終演:訪ねてきた女性。
僕は20歳になって地元の大学に進学していた。
そして家を出て今は共同アパートで一人暮らしをしている。
一人暮らしだけど孤独じゃない・・・って言うかもともと人と関わるのが
苦手だったから寂しいとか思ったことはない。
友達はいるけど自由でいたいから自分から率先して付き合うってこともない。
大学に入ってからタンデム「二人乗り」ができるバイクを買った。
そのバイクでデジカメ持参でど田舎まで走りに行く・・・それも妖怪が出そうな
場所に・・・。
僕の地元には田んぼの真ん中の所々にこんもりした森があってそこに小さな祠が
祀られている場所がいくつも点在する。
昔、戦国時代その辺で戦があったんだそうだ。
夏草やツワモノどもが夢のあと・・・まさにそんな感じ。
行った先で休憩しながら、時々寝寝子ちゃんのことを思い出したりする。
今頃、なにしてるんだろう・・・って無性に会いたくなる。
そして森や田舎の景気を写真に収めてメンタルをリセットしてアパートに
帰って来る。
大学の友人に、おまえは変わってるなってよく言われるけど自分ではまともだと
思ってる・・・価値観が違うだけだよ、それは。
寝寝子ちゃんがくれた「めがね」は今もクレーンゲームで取ったぬいぐるみが
かけている。
いつか彼女が僕のところに帰って来た時のために大事にしてるんだ・・・。
そんな折、一人の女性が僕の共同アパートに僕の部屋を訪ねて来た。
その日は大学も休みで、朝方ドアホンが鳴ったから誰かな?って思ってドアを
開けた。・・・そしたら、なんと・・・。
「え?・・・ね、寝寝子ちゃん?」
「
寝寝子ちゃんは三年前より少し成長した感じで垢抜けした女性になっていた。
「寝寝子ちゃん訪ねて来てくれたんだ、嬉しいよ」
「どうしたの?・・・黄泉の国からこっちへ遊びに来たの?」
「そうじゃなくて、私一人こっちへ引越してきたの」
「え?そうなんだ・・・あ、どうぞ、部屋に入って入って・・・」
「ここさ、ほんとは女性の連れ込みが厳禁なんだ・・・でも管理人さんに
見つからなきゃいいから・・・厳禁なんて言ってるけど、誰も守らないんだ、
連れ込み旅館みたいに毎晩、誰かの部屋に男や女が出入りしてるからね・・・
いいかげんなんだ」
寝寝子ちゃんはクスッて笑った。
「そ〜なんだ、引越して来たんだね、よく僕を訪ねて来てくれたね」
「でも、よくここが分かったね」
「私、妖怪だから・・・」
「畦道君のことが忘れられなくて・・・クラスで私と仲良くしてくれたの座道君
だけだもん」
「みんな私のこと気持ち悪がって、分かるでしょ?・・・」
「大丈夫だよ、僕はいつでもウェルカムだからね」
「私、この近所の神社に間借りさせてもらってるの」
「ご近所の神社?・・・って言うと・・・あ、
「今日は挨拶に来ただけだから、もし私に会いくなったら訪ねてきて・・・畦道君」
「私ね、もう黄泉の国にも帰るつもりないの・・・ずっとここで暮らすから」
「できたら前みたいに仲良くしてくれると嬉しいな」
「もちろん・・・君のことは片時も忘れたことなかったからね・・・」
「君がここに帰って来てくれることずっと信じて待ってたんだ」
「僕の気持ち分かってるだろ?」
「これからの人生、君と寝寝子ちゃんと一緒にいたい・・・迷惑じゃなかったらね」
「それからコンビニおにぎりはちょっと高いから、スーパーのおにぎりでも
いいかな?」
寝寝子ちゃんはクスクスと笑うと、はっきり「うん」って頷いた。
おしまい。
不思議物語。〜食わず彼女〜 猫野 尻尾 @amanotenshi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます