だからって、じろじろ見すぎだぞ~」


耳元に顔を寄せてくるあまね


あまね「(ささやく)……えっち」


あまね「ふふ。じょーだん。そろそろ帰ろっか。放っておいても乾いちゃうと思うけど、夏風邪ひいたら困るしさ。キミが明日のお祭り参加できなかったら、寂しいもん」



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