第4話

「囚人番号3668、来い。所長がお呼びだ」


檻から出された獣は何もできず、ただひたすら薄暗い廊下を歩いていた。


蝋燭ろうそくが止まる一つの部屋にまるで誘われるかのように看守は消えていて、この部屋に入る他なさそうだった。



中に入ると髭面のじじいは単調に口を動かす。

「3億6000万」

「それがなんやねん」

「とぼける気か?お前が"触れた額だろう?」

「ウチはもっとらんで。」

「ああ。だからこうしてお前に会っている。どこに隠した?」

「知らんなぁ」


手錠に繋がれた私の肩を彼を支えている杖が老衰を語らせない力で入り込んでくる。


「あまり馬鹿にするのではない」

「わかったよ。正直に言うさ。あんたから盗んだ金は全て使ってしもうたわ。」

「何を買った?」


私はニヤッとしてこう返す。

「脱獄入門書」


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『一週間前、カジノ「ナイトテラス」にて』


「本当にやるのか?」


彼女は不安そうに聞き返してくる。


「当たり前だろ?あそこに入っちまえば、ウチらは金持ちだ」

「そうだが...目は厳しいぞや

「そうやろうなぁ。ここら辺で1番デカい金の在処やもん。でもいざって時には助けてくれるんやろ?」

「それは分からない」


そう言った彼女はお面を深く被り、刀の鞘に触れる。


「まぁええわ。なんとかなるやろ」



私は事前に用意していた従業員専用のキーカードで裏口から入り、監視カメラに注意しながら進んでいく。


「それはどこで手に入れた?」

「ハニトラで仕掛けたら一瞬で手に入ったわ」

「...そいつはどこに?」

「さぁ?女王蜂の下へ向かってるんちゃうか?」


目的地は地下一階。そこに金庫があり、運のない者やある者達から計算され、搾取された金が入っている。だがそこに行くまでには監視レーザーを一時的にオフにし、警備員達を片付けなならばならない。


最初から警報器がなる前提で事を進めている。外には脱出用の潜水艦に乗った仲間が待機しているため、素早く逃げ出さなければいけない。


「ここで二手に別れようか。」

「わかった。では制御室にて」


その時、廊下中を響き渡らせるサイレンが鳴り響く。


「ありえない。どうしてバレた?」

「最悪なことだが...」

「あいつが裏切った?」

「監視カメラにも映っていない、誰にも接触していないとなるとそれしか考えられへんか」


まだ入り口の近くとは言え、シャッターが閉まってしまったせいで元の道へは引き返せない。


「ウチを囮にして逃げたらええ。」

「正気か?」

「こんなことやってるうちに正気かどうかなんていうのは要らんわ。生きるか死ぬかだけなんやわ」


といってもどうするべきか。


「そや。誰かしら警備員を倒して、そいつの衣類を奪え。ウチが大人しく捕まるふりするわ。」

「刑務所から助け出せる自信はないぞ」

「大丈夫や。必ず、ウチは手に入れて見せる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして現在。


また独房に入れられた獣は、自分よりも高くにある鉄格子から月を眺めていた。


「ロマンチストにでもなったのか?」


檻の反対側から小さく声が響く。


「待ってたで。ほな行こか」

「ああ。それで彼はどこに?」

「もちろん。さっき知らんジジイと面会してた時に看守から奪ったわ。ほい。この鍵」


私は小さく、丸みを帯びた鍵を彼女に渡す。


「彼の牢屋はどこへ?」

「奥に進んで右の突き当たりにおる。」

「了解。」


そして彼の前に立つと


「遅いぞ。それで俺だけのために、ここに来たんじゃないよな。」

「当たり前や。さぁ、出るで。」


私は彼の手を引っ張り、看守の服へと着替えて三人は優雅にそこを後にする。


ここの刑務所は孤島であり、朝昼ではないとボートは出ないことになっている。が、


「もうそろそろやな」


満月が頭のてっぺんに来る頃、水面が少しずつ揺れ始め、やがて巨大な何かが影を作る。


「リーダー!おひさ〜!」

「おひさ〜。どうや?仲間もちゃんと連れて帰ってきたぞ」

「リーダーの偉い!」


小さく、竜族とのハーフである彼女は潜水艦を用意して待っていてくれていた。


全員で乗り込み、島へ別れを告げる。


「いくらやった?」

「んー。大体3億ちょいかな?」

「十分やろ。」


私の計画通り上手く行ったようだ。

私がわざと捕まり、先に捕まっていた彼を脱獄と同時に救出する。

そして潜水艦を運転している彼女は私を捕まえた際に警備が薄くなった時を利用して、忍び込んでいた。


「リーダー、次の目的地は?」

「そうやなぁ...最強の杖を探しにどこかの魔法学園でも行こか」








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最強魔法は合言葉で アリサ眠 @akumeme

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