5章目:弟子
「立花が店長やってるの?高校生なのにすごいな。」
「正確には代理ね。お父さんが今、出張で不在なの。」
そう言いながら、彼女の視線がふと家族写真に向かい、その瞬間、彼女の緑の目が少し寂しげに伏せられた。けれど、それはほんの一瞬で、俺の気のせいかと思うほど短いものだった。
「さて、店の奥を案内するわ。こっちへ来て。」
立花はそう言って軽やかに歩き出した。驚いたことに、店にはさらに奥があるらしい。外から見たときには狭く感じたのに、まるで迷路のように長い廊下がどこまでも続いていた。廊下の両側にも、数々の骨董品がところ狭しと並べられていて、通れるスペースは極めて狭い。俺は、もしこのまま立花についていったら、本当に不思議の国に迷い込むのではないか、そんな気持ちすら湧いてきた。
立花はどんどん進んでいき、俺はその背中を見失わないように必死についていったが、ふと急に不安が胸をよぎった。
「さて、ここよ。」
立花が足を止めたのは、応接間のような部屋だった。壁には相変わらずアンティークが飾られているが、それ以外はどこか落ち着いた空間だ。彼女は皮張りのソファーを指し示して、座るように促した。
「ここにどうぞ。」
「あ、ああ……」
何がどうなっているのか、頭の中が混乱していたが、とりあえず言われるがままソファに腰を下ろした。心の中では「どうしてこんなことになっているんだ?」という疑問がぐるぐると回っている。
「今、お茶を入れてもらっているから、その間に話を始めるわ。」
立花は俺に向かってにこりと微笑む。お茶?人気がなかったのにいつの間に人にお茶を頼んでいたのだろうか。
「えっと、どんな話を……?」
「単刀直入に言うわ、森戸くん。いえ、達也くん。」
突然、彼女が俺の名前を呼んだことに、思わず心臓が跳ねた。
「私の弟子として、一緒にアンティークが抱えている“思い出”を救ってくれない?」
「えっ……はい?」
俺はあまりにも突拍子もない申し出に、戸惑いと混乱で頭が真っ白になった。
ただ、どうやら憧れの立花乃亜の弟子として俺は認定されたらしい。
Lost and Found Memories みたらし団子 @janeausten
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Lost and Found Memoriesの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます