実れよと
八重が渡した根っこは、後日わらび餅になって白陽の元に届けられた。茶の時間、八重は
八重が拾った一番大きな蛤は、潮汁になって白陽の膳に乗った。八重は誇らしげに微笑んで、この蛤は八重が見つけたのだ、と白陽に告げる。白陽は喜んで、大切にいただかなくてはね、と柔らかく笑った。
稲はすくすくと育って風に揺れる。八重は山に入るよりも、田畑で過ごすことが多くなった。近くにいれば何かと手を動かすことが見つかるもので、草を引いたり、水の具合を確かめたりと、毎日忙しく動き続ける。
稲はやがて分けつし、出穂して白く小さな花を咲かせる。八重は、たくさん実りますように、と祈りながら、田んぼにたっぷりと水を張った。
白陽が目覚めると同時に災厄が目覚めるのであれば、神々にとって今一番必要となるものは神気や信仰心だ、と八重は考えていた。神米は、この上天にある他の何よりも神々の御力になる、と。
白陽にたくさんの御力を奉じたい。そして、皆にたくさん召し上がってもらって、御力を付けていただきたい。少しでも多く光を宿し少しでも多く実りますように、御力になりますように、と、八重は一心に祈りながら田の世話をする。穂を付けて風にそよぐ稲を前に、八重は毎日両手を合わせ祈りを捧げた。
穂は膨らみ、色付いて重く頭を垂れる。ざあと音をたてて風に揺れる稲穂は、まるで過日見た海のように波立って黄金の光を放つ。淡い光は田面を埋め尽くさんばかりに広がって、力強く実ったことを伝えていた。
八重は鎌を持って田んぼに足を踏み入れる。鎌を引けば茎は太く、確かな手応えを感じる。八重は、どうぞ御力になりますようにと祈りながら、稲を刈り続けた。
束ねた稲は稲架掛けされて、夕日を受ける。赤く染まる空に黄金の光が煙るように舞い、煌めきを放つ。八重はその光景に、もう一度手を合わせて祈りを捧げた。
「稲穂を、白陽様に奉納致します」
八重は白陽の御前に稲穂を積み上げ額づいた。
「ああ、受け取る」
稲穂は光の渦となって掻き消える。白陽の指先が眩い光を湛えた。
「八重、手を出しなさい」
「はい」
八重は頭を上げて、両手を差し出す。空中に光が集まり、燦然と輝く玉となって八重の手のひらにゆっくりと降りてくる。いつものように弾けずに、八重の手の上で玉はこうと強い光を放ち硬く固まった。
「これは……」
光が落ち着いたあと、八重の手のひらには白く煌めく
「それは我が力を固めたもの」
白陽は穏やかな声音で、八重に話しかける。
「時がくるまで、八重が預かっておくれ」
「はい……!」
八重は手の上の勾玉をぎゅっと握りしめて押し頂く。何より大切な御力を預ける先に八重を選んでもらえたことに、巫女として誇りを抱きながら。
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