牛島の日常と転校生
@KEN0025
第1話 教室にて
「昨日のサッカー見た?菅君超カッコよかった!ヴィジュ最高だったよね!」
きっしょ。何がカッコいいだよ。プロサッカーなんだからプレー見ろよプレー。実力でその選手評価しない奴ってほんとゴミだわ。あの手の女はスタジアムでユニフォーム着て応援してる自分が一番好きなんだろうな。その選手応援してる自分が好きなんだろうな。自己顕示欲強すぎてキモい。
「あーマジでBTS神。好きすぎてつらい。」
あーでた。キモい。韓流アイドル好きな奴も推してる自分好きなだけ。てか俺からすれば全員同じ顔過ぎて見分けがつかん。結局カッコよかったらなんでもいいんだろうな。頭使わなくて楽なんだろうな。LINEの名前とかハングルにしてんだろうな。
「暁ちゃんの配信可愛かったなー。一生推すわ。次の配信スパチャしようかな」
うわー、一番キツイかも。Vtuberの話を学校でする奴の気が知れん。可愛かったってなんだよ。中身知らないのに声だけでそう思えるなら世界一の幸せもんだな。一生推せるわけねえだろ。どうせ男いんだよ。それバレて引退すんだよお前の推しは。だからスパチャとか無駄な献金はよしとけって。
全くしょうもないことに夢中になるしょうもない奴しかいないのかこの学校は。キモイことにハマってる奴しかいなくて辟易するわ、マジで。
「お、牛島いた。よーす、おはよー」
「あ、ああ。お、おはようた、竹山くん」
ただし竹山だけはその中でもマシだ。なんせ逆張りせず、俺が勧めた漫画を読んでくれるし、感想もくれる話の分かるやつだ。
「この前勧めてくれた、なんだっけ『サマータイム』...」
「さ、『サマータイムレンダ』ね!?面白かった!?」
「ああ、それそれ!超おもろかったよ。SFとかタイムリープとかって難しそうで嫌煙してたけど、意外と読めるもんだなー」
「で、でしょ!あ、あれは中でも読みやすいんだよ。あれハマったならアニメのし、『STEINS;GATE』とかも最高だよ。あーで、でも最初の方はあんまりかもなー竹山君あんまりアニメ見ないもんねキャラがちょっと個性強すぎっていうかでもそれが伏線になってたりもして」
「へーアニメはあんまみる気しないなぁ。あ、ごめん部活の友達来ちゃったわ。またいい感じの漫画教えて」
「あ、ああ。うん...」
竹山はその友達の方に寄っていき、明るく気さくに声をかけていた。ああ、失敗したなぁ。漫画の話してるのにアニメの話するの超キモいよなぁ。しかも超オタク向けの。話が通じない奴だと思われてないかな...。
…なにをやってるんだ、俺は。陽キャに話しかけられて舞い上がって無理に話拡げようと必死で頭働かして、挙句1人反省会。さながら飼い主に好かれようと媚びる犬だな。本当に終わっている。というか部活の「友達」ってなんだよ。俺は友達じゃないのかよ。いやこれもメンヘラみたいでキモい。朝からここまで自己嫌悪になれる才能だけは我ながらすごいと称え、自己評価をプラマイゼロにしておこう。
「ねー、竹山あんなチー牛ほっといたらいいのに、何で話しかけてんの」
さっきのBTS女と竹山が話しているようだ。
「え、牛島面白い漫画紹介してくれるし、話してみると結構おもろいよ。あいつの良さがわからないとは佐山もまだまだだな」
「えー、あいつにいいとこなんかないでしょ。帰宅部だし、勉強もそこまでできないし、マジでなんのために生きてんだろね」
竹山に対する好意が高まったのに対し、BTSバカ女に対しての殺意が高まった。やっぱり信じられるのは竹山だけだ。気まぐれで話しかけてくれるあの時間をもっと尊いものにしなくては。
「静かにしろ―。ホームルーム始めるぞー」
担任の男性教師の声が教室に響く。その声はバカどもには聞こえていないのか、教室はまだ騒がしい雰囲気に包まれてる。
これだから騒ぐことしか能がないクソは困るんだよ。大体そんな喋ることもないのに何をベラベラ喋ってんだ。注意しないあのバカもバカだけどな。
ようやく教室が静まり返ったとき、担任教師は意外なことを口にした。
「今日は転校生がきています」
転校生。どうせ似たようなバカかクソが増えるだけだな。どうでもいい。ま、竹山みたいな奴なら認めてやらなくもない。
「さ、入っていいぞー」
担任が入室を許可したところ、その転校生は扉を開けて教室に入ってきた。
「じゃあ黒板に名前書いて、軽く自己紹介」
チョークを手渡されたそいつは自分の名前を縦に、一文字一文字を顔の大きさぐらいのサイズで書いた。
早見爽。
ぱっと見の印象は、美しい美青年を想起させる。爽。この名前で顔面がお粗末だったときを想像できない両親は頭が悪いんじゃないか。むかつくことに、実際は印象通り清潔感あるの爽やかな顔立ちなんだが。
「早見爽です。父の転勤の都合で転入してきました」
当たり障りのないつまらない挨拶だ。この挨拶で満足する奴は「え結構イケメンじゃない?」などと脳死で浮足立っているあのバカどもくらいだろう。
「特技は、人の心が読めます」
ハッ。ここまでユーモアのないバカとは。これではさっきまで浮足立っていた奴でさえ興ざめだろう。
「例えば、そうだな。その後ろの方の髪が長い、うーん、オタクっぽい人!」
え、とつい声が漏れてしまう。よりにもよって俺をご指名か。最悪だ、ダシにしやすそうなやつを見た目で選びやがったなクソが。どうせ「彼は今エッチなことを考えています!」とかそういう類のクソユーモアで場を和ませようとでも思っているんだろ。これだから顔が良い奴は。お笑いを必要としない人種はさぞ楽でしょうね。
そんなことを考えていた俺はこの後早見が口にした言葉で、顎にアッパーをかまされるくらいの衝撃を味わう。
「そうだな、彼は『爽?この名前で顔が良くなかった時の悲壮感を想像できない両親はアホなんじゃないか』と思っています…って僕の両親を馬鹿にしないでください!でもカッコいいと思ってくれてるのは嬉しい。ありがとう。」
なん...だと...。
俺は本物の超能力者と出会ってしまったのかもしれない。
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