第3話:喰わず彼女。
「さっそくいただいてもいい?」
「いいよ・・・食べて食べて」
寝寝子ちゃんは、嬉しそうに後ろ髪をたくし上げると、なんと後頭部に
デカいクチがついていた。
そして、よだれを垂らしながら舌舐めずりした。
で、後頭部のクチを開けて僕が買って来た、おむすびをアッと言う間に平らげた。
その光景を真近に見た僕は怖いとは思わず、逆に感動すら覚えた。
こんな劇的なシーンが観れるとは・・・生きててよかった。
「まあまあ・・・お下品な・・・もっとゆっくり味わってお食べなさい」
寝寝子ちゃんのママが言った。
パパは歯の抜けたクチをバカみたいに開けたままケタケタ笑いながら見てる
だけだった。
で、寝寝子ちゃんが言った。
「私たち、明日お引越しするの」
「え?・・・引っ越すの?・・・どこへ?」
「人間の世界にもずいぶん長くいたから、そろそろ黄泉の国に帰ろうと思って」
「黄泉の国だって?」
「だから、もうお別れだね、お友達になってくれて仲良くしてくれてありがとう」
「古里君・・・これ受け取ってくれる?」
そう言って寝寝子ちゃんが僕に渡したものは、それは「めがね」だった。
牛乳瓶の底みたいな印象的な「めがね」・・・寝寝子ちゃんの一部。
顔からメガネをはずした「寝寝子ちゃん」はやっぱり可愛かった。
「私ね、コンタクトレンズにしたの」
「古里君にあげるものがないから、そのめがねあげる・・・受け取って」
「そして私だと思って・・・大事に持っててね」
「こんな大切なもの貰えないよ・・・そうだ今度君に逢えるまで大事に預かっとく
から・・・きっと会えるよね、また」
「うん、きっとね」
まるで、その日の出来事は狐につままれたような出来事だった。
次の日、寝寝子ちゃんはやっぱり学校に来なかった。
僕は下校時、寝寝子ちゃんの家を訪ねてみたら、そこに古民家は無くなって
いて小さな社がポツンと祀られていた。
妖怪の中に「おむすび」がすこぶる大好きな女の子がいて、その妖怪の名前を
「喰わず女房」って言うんだそうだ。
さしずめ結婚してない寝寝子ちゃんは僕にとって「喰わず彼女」ってことに
なるのかな。
つづく。
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