花見に団子
「八重ちゃん、お花見しよう!」
稲は分けつを迎えた。山から戻り家守に山菜を届けた八重に、丁度居合わせた
「あのね、
眠っていた影響で、今年は果物がとれそうにないらしいんだよ、と
「梅と桜と桃が、全部満開なんだよ! これはもうお花見だねって、女神で集まることにしたの!」
「私がお邪魔してよろしいのでしょうか」
「もちろんだよ! この間小豆を貰ったでしょう? お団子作るから、一緒にお花見しようよ」
「お誘いいただいて、とてもうれしいです。ぜひご一緒させてください。いつ伺えばよろしいですか?」
「えっとね、いっぺんに咲いたから、いっぺんに散りそうなんだって。だから急だけど、明日の昼過ぎに鼠のおばあちゃんのお屋敷に集合ね!」
「はい。たのしみにしております」
じゃあ明日ね、と手を振って帰る
浮き立った八重の様子に、
屋敷に戻って家守に大豆を見せると、「枝豆か!」と言って湯掻き方を教えてくれる。共にやろうか、と翌日昼前から小上がりに並んで腰掛けて枝豆のさやの両端を鋏で切り落とし、沢山の塩を揉み込んで、たっぷり沸かした湯で湯掻く。「少し取り置いて、白陽様にもお出ししようか」という家守の言葉に、八重は恥じらうように微笑んで「はい」とこたえた。
井守は「これが無いと始まらぬだろう」と御神酒の入った徳利を持たせてくれる。八重は
ナズナを頭に乗せて、徳利と枝豆の入った包みを携えて、八重は
「よう来たねえ。さあ、お上がりなさいな」
「お招きいただきありがとうございます」
中庭に出るからねえ、履物は持ってあげようねえ、と八重の草履を持って歩き出す
果樹の立ち並ぶ広い中庭に、見事に花が咲き誇っている。春の兆しを告げる梅に、春の訪れを告げる桃。春の盛りを告げる桜が一斉に咲き揃うその様は、今ここでしか見られない絶景だった。
「八重ちゃん!」
花煙る中庭から、
「皆様、もういらしてたのですね」
「私達は準備してたからね! 私がお団子で、ひーちゃんが敷物で、さっちゃんがお茶なの」
「儂は茶葉を持ってきたばかりだがのう!」
「私は、井守さんから御神酒を、
「ほう、それは良い」
後ろから、音もなく
「ほら、巫女殿も座っておいで」
「はい!」
「さあ、食べよ!」
声を弾ませて
八重も、包みを開いて枝豆を出した。
八重も一串手にとって、団子をぱくりと頬張った。きめ細やかで繊細な舌触りのこし餡は口溶けが良く、柔らかくもちもちとした団子と一体になって口の中を幸せで満たす。上品な甘みの余韻を程よい渋みの茶で流せば、いくらでも団子が食べられる気がした。
蓬団子の方は、口に入れた瞬間感じる青く爽やかな蓬の香り、そこにぼってりとした粒餡の食感と団子のもちっとした柔らかさ。ほんのりとした苦みに餡子の甘さが良く合って、なんとも美味しかった。
「私も、お団子食べる」
暫くすると、中庭の奥から
見上げれば、花が空を覆わんばかりに絢爛と咲きこぼれている。ナズナは楽しげに、花から花へと飛び回っている。八重は感嘆の息を吐いて、花の合間から差す陽の光に目を細めた。
「きれいだねえ」
「はい」
共に花を見上げていた
「それに、美味しくて、たのしいねえ」
「はい!」
穏やかに吹き抜ける風に花弁舞う中、ふたりは顔を合わせて、花咲くような笑顔を浮かべた。
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