第4章:ようこそ

「すげー……。」

中に足を踏み入れた瞬間、俺は感嘆の声を漏らした。店内は外見からは想像できないほど広く、そして、目の前には信じられないほどの数のアンティークが溢れていた。まるで別世界に迷い込んだような感覚に包まれる。

壁一面には、何十枚もの金銀の縁取りをされた鏡が並べられ、どれもが俺の動きを捉えていた。棚やテーブルには無数の家具や装飾品が所狭しと敷き詰められ、何語かもわからない古い書物や、魔法小説でしか見たことがないような水晶玉が静かに鎮座している。入り口で見かけた、あの奇妙な猫の置物も、店内のあちこちにずらりと並んでいるのが目に入った。

「ん?」

ふと目を引いたのは、壁に飾られた一枚の写真だった。そこには、家族の姿が写っている。右には優しそうな外国人風の男性、左にはおそらく日本人らしい大人しそうな女性。そして、その真ん中には……。

「立花?」

まさか。いや、そんなはずはない。しかし、写真の中央に写っている少女は今よりもずっと幼いが、整った顔立ちはどう見ても立花乃亜にそっくりだった。なぜ、彼女の写真がここに飾られているんだ?

「呼んだ?」

「うわっ!」

突然背後から声がして、驚いて振り返ると、そこには立花乃亜本人が立っていた。信じられない光景に目をひん剥いた。

「立花!? いつの間に……」

まさか、こんな偶然があるのか?脳内が一瞬で混乱した。

「まさか、店が森戸くんを呼ぶなんてね。」

立花は、少し楽しげに俺を見つめている。その表情はいつもの無表情とは違い、どこか不思議な笑みを浮かべている。

「えっと……」

どう反応すればいいのかわからず、言葉が詰まる俺を見て、立花は肩をすくめた。

「まあ、いいわ。森戸くん、Lost and Found Memoriesへようこそ。ここは、持ち主が忘れた大切な記憶を取り戻すアンティークショップ。そして、私はこの店の店長を務めているの。」

そう言って、彼女は初めて俺の前で、驚くほど明るい笑顔を見せた。その笑顔は今までの立花とはまるで別人のようで、思わず見とれてしまった。

あー、我ながらちょろいな、俺。

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