第2話 食堂にて
「ここのうどんってあんまり美味しくないね」
おいおい、結構でかい声で言ったな。面が良いからっていつまでも毒舌キャラとして持て囃されると思うなよ。相応の年になってくるとただの痛い奴だぞ。
「まだ高校生だからいいんですー」
「はあ...まただ...」
HRのあの一件が済み、昼食時になって俺とこの思考盗聴野郎は食堂で飯を食っていた。我ながら自分の学習能力のなさに辟易する。こいつは「人の心が読める」っていうトンデモ能力があるじゃないか。ただトンデモすぎて思考を読まれてることをついつい忘れてしまうのは俺の適応能力の低さ故なのか。
「うーん、大体の人は最初そんな感じだよ。君が劣っているわけじゃない、誰だってはじめは動揺するさ。まあ慣れだね」
「あ、あのさ」
「うん?なに?」
「せ、せめて口にした言葉でか、会話してくれませんか」
「えー、それだとつまんないよ。『謙虚で人畜無害な人』を装う君は無味無臭すぎて話してて飽きちゃうよ」
このクソと会話して分かったことがある。それは、こいつはバカみたいに正直に思ったことをベラベラと口にするということ。さらにムカつくのがそれを言うときの表情は純粋な子供のように澄んでいて、少女漫画に出てくるベタベタの毒舌系イケメンのような、悪口のもつ粘り気を打ち消し、カラッとした印象にしてしまう顔面パワーを持っている。やけに語彙が堪能な点もおまけでムカつく。
「お、やっぱり君の『中』はいいね。内に秘めたる僕への憎悪がヒシヒシと伝わってくるよ」
「ああ、クソ...」
「プライバシーの侵害です!」などと盗撮にキレるタレントに対して、自意識過剰すぎだろなんて思っていた過去の自分をぶん殴ってやりたい。実際自分の一部を盗まれるのはとてつもなく不愉快なのだ。経験から学ぶことは多いが、俺の経験のクソ度はその中でもなかなかの物だろう。
「わ、わかり、わかったよ。じゃあ、おまえにた、対してはそ、その出来るだけ思ったことを口にするようにするから、せめて地上戦をしてくれないか」
「なるほど、そう来たか。うん、いいよ。承知承知」
「はぁ...お前さ、ほんと何なの。超能力者?メンタリスト?心理学者?ペテン師?どれ?」
「だから自己紹介のときに言ったじゃないか。『人の心が読めます』って。だから僕は『特技が人の心を読めるイケメン高校生』。それ以上でも以下でもないのだよ。」
うぜえ。自分の顔面に自信持ってるのもそうだが、「はあ、やれやれまたか」みたいなスカした回答が気にいらねぇ。
「じ、じゃあ、その『人の心が読める』ようになったのはい、いつから?な、何人まで読める?読むメリットや目的は?」
「他人に関心なさそうなのに、結構知りたがりだね。いいよ、答えてあげる。読めるのは生まれた時から。家系がそうなんだよね。読める人数は1人。メリットはその人の考えてることがわかる。目的は暇つぶしだね」
「メリットがひ、ひっかかる。アニメとかだとよ、読めること自体じゃなく、読んだ先にあ、あるのが鉄板だけど」
「中々鋭いね。まあ近からずも遠からずだ。君は何か中毒になっている物はある?パチンコとかタバコとか、ああ、君の場合スマホだろうね」
「き、決めつけるなよ...」
考えてみれば、俺の心が読まれている以上それは至極正当な決めつけなのだが。
「そうだなぁ、中毒になるものって最初はその快楽性に気づかないよね?何回かやったり使ったりしていくうちに依存していくでしょ。それと一緒。最初はちょっと面白いなって感じだった。けど読みまくってるとだんだんそれが気持ちよくなってきて読まずにはいられなくなってくる...いわば『心読中毒』だね。」
キモすぎだろ。他人の心読むのが気持ちよくて依存してる変態は流石に見たことないわ。
「キモイとかいうなよー。君の性根の腐り方を知っていても、その言葉自体が持つ切れ味は落ちないんだぞー」
「だ、だからこれは口にしてないだろ。せっかくき、気遣ったっていうのに」
「おっと、以外に優しいとこあるね。それとも嫌われるのが怖いからそうしたのかな?」
「ぼ、僕のことはいいだろ。ていうか、そのキャラ。すごくい、違和感ある。普通心読める奴って、こう...」
「『ひねくれものでどこか達観してるキレ者』っぽい感じ?人の心が読めて、人の悪い部分をいっぱい知ってるから?ふふ、君案外短絡的だね。それともそういうキャラが好きな厨二病なのかな?そうであってほしかった?」
クソうぜえ。コイツ、能力も含めてそうだがデリカシーというものが1ミリもない。相手を慮る気概を感じない。流石の俺でも引くレベルだ。ずけずけと人の心の内を読んで無作法にそれらを言葉でぶちまける。こいつは心読中毒と言ったが、違う。本当は「心読毒舌中毒」だ。読んだ上で、相手が効きそうな言葉を選んで虐める、クソサディスト野郎だ。
「あははー。そうかもねー。ちなみに僕はそういうイメージ通りのキャラが大嫌いなんだよ。だからこういう感じなのかもね。え、逆張り?おいおい、それは君もだろ。お互い様だ」
クソ。こいつに一杯食わすのは至難の技だ。しばらくは諦めよう。
「わかったも、もういい。大体なんでお、俺にこだわるわけ?」
「そりゃ一番君の『中』が面白そうだったからさ。君の目が言ってたんだ。『あーあ。つまんねぇクソしかいねぇな全く』ってね。周囲を見下し、蔑んでいた。しかしそれを外には出せない。解放できず自分の中に抑圧している。そのことにいら立ちを覚えてもいるから、また中が醸成する。こいつはいい、美味そうだって直感したね」
人の葛藤を美味そうと形容するのはこのクソサドくらいだろう。ふざけんな、要は一番拗らせてそうな奴だから選んだって、そう言いたいのか。生きてきた中で今までで一番聞かない方が良かったことだ。
「まあ君が特別ってわけではないさ。どこに行ってもそういうやつは1人や2人いる。僕はそういうやつが好物なんだろうね。いままで読んできて、そういうやつらが狼狽する顔を見るのが一番テンション上がったわけだ」
こんなクズをのさばらせておいて今後この国は大丈夫なのか。ネットで散々クズというクズを見てきた。意味もなく住所を特定するバカ。環境活動と言って名画にペンキをぶちまけるアホ。親のクレカをソシャゲに使い込んでたガキ。こいつの前ではそいつらはもはや聖人とさえ思える。人生に満足できない奴の思考を読んで、そいつの痛いとこをつっついて嘲笑する。それの中毒。ゲロ以下のにおいがプンプンする。
「ひどい言われようだなー。誹謗中傷だよ、これは。そうは言うけど、クズ度でいうと君も僕と変わらないんじゃない?人の表面的な情報と自分の偏見でその人を決めつけて頭の中で腐す。僕は正直に外に出している分、幾分か君よりましだと思うけど。おいおい、そんな顔するなよ。あーやっぱりこの手の言葉は効いちゃうよね。おもしろ」
「も、もうやめてくれよ。勘弁してくれ。これいつまで続くんだ...」
「1年間だね。こいつと決めたら1年は付きまとうって決めてるんだ。だから1年よろしくね」
冗談じゃない。こんな変態に1年も思考盗聴され続けたらそれこそ頭がおかしくなってしまう。
今は4月。新学期が始まったばかり。春、出会いの季節。最悪の出会いと最低の1年を約束された俺の高校生活はこれからも続いていく。
牛島の日常と転校生 @KEN0025
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