猿守
一日働き、八重がナズナと共にのんびり風呂に浸かっていたときだった。遠くに声が響き何やら騒がしくなって、ガラリと脱衣場の扉が開かれる音がした。「お待ち下さい、今は八……」と焦った井守の声が扉越しに聞こえたかと思えば途中でぴしゃりと遮られ、驚いた八重が何事かと目を向けたとたんに、風呂場の扉が勢い良く開かれた。
「儂が! 風呂に! 来たぞ!!」
徳利とお猪口の入った桶を小脇に抱え、手拭いを肩にかけ、全裸で威風堂々と姿を現したのは
八重は呆気に取られて
「どう、まあどういたしましょう、先に浸かってしまい申し訳ありません。私は失礼いたしますね」
「気にすることはないぞ、共に風呂に入り親睦を深めようではないか!」
「ん? なんじゃ? ばっちくないぞ、神なのだから
「あ、いえその、はい。ではお言葉に甘えます」
腰を上げたものか下げたものか迷ったが、固辞するのも失礼にあたるだろうと八重は湯船に身体を浸ける。
八重は少し身を小さくして、寛ぐ
そう思えば、気恥ずかしいような、誰かと共にできることがうれしいような。胸をむずむずとさせて、八重は顎先までちゃぽんと湯に浸った。
「ええ湯じゃのぅ!」
その様子に、八重は
「
「ん? ああ、
「しかしこの酒は美味いな! 良きことじゃ! 米も分けてもろうたぞ。あれも実に佳良であった」
「まあ、それは良うございました」
八重は喜んで顔をほころばせる。
「
「はい、日々
「そうかそうか、それは結構!」
家守の作る料理はとても美味しくて、毎日の食事がたのしみなのだと八重が言えば、
ナズナも楽しげに舞って湯に花を撒く。打てば響くような小気味よい会話はとてもたのしくて、こんなに喋ったのは久方ぶりだと八重は息をついた。つい余計なことまで喋った気がしたが、お互い肌を晒して共に湯に浸かっているのだから、これ以上取り繕うことは、何もないように感じられた。
なるほど、里で皆が言っていた「裸の付き合い」とはこういうことだったのか、と八重が感心していると、
「しかし忌々しい神もおるじゃろう?」
「はい……?」
不意を突く
「
「いえ、そのような」
八重は戸惑って
急に湯当たりをしたのかもしれない、と八重は額に手を当てた。くらくらと、思考に霞がかかる。
「のう、巫女殿」
霞の先で、
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