筌
翌朝、八重は田んぼに行って、稲の様子を確かめた。分けつが始まったので止水板を上げ、田んぼの水を抜き始める。
水が抜けていく様子を見守りながら、八重は昨日割いた竹を麻紐で編んでいった。八重には竹の加工に関する知識がないのだ。本来なら竹は切った後乾燥させなくてはならないし、油抜きも必要だ。火で炙って竹を曲げる方法も知らなかったし、割いた竹の太さはまばらだった。
思うように出来ず首を傾げ、苦心しながらなんとかそれらしい物を作り上げる。田んぼの水はとうに抜け、いつの間にか日も高くなっていた。
「行こう、ナズナちゃん」
八重は
「
八重は川に着き、川辺に膝をついてから水面に向かって声を掛ける。水面はせり上がって、
「思うたより早かったの。どれ、見せてみよ」
「不出来ではございますが……」
八重はおずおずと
「魚があまた入るよう、
「なんとまあ、有難いことでございます。なんとお礼を申し上げてよいのやら……」
「よいよい。一番の大物を、白陽様へ献上しておくれ」
「もちろんにございます!」
「うむ。ではゆくぞ」
「はい!」
「本当にありがとうございます」
「なに、構わぬ」
「あの! わかめも、芽かぶも、昆布の出汁も、とても美味しかったのです。白陽様のご相伴にあずかりました。ありがとうございました……っ!」
「そうかそうか」
「また取ってきて進ぜよう。なに、泳ぐついでに爪にかけてくるだけのことよ」
「はい……! 楽しみにございます!」
約束を交わし、八重は微笑んで
翌日、歌を奉納して朝餉をとり、田の様子を確認した後八重は
なんとか
「ひっひえっひええ」
八重はどっと尻もちをついた。
八重は
「いっ井守さん! 家守さん!!」
「どうされたのだ、八重殿」
血相を変えて戻ってきた八重を、家守が迎える。今朝、嬉しそうに
「これっこっどういたしましょう!!」
八重は震える手で
「どうなさったのだ」
井守は八重の差し出す
「うわあ! 何事だこれは!!」
「なんと面妖な……」
「
「
「どうすればよいのでしょう! どうやって取り出せば!!」
井守と家守はなんとも言えない顔で
「一先ず口を開けてみるか……?」
「そうするより他あるまいよ……」
「いや待て、大きな桶を持ってこよう」
「それが良いな……」
家守は慌てて土間の奥から桶を出してくる。井守は
「……ゆくぞ」
桶を目掛けて
「…………どうやって出たのだ!!」
「…………
「あわ、あわわ」
家守は大声を出し、八重はいっそううろたえた。井守はしげしげと
「いや待て。まだ入っている」
井守はそう言って再び
「どうなっておるのだ……」
「神の御業としか言えんな……」
「ひえ、ひええ」
八重が初めて作った不格好な
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