第2話 協定

俺はその言葉を聞いた瞬間、目の前の人物を消すかどうかを考え始める。


誰とも話していない。さらに言えば学園側にも偽の情報で入学している。バレるはずがない。だが


「政府の人間か?」

「頭の回転は早いようで」


彼女はまだ笑っている


「目的はなんだ?」

「協力してもらおうと思ってね」

「断ったら?」

「君が超能力者であることをこの学園全体に広めよう。そして君が《西園寺財閥》の人間だということもね。そうすれば他の人達が好きにやってくれるだろう。分かるかい?西園寺 錝一君?」


人気がないとは言え、こいつはこいつなりに何が対策をしているはずだ。襲うのはまずいだろう。


「何の協力をして欲しいんだ?」

「とある超能力者を探していてね。君も探しているんだろう?」


セキュリティが甘すぎるな。うちは。


「そいつの情報は?」

「とある能力について、とこの場所にいることだけ。そいつは犯罪者なんだ。だから政府、私は追っている。そして捕まった犯罪仲間が能力とここにいることを教えてくれたのさ」

「"教えてくれた"じゃなく"吐かせた"、が正しいな。」

「そう嫌悪感を出さないでくれ。これは分かるかい?」


彼女はこちらにゆっくりと近づき、肩に手を置く。そして顔を近づけて


「これは君の父からも協力は貰った証だよ。分かるかい?このサイン。さっきは脅したりなんかしちゃったけど。父の命令なら背くわけにはいかないよね?」

「政府が一つの家に圧をかけるのか?」

「家じゃないだろう?頂点に立つ財閥なんだから。それに政府が闇に消してあげた事だってあるんだ。君の父上のやらかしをね?」

「分かった。協力しよう。」

「それしか無いけどね。もちろん見つけ出せたら君のことは何も言わない。ほら契約書にも書いてあるし、君の父の方にも残ってるから。がっかりさせないでね。」

「見つけ出せなかったら俺の正体を広めるのか?」

「どーだろう。言わないって約束したら君は本気出してくれないじゃん?」


気に入らない女だ。


「じゃ、これが私の連絡先だから。一応先輩だから何でも聞いていいよ」


彼女は携帯を取り出し、QRコードを差し出す。


「じゃあ聞いていいか?」

「何?」

「お前が黙ってくれる方法」

「君が私の先輩になること」

「気に入らない」


彼女は満足げに公園から去っていく。そしてものの数秒で姿が見えなくなっていた。


俺は彼女のプロフィールに目を向ける。


「神崎アリア...注意する必要があるな」





帰ってきてご飯を済ませると彼女のことを調べ出すことにした。部活は弓道、生徒会副会長。こんなことしかネット上では集まらない。


何か弱みが見つかれば、と思ったがそんなはずはない。彼女自身の弱みなど政府の人間である彼女が晒すわけがなかった。なら外堀から攻めるしかない。大切な人間などから。


俺は夜遅くだが図書館に向かった。そこには部活の情報もあるからだ。弓道部の情報、そして生徒会の情報から何か少しでも得れたら良い。


やはり人は誰もいなさそうだった。


入り口の壁に描かれた地図によると奥には部活動の履歴などが残っているようだ。


なぜか奥の学園記録室の前にゴム手袋が用意されている。慎重に扱うにしてもそこまでするのか?


自分の背丈よりも何倍も高い本棚を前にして圧倒される。ここから弓道部を探さないといけないのか。骨が折れそうだ。


ふとカーテンが締まりきっているせいでここが暗いことに気づく。


今夜は満月だったはずだ。月明かりがあればスマホのライトで照らさなくとも良いかもしれない。そうすれば両手が使える。


俺はそれに目をやると下から足が生えていることに気づく。こんな夜遅くにカーテンに隠れて何をしている?


わざと足音を立てて近づくが気づいていないのか、それとも気にしていないのか反応を示さない。


カーテンを捲ると、そこには心臓を抜かれた男性が立っていた。


綺麗に胸元に穴が空いている。それなのにあたり一面に血がないことから殺人は別の場所で行われたのだろう。


彼の手元に何かが握られていることに気がつく。


「手紙か?」


開けるとそこには

「汚れたっていい。ただ世の中は綺麗でなければならない。」とだけ書かれていた。


「あっれー?貴方は何をしているのかな?もしかして殺人?」


後ろから楽しんでいるような声が聞こえてくる。


「はい。写真撮ったから。貴方が犯人だって、学校側に突き出してもいいね〜」


不気味に舌を舐め、月明かりに照らされた人物が俺にカメラを向けている。


「来る途中の監視カメラに俺が映っているはずだ。それで犯人じゃないって証明できる。」

ならね?でもわざわざ心臓をくり抜くような人が図書館の、それも付近の監視カメラをオンにしていると思う?」

「何が欲しい?」


彼女は不気味に笑みを浮かべ続ける。


「実は殺人はこれで2件目、入学式の後すぐに1件目が行われてる。その発見者が私。学園側からは口止めされてるから〜無闇に協力者を探せないんだけど、」

「俺をはめたのか?」

「いやいや!まさかね!私が先に遺体気づいていたのに放置したりしないよ!」

「はぁ、なんで犯人を探してる?学園に任せれば良い」

「あいつらじゃ捕まえれないよ。だから私が捕まえるんだ!あ、違った。私たち、だね。」


こいつの笑みは気持ちが悪いが何か、惹きつけるものがある。目の奥に描かれた満月同様何かが満ちたような。


「質問に答えろ、なんで犯人を探している?」

「んーと。面白いから?」

「相手は殺人鬼なのに怖くないのか?」

「私、


これは俺に対しての挑発と受け取って良いのか。だが単純にこいつは頭がイカれてるだけかもしれない。


「この遺体どうするのか?」

「んー放置かな」

「だと思った。学園側に目をつけられたくないしな。それに」

「そうだね。もしまた私が見つけたとなったら怪しまれるしね」


俺は探し物を探しきれないまま図書館を後にしていく。


「わざわざゴム手袋を用意するあたり、気持ちが悪いな」

「用意周到は良いことだと思うけど?」

「お前が犯人だって決めつけられても良いぐらいにな」

「私ならわざわざ心臓抜かないから。保存するのに大変だし」


無事に誰にも見つからず抜け出す。


「じゃ、明日から聞き込みお願いね。」

「わかった。」

「スマホ出して」


これが定番の流れと化している気がする。


いつも通り連絡先を交換するとプロフィールの名前には「東雲 あずな」と表記された。


東雲...どこか頭の奥底でひっかかる名前だ。


「じゃ、頼んだよ。錝一ちゃん」

「ちゃん付けはいらない。それくらいなら身なりに気をつけてくれ」

「どういうこと?」

「チャックが全開」


彼女は恥ずかしそうに確認した後「これも用意に必要な過程で」とか言いながら去っていた。


はぁ、気が重たい。犯罪者である超能力者探しに殺人鬼探しか。ここ犯罪者多すぎだろ。


まぁ前者は目的である超能力者を見つけれるから良しとして、後者はどうすべきか。もしかしたら犯人に目星をつける段階で東雲からそれの噂話なども聞くかもしれない。


俺は満月を見てただあの笑顔を思い出すのだった。










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超能力者、誰笑う アリサ眠 @akumeme

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