悲恋の花束
白熱鴇
嶺上開花
「なんで?」
あの湖の上で言ったとき、████の一声はそうだったよね
金木犀を髪につけた君は泣きながら続けてこう言った。「ばか」
そうだよね。楽しかった。だけど僕はもう思い出すのも難しい。
確か最初に君に会ったのは大学の頃だ。何をやってもダメ、いつもうまくいかない、失敗ばかり重なって気づけばどん底にいた。昔から僕は周りの人間からは疎まれ、孤独に逃げて弱い自分を隠せずにいた。
そんな時に君と出会った。弱みを素直に晒して縋りついた時に君ははにかんで僕を包み込んでくれた。君は僕に足りないものを持っていた。君と出会ってから僕は笑うという行動を思い出せた。君といた時はとても人間らしい生き方ができたと、そう思う。一体きみといくつお揃いの跡を残したのか、出会ってから何回語り明かしたのかもわからない。誰かに必要とされるしあわせを教えてくれたのも君だった。
「ごめんなさい。ありがとう。さよなら。」
そんな呪縛を君に残して僕は君の心から去ってしまった。
今でも自分が馬鹿だと思う。
…これはなんなのだろうか。誰かのジオラマなのか。それとも失ってしまった僕の記憶?
ゴーンという時計の音で幻想から戻った。
「深く考えるのもこの辺にしよう」そう思いながら僕は支度を進める。
コンコン とノックされて私は応対する。出てきたのは黒い服を着た髭面の人だ。「準備はどうだ?」と聞かれ、僕は「もう少し待ってください」と返事をした。
まだやり残したことが沢山ある。それに猶予はまだ4日もある。
そうすると黒服は「そうか。」と言い、続けてこういった。「地球の全人類の身代わりとなって十字架に架けられても本当にいいのか?」
僕はそっけなく「断る理由がない」と返した。
そうしたら黒服は黙り、独り言のように「ありがとう」とか細い声で言った。
そうして黒服は帰っていった。
準備を全て終わらせ、一日が終わった。
残り3日
僕は音楽が好きだ。音楽の美しい旋律は、素直であり、乱れることもない。人間と違って音楽は明確で曖昧さがない。特にピアノは鍵盤を叩くことで音が出る。一つの鍵盤を叩けば、必ずそれに対応した1つの音が鳴る。
久しぶりに聞こうと思い、レコードを選ぶ。
ベートーヴェンの月光にしようか、モーツァルトのレクイエムにしようか、それとも、リストのラ・カンパネラにしようか迷う。
悩んでいる時間がもったいないので僕は朝食を取りながら考えることにした。
朝食を食べ終わり、僕は結論を出した。レクイエムにしよう。
そう思っているとノックの音が聞こえる
「どうぞ、入って」
ドアが開いたら████の姿があった。
「えっ……あっ……?」
僕は驚きすぎて声も出ない。
████は僕とは裏腹に微笑みながら部屋のピアノを指差して「一緒にひかない?」と促す。僕は考えるのをやめて椅子に座ってよく████とひいてた曲を演奏する。
ピアノの心地の良い音色が耳を通り過ぎる。
最後の仕上げに成功して少し落ち着いた。████になんで来たのか尋ねても何も答えてくれない。夕日が窓を叩き始めたら帰ってしまった。
明日からの予定は未定だ。時間はまだある。ゆっくり考えよう。
そうして一日が終わる。
残り2日
机の上で目が覚める。どうやら予定を考えているうちに眠ってしまったようだ。
とりあえずシャワーを浴びよう。
シャワーを浴び終え着替えてからはツーリングをして遠くの山まで行った。ここには昔、████と来たことがある。あの時は今と違ってお互いの愛をお互いに預けていた気がする。
昔来た時とは違ってここにはもう人がいない。
ずいぶん寂しくなってしまった。湖のあった場所にできたクレーターを見ながら改めてそう思った。私はその寂しさを紛らわせるかのようにラブソングを聴いてみる。僕は適当に曲を流す。
独特なギターの出だしから曲が始まる。
どうやら駅で別れを告げることになったカップルの歌のようだ。
この曲は確か映画にもなっていた。
だけど僕はひねくれてるせいか人類愛をテーマとしたつまらない戦争の映画にしか見えなかった。この時代で戦争をテーマとすることは珍しくなかったけど、恋愛要素があることは思いもよらなかった。
少し前に月が何者かに乗っ取られてから地球の世界各地に隕石のような何かが落とされた。その隕石はどうやら “何か” が居たらしくその辺りに住んでいる人たちを殺していったらしい。僕はその時自分以外の家族を殺されて天涯孤独の身となった。
地球側も黙ってはいなかった。連合軍が結成されて“何か“を鎮圧しようとするも連合軍は一方的にやられてしまった。その時僕も入隊していたらしいがどうやら記憶喪失になってしまったらしくこれ以上はわからない。
ただそんな今でも入隊するとあの人に告げた時のことはまだ微かに覚えている。
話を少し戻してそんな日が少し続いたある日、月から地球に向けてこのようなメッセージが送られたという。
「地球人を生贄として1人寄越せ。〇〇という人物を渡せばこれ以上何もしない」
そうして僕が選ばれたわけだ。国連の人から伝えられた時になぜ、僕なんだろう。「今の僕は自分の名前も、あの時一緒に来た人の名前すらうまく思い出せないようなやつを選んだんだろう」と考えることで精一杯だった。
実際そんな僕をあいつらが選んだ理由はあいつら以外にわからない。
そんなことを考えているうちに曲は終わった。
なんだ、この歌は。自分の中でやるせなさが心を支配する。これ以上こんなラブソングを聞いているとおかしくなりそうだった。
ふと████が居たような気がして誰も居ない丘に一人きり、何度も振り返って帰った。
家に着く頃には周りはもう真っ暗だった。星が綺麗だ。
家に入らず星を眺める。確かあれはアンドロメダだったような気がする。
しばらくして家に入ってシャワーを浴びて寝た。
残り一日
ふと目が覚める。何やらいい匂いがする。外に出てみたら金木犀が立派に咲いていた。この匂いはどこかで嗅いだことがある。
そうだ。思い出した。確か入隊前にあの人が贈ってくれたお守りの匂いだ。
朝からいいものを見て気持ちがいい。
少しいい気分で目覚めた朝、こんなのは久しぶりだ。ふと思い出して花に水をやる。今は心が今までない程落ち着いてる。
ずっとここに居たい。嫌な現実から逃げ出したい。
そうしているとあの人がいる。
そうしたらあの人は何も言わず抱きしめてきた。そうだ、思い出した。思わず抱きしめ返して名前をいう。「久しぶり、桔花」
「どんだけ待たせてんのよ、バカ」と泣きそうな、消え入りそうな声で言う。
僕は「ごめんね」としか言えずに何もできなかった。桔花は「話は聞いてる、とりあえず明日またくるから」といって帰ってしまった。
僕はまた桔花と会えたこと喜びを噛み締めてまた1日を終えた。
残り十二時間
朝になり、目が覚めた。
目が覚めると建物の中にいるようだった。部屋の中を見回すと機械でいっぱいだった。起きあがろうとするが体が動かない。
部屋を眺めていると誰かがきた。その人は僕が起きているのを見るなり驚いて部屋を出てしまった。しばらくしてまた誰か来た。白衣を着ていて見た目は60歳程でいかにも医者という感じ。お医者様が話しかけてきた。「ここは?」と問おうとしたが声すらも出ない。お医者様は「声出ないだろうからいい、意識が戻ってくれて嬉しいよ」と言って下さった。そのあとは寝てしまったのか記憶があまりない。
夜に甘い匂いがして目を覚ます。匂いに釣られて体が動く。さっきまで体が動かなかったのを忘れて階段を登った。屋上に着いたら桔花が居た。どうやら空を飛んでいる様子だ。「一緒に行こう」と手招きをされ、桔花に近づく。
「今度は別れないように手を繋いで行こう」そう言い私は飛び立った。
悲恋の花束 白熱鴇 @rinsyankaihou
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