第3話

「お、お前さん来たか」


店主は私を待つかのように、いつも通りテレビを外に出していた。


「お願いです。私をサポートしてください」

「最初っからそのつもりだ。なぁ?」


彼は後ろを向きながら暗闇に話しかける。すると店の裏から出てきたのはあの日の---昔お世話になった監督だった。


「久しぶりだな」


私は言葉を失う。負けを作った張本人である私は彼に何と言えばいいのか。謝罪?それとも頼み事?わからない。


「誰もお前のことを恨んじゃいない。」


彼はそう言うと私の名前が書いているユニホームを投げ渡す。


「さぁ、来いよ。


店主は彼と繋がっていたんだ。それで、私のために。


泣いてはダメだ。私は必ず魔法使いになる。


「必ず勝ちます。お願いします」



次の週から私は再び表舞台に姿を表すようになった。

最初は試合に出れなかったりしたが、それでも努力を積み重ね、過去を取り戻そうとした。


試合に出れない日はただひたすらトレーニングする。吐いてしまうはど辛くても、それでも私にとっては楽しく感じる。この血が、頭が喜んでる。


仕事から疲れて帰ってきても、失神しかけても必ず練習を積み重ねた。負けたくない、必ず魔法使いになる----その一心だった。


寝る前は杖に何度も話しかける。幼い頃から握った杖は今やボロボロになり、変えなくてはならなかった。


「もう一度、愛してくれる?」


そう杖に聞いて、お別れをするのだった。



「今日は、お前が主役だ。行ってこい」


とうとうリーダーを任される日がやってきていた。私は嬉しくて、嬉しくてさらに練習に、勝利に貪欲になっていった。

私と同じぐらい魔法を使うのが上手なチームメイトがいた。


彼女は私が入ったばかりの時は気に入らなかったのか、無視をしてきたりしていたが、努力を認められ、試合では唯一の理解者になっていた。


「ふん。今日の試合、あんたの囮りが役に立ったわね」

「囮になってる間に倒してくれたからだけどね」


彼女も夢は魔法使いだった。

魔法試合で活躍する人、魔法使い。


魔法試合は魔法学園ごとにあり、強いチームばかりの学園もあったりする。要は学園がリーグのようになっていた。


そして4年一度、1番強いチームを決める試合ではチームだけではなく学園のレベルまでもが測れてしまう。


私はその中でも昔から憧れている"血濡れた悪魔"と呼ばれたチームに、それが無理ならそのチームがある学園に行きたかった。


「ケンウイッチ学園」

そこに私の夢の舞台はある。何度も世界一になったチームが所属し、他の学園よりも有名度もあった。まさに名門だった。


そして出身地によって分けられる試合もある。それはより人数が限定されるため、真に頂点に立つものたち同士の試合だ。



夢を掴むためにはどこかのチームのスカウトに選ばれなければならない。彼らは試合を見に来たり、練習をこっそり見たりして、将来有望な人材をチームに招き入れる。



私達は地区大会の決勝まで進めていた。そのため決勝にはどこかしらのスカウトがいるのではないかと皆、今日はそわそわしていた。


「ただ全力を出すだけよ。」

1番のチームメイトはそう言いながら隣に座り、杖を手入れしている。


「勝てると思う?」

「逃げ出さなきゃね」

「誰かは逃げ出すかもね。私から」

「調子に乗るな」

「いたいっ」


会場は満員で声援は大きく力強く会場を揺らしていた。


「勝つのは私達。」

「もちろん。誰も勝てないよ。私には」

「はぁ?なんて?」

「怖い顔は敵に向けてどうぞ」


相手には身長が高い人がいたり、ガタイの良さが目立つような相手だった。


「これより--/地区大会決勝の試合を初めます。互いに定位置について。試合開始!」


舞台は森の中。遠くからでは魔法は当たりずらいため、接近戦がこの場合、好まれるが----

かと言って無理に近づくと何処から遠距離支援される可能性がある。

アタッカーである私と彼女は二手に分かれて開けた場所を探し、そこにて接近戦を行うことにした。


「もらい!」


茂みから敵が襲ってくる。だがこれは。あまりにゆっくりすぎる。

多分防御魔法が張られているから一発では倒せないだろう。だとしたら狙いは

「後ろからの砲撃」


軽々と両方の攻撃を避け、隠れたやつに退場してもらう。


「なんであれが避けれるんだよ...」


このデカブツは私だけの攻撃では倒せそうにない。だから彼女を使うんだ---二手に分かれ、わざわざ遠回りしてきた彼女を。


「ぐはぁぁ!」


彼女はなんとか間に合ったようだ。


「ぜぇ、ぜぇ、わざと遠回りして、姿を消すのも大変ね」

「お疲れ。状況は?」

「後方部隊が既に三人倒してくれているわ。で、今エースの二人を倒したから残りは一人ね」


勝ったも当然だった。


「残りの一人はディフェンス?」

「だと思うわ。エースを失ったサポーター達はあっけなくやられたらしいもの。」


ではどこに後はいるのか---


「危ない!」


彼女の声と共に振り向くと魔法が飛んできていた。だがそれから私を守るために彼女は私を押し倒し代わりに受ける。


「大丈夫!?」

「良いから狙いなさいよ!」


これは試合、そう試合なんだ。

木々の間をぬって逃げている敵に狙いをつけて、魔法を放つ。それはしっかりと数多の練習通りに進み敵に当たる。


「試合終了!!優勝チームが決まりました!さぁ!拍手を!」


試合の終わりを告げるアナウンスが会場に響き渡る。


「大丈夫?」

「いいから、自分のすべきことをしなさい」


私は彼女をベンチまで運び、用意していたものを手に取る。そしてインタビューカメラに向かってとある紙を見せつける。


「私はここのお店に助けられて、試合に出ることができました。ここがなければ私は、魔法を捨てていたと思います。それに背中を押してくれたら母に監督。私が何度も挫けそうになっても、どんなに辛くても助けてくれました。チームメイトと共に過ごしてきた日々も忘れません」


魔法、やはり大好きだ。

私は歓声を前にしてどんな目をしていたのだろうか。



後日、とあるカフェにして。


「おかげさまで客足は増えたよ。ありがとう。またワクワクさせられた。まるで青春時代みたいだ。」

「それは良かった。私は当分行けなさそうだけれども、またあのテレビ、外に出しといてくれる?」

「ああ。またいつか帰って来れるように毎週外に出しておくさ。お前さんの母親が試合を見に来るだろうな。」

「あ、例の人来たから切るね。」

「おう。頑張ってな」


彼はサングラスをかけ、目の奥になにを宿しているのか分からない。


「さっそくだが...何のことだが分かっているね?」

「はい。あなたがスカウトということも」

「それなら話は早いな。私達と共にくるか?」

「私達というのは?」

「ケンウイッチ学園にある"血濡れた悪魔"こと"レッド・デビルズ"に」


夢にまで見た舞台。だがこれは始まりに過ぎない。ここから学園優勝に、世界一に。まだまだ達成しなければならない。それにまずはスタメンにならなければならない。


「ぜひ行かせてください」

「じゅあここにサインしてくれ」


私は自分の名前を契約書に書き記す。



「レミィ・ラピル」と。








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