居場所

@mu-tairiku

居場所

高二の冬で部活も終わり、自分自身と向き合って勉強する日々が始まった。その中で、例えば模試の成績表が返ってきて、成績が良かった人たちの輪に入れなかった時に、自分は置いて行かれているんじゃないか、自分は結果が出ないんじゃないかと思うことがあった。

そんな不安が拗れていき、自分はこんな人間なのだと考えるようになった。

寂しさや劣等感を感じないような居場所、自分が居てもよくて、願わくは自分を必要としてくれる環境に居たいと願うような人間。

強めの承認欲求を持っていて、「自分のこの気持ちを理解して、共感してほしい」「自分の価値を認めてほしい」などと心の中で思っているような人間。

そしてこれらの自分がいかに小心者で面倒な人間なのかを感じ、悲しくなるまでがワンセットだった。


寂しいとは言っても、別に友達がいないという事ではない。一緒に遊んで、一緒に勉強する友達はそれなりにいる。でも、『自分の中に溜まっているマイナスの感情の全てを彼らに打ち明けたら、面倒な人間だと思われて関わってくれなくなるんじゃないか』なんて思ってしまって、結局この感情を一人で抱え込んでいるのだ。




少し経ち、高三の夏の終わり。

Xで、とある配信者のポストが流れてきた。

「配信でお金をもらっている以上はプロとして自覚を持つべきなんだろうけど、自分はただの一般人だし自信がなくなってきた」という感じのものだ。まあ大変なんだろうなー、くらいにしか僕は思わなかったが、これに対してファンが「今のままで救われてるよ」みたいな事をそれぞれの言葉で伝えていた。漠然と、有名人になってファンなんかができたりしたら、ありのままの自分を受け入れてくれたりするのかな、なんて事を思った。


このポストを見てから数日の間、ぼんやりと有名人になった自分を想像してみていた。

そしてある日、

「配信者になりたいなぁって」

賛同を得たかったのか、もしくは諌めてほしかったのかは分からないが、自習室の隣の休憩場所で一人の友達に話した。

「おう急にどうした、何、配信者と繋がりたいとか思ったの?そんな理由とかならやんない方がいいと思うけど」

「いや、そうじゃなくて、・・・」

理由を言おうとして、止まった。ここで自分の本心を打ち明けたら、今のある程度安定した関係が崩れるのではと思った。

「いいや、忘れて」

ナンヤネン、と彼はつぶやき、自習室へ戻っていった。


休憩場所で一人になってふと考えた。『自分が他人から本音をぶつけられた時、「こいつキモイな」なんて思うか?』もちろん答えはNOだ。喜んでその話を聞き、相手と向かい合うだろう。こんな拗らせた自分ですらそうするなら、彼だって話を聞いてくれるんじゃないか?

というか、相手を勝手に自分の非理解者だと決めつけて話をしようとしなかったのは、失礼すぎないか?


彼を休憩場所に再び呼び出し、本音を打ち明けた。

「さっきのことなんだけど、やっぱり理由を言おうと思って」

「おお」

「実は最近、自分はもう誰からも相手にされないんじゃないか、って不安に思うことがあって、有名人になれば、居場所を与えてもらえるんじゃないかなって思ったんだ。」

言い切ってしまった。もう後戻りはできない、そう思いながら彼の返答を待つ。

彼は、僕が思っていたよりもずっとまっすぐに応え、ぶつかってきてくれた。

「あ、そういうことを考えてたのか。えーと、だったら俺はならない方がいいと思うな。今のお前は、今のお前のままで、その感情を持ったままでも許されるような環境を求めているんだと思う。それってもう現実逃避じゃん。たぶん、そんなんだったらうまくいかない。それよりは自分で自分を認めてあげる方がよっぽど早いしいいと思う」

「どうすりゃいいの?」

否定されたなんて気持ちは後回しにして、続きを聞く。

「んーとね、例えば俺は、『他人がどう言おうと関係ねぇ、ここが俺の居場所で俺のやり方だ』ってマインドでやってる。この考え方ね、楽だよ」

「なるほど、でもやっぱり周りの目は気にしちゃうかも」

「そう?まあ結局、自分に自信を持てないのが原因なんだよ。テストでいい成績出すとかしたら不安も和らぐんじゃない?お前がちゃんと勉強してるのは知ってるし、絶対成果は出ると思うよ」

彼は僕がちゃんと勉強していると認めてくれた。純粋に嬉しかった。感謝と安堵で泣きそうになる。なんていい友達を持ったんだ、僕は。

「はいはい、じゃあ勉強しますよー」

そう言って、彼は自習室に戻っていった。僕も後を追う。不安はもうなかった。

彼が認めてくれたのだ。より一層勉強しよう、結果はきっと出るはずだと、そう思えた。

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