第2話
試合から逃げた私はあれから17歳になるまで、清掃の仕事をしていた。
同い年の人間が活躍しているのを聞くのにも慣れた。
母が倒れてから私は清掃の仕事をすることで家計を楽にしようとしていた。
そして母には「魔法使いになりたくなくなった、興味が失せた」と嘘をついた。
その嘘は私と彼女、どちらにも辛いものだったと思う。
私は人生で最低な嘘をつき、
母は私に嘘を言わせた、と思っている。
「そこ、もっと綺麗にしてくれないか?」
「わかりました。急いでやります」
仕事の上司は厳しく、子供だからということで給料も安い。だが働けるのはここしか無かった。
帰り道に小さな家電屋さんがあり、そこでは金曜の夜になると道端にテレビを置き、魔法試合を流しているのだ。
私は母には隠れて毎週見続けた。
職場の人とご飯を食べていると嘘をついて。
ただひたすら試合を見続けた。
強力な魔法が相手を貫く、はたまたそれを防いで見せる。
そんな駆け引きはまだ私を魅了させていた。
「お前さん、魔法試合好きだな」
「ええ。昔やっていたことがあって」
いつもは話しかけてこない店主が話しかけてきていた。
「またやらないのか?試合」
「いやもう興味がなくて」
「それじゃあ毎週見に来ないだろう」
核心をつかれてしまう。私は自分自身を騙せたつもりでいた。だが私はもう一度、あの場所に立ちたかった。
「お金がなくて、それで母を助けるためにやめたんです」
「そうか。」
彼は髭をいじりながら試合を見続ける
「ここはなぁ、小さくてあまり客が来なくてな。毎週来ているのはお前さんぐらいだ。昔、むしゃくしゃして仕事を放棄して外で試合を見ようとしたらお前さんにテレビの前を取られてなぁ。そっから毎週出すと必ず来てくれるお客になったわけだ」
なんだか申し訳なくなる。私のために出していてくれたなんて
「私は...お金を払ったことがないのでお客なんて言えません」
「俺がお前さんのスポンサーになってやる。ユニホーム代も出してやる。代わりに有名になった時は宣伝してくれ」
「私は...」
答えが詰まっていた。
「また来週、答えを聞かせてくれ」
私は家に帰り、このことを母に打ち明けられずにいた。
私は試合に出たい。それでもまた私のせいで負けてしまったら----
私のせいで無駄にお金を使わせてしまったら----
そうなってしまったらどうやって顔を出せば良いんだ。
「どうしたの?」
いつの間にか母は帰ってきて、うずくまっている私の後ろで立ち尽くしていた。
痩せ細った母の顔を、薄く、それでも懸命に生きる手を見て思わず涙が出てしまう。
「お母さんに言ってみて」
私は泣きじゃくりながら
「もう一度試合に出たくて、それで、有名なったら、母さんを、絶対に」
「落ち着いて。大丈夫。聞くから」
徐々に涙が引いていき、落ち着きが訪れる。
「近くに小さな家電屋さんにこっそり毎週行ってた」
「それはどうして?」
「店主が私が魔法試合に興味があることに気づいて、外にテレビを出してくれてたの。それで今日、いつもみたいに行ったら話しかけられて。ユニホーム代とか出すから、代わりに有名なって宣伝してくれって」
母は黙っている。
「断ろうと思うの。仕事しながら試合はキツイだろうし、それにここら辺に私を入れてくれるチームなんてないだろうから。もし有名なれなかったら店主に迷惑かけちゃうし」
彼女は聞き終えるとただ一言
「魔法は好きなの?」
私は、私は
「好きだよ。」
「パシン!」
頬を思いっきりビンタされる。
「魔法が好きなのに、なんで諦めるの?」
「だって、だって迷惑かけちゃうから--周りの人に」
「そんな事は全力でやりきってから考えなさい!挑戦してもないことで後悔を考えて、恥ずかしくないの?誰に迷惑かけて、どれだけ不幸せなのか、なんていうのは死ぬ間際にしなさい。」
彼女は今までにない真剣な顔で私に続けて大きな声で伝える。
「成功するまで、達成するまで腹を括りなさい。心に地獄を宿しなさい。あなたは夢を成し遂げるためには全てを無駄にできると。苦痛も、失望も飲み込めると。」
私は歯を食いしばり、元気な声で母に伝える
「魔法が好きです」
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