第6話 大団円

 やつらとすれば、こちらをやっつけることをする必要はないのだ。

「警察が動けない」

 という状態にさえしておけば、自分たちは詐欺を行っても、うまく逃げられさえできればいいわけだ。

 しかし、警察としては、逮捕して、起訴し、最後には裁判で有罪にしないといけない。

 そもそも、警察の目的というのは、

「犯人逮捕」

 でもなければ、

「罰を与える」

 ということでもない。

「被害者を出さないようにする」

 ということが、

「平和な世の中を作る」

 ということで、そこに目的がある。

 といってもいいのではないだろうか?

 それを考えると、

「警察というのが、いかに難しいところなのか?」

 ということが分かる。

「それなのに、どこまで警察に特別な権力があるのか?」

 ということになれば、捜査に合うだけの権力があるとは、

「到底思えない」

 ということであった。

 そもそも、今の時代は、民主警察。

 しかも、今の時代は、

「コンプライアンス違反」

 の問題であったり、警察のモラルの問題であったりする。

 何といっても、警察というのは、

「公務員」

 であり、

「国民の税金で飯を食っている」

 といってもいいだろう。

 だから、

「公務執行妨害」

 という言葉があるのであって、

 もっといえば、警察は、それ以上に、不祥事であったりを特に嫌う。

 そういう意味で、捜査上のこととして、

「我々警察において、絶対に起こしてはいけないのは、冤罪というものだ」

 ということである。

 特に、昔のような、

「特高警察」

 であったり、

「民主警察」

 と言われるようになっても、昭和の頃までは、平気で、

「自白の強要」

 というものが行われていた。

 刑事も人間である。

 被害者の無残な殺害現場などを目撃すると、犯人に対しての憎しみが浮かんでくるのは当たり前というもので。容疑者を逮捕すれば、逮捕した時点で、

「こいつが犯人だ」

 と決めつけてしまうようなことになりかねないというものだ。

 それを、思い込みにより、憎しみから、

「行き過ぎの取り調べ」

 が起これば、気が弱い人であれば、

「自白の強要」

 ということになってしまい、警察の失態がその瞬間に出来上がってしまうということになるだろう。

 最初は、

「警察官も人間だから、勧善懲悪の気持ちは老全ある」

 ということで、警察にひいき目だったが、

「犯人と決めつけてしまった瞬間」

 から、

「冤罪事件を生んでしまった」

 ということになるだろう。

 少なくとも、裁判で無罪になったとしても、

「検察が起訴した」

 ということに変わりはないのだ。

 検察というところは、警察の捜査によって得た情報を元に、起訴するかどうか決めるのだ。

 それを思うと、

「起訴した瞬間、警察の任務は終えるのだが、責任は、そこから生まれることになる」

 ということだ。

 それだけ、

「警察というものが、いかに厳しい判断が必要なのか?」

 ということであり、刑事事件の難しさというものが、浮き彫りにされるだろう。

 今回は、

「詐欺」

 というものがかかわっているだけに、微妙なところであろう。

 木下は、最初はかたくなだったが、こちらが少し強くいえば、重用容疑者の名前を簡単に白状した。

 その男の名前は、

「小山田」」

 という、

 桜井刑事が、木下のことを、次第に猜疑の目で見るようになったおかげで、小山田の名前が簡単に出てきた時、

「こいつは、犯人じゃないな」

 と感じた。

 しかし、その分、

「わざわざこの男の名前を出したということは、こいつは、この事件に、関係のない人物ではないか」

 ということで実際に調べてみると、

「確かに、詐欺で被害を食らっていて、この人は家族崩壊に追い込まれていますね。完全な被害者の一人というわけです」

 ということだった。

 そして、実際に、他の刑事が、この小山田という男に会ってきたが、

「小山田は、結構、落ち着いていた」

 ということであった。

 そして、

「やつが、アリバイを主張しているので。今調べさせています」

 とその刑事がいうので、

「そうですか。お任せします」

 と、桜井刑事は、いつになく冷静というか、無反応であった。

 こういう時の桜井刑事は、

「小山田のアリバイには、興味がなさそうだ」

 と思った。

 ということは、

「小山田には、完璧なアリバイがある」

 ということになるんじゃないかな?

 と考えられた。

 そして、実際に、帰ってきた刑事に聞くと、

「ええ、やつは、その日は、海外に行ってました。入出国も確認済みです」

 ということであったので、

「これ以上の完璧なアリバイはないだろう」

 そのことは、桜井刑事は、

「百も承知」

 という様子で、せっかく調べてきた刑事も、

「どこか、拍子抜け」

 という感じだった。

 まわりの刑事も。

「桜井刑事は何を考えているんだろう」

 と思ってはいたが、こんな桜井刑事は、今までにも何度も見てきた同僚や部下も、帰って、

「桜井刑事が、こんな感じの時って、結構早く事件が解決しているよな」

 と言い合っているくらい、桜井刑事のこの態度は、珍しいものではなかったのだ。

 そんな状態で、桜井刑事は、一つ気になっていたのが、

「木下の去就だった」

 なぜ、今頃現れたのか?

 ということであるが、もう一つ気になっていることがあった。

 それが、第一発見者の立川の様子だった。

 それで、桜井刑事は、独自に、立川のことを調べてみると、彼の妹が、ここ半年くらいの間に亡くなっているという。それはどうやら、

「自殺」

 ということで、しかも、彼女が妊娠していることが分かっていたというのだ。

 立川は、警察に捜査を依頼したが、なかなか警察は動いてくれないという。

 彼は独自で捜査してみると、どうやら、その日、近くで似たような暴行事件があり、その時は、未遂だったようで、犯人が逃げたのだという。その逃亡している犯人に、暴行された可能性が高いということで、警察に訴えたが、

「すでに自殺で処理済みだ」

 といって、何もしてくれなかったという、

 それから、立川は人が変わってしまったかのように、それまでは、結構明朗快活だった性格が、まったくまわりと話さなくなり、

「まわりを寄せ付けない」

 という雰囲気を作り出したという。

 誰も近づけない中であったが、今回のパンデミックの警備隊だけは、さすがに逆らうことができないということと、少しずつではあるが、明るさが戻ってきたということでの三かになったのだ。

 そんな中で、

「たまに思いつめたような顔になるのが、怖かった」

 と一緒の班になった人はそう言っていたが、

「完全に人が変わってしまっているんですよ」

 といって、少なくとも自分から近寄らないことにしているというのだ。

 その彼から、立川のことはおおむね聞けた。そして、彼がいうには、

「立川が殺したいと思っていた人ですが。最近殺されたようなんですよ。もちろん、立川も疑われたんですがね。でも、それは、アリバイが解決してくれたんですよ。彼には鉄壁のアリバイというのがあったようで、容疑者からすぐに消えたと聞いてます」

 ということであった。

 調べてみると、なるほど、彼の言う通り、殺人事件があって、立川が疑われていた。

 ただ、事件は別の管轄でのことだったので、情報が流れてこない。だから分かるわけもなかったのだが、それを聞いた時、桜井刑事の中で、事件の、

「最後の嵌らないピースが嵌った」

 という気がしたのだ。

 もっとも、これは、あまりにも、考えすぎといってもいいような、大それた考えなので、すぐには口にすることは憚られた。

 確かに、今までの事件の中でも、

「これほど、厄介な話もないだろう」

 ということであった。

 これが、うまくいけば、

「完全犯罪」

 なのだろうが、逆に、

「これほどリスキーなこともない」

 といってもいい。

 ただ、彼は、犯人に対する復讐だけでなく、妹の時に何もしてくれず、門前払いをした警察を一番憎んでいるのかも知れない。

「立川が、この事件で、どのような役回りを演じているか、そして、彼のまわりにいるであろう共犯者たちが、どのようなものか?」

 ということを考えると、

「本当の主犯は、やっぱり、立川なのではないか?」

 と考えられた。

 そこで桜井刑事は、この警察署以外でも、近郊の都市の警察署で、最近起こった殺人事件で、特に、

「アリバイが完璧で、お宮入りになりそうな事件」

 というもおを調べることにした。

 桜井刑事はこういう時のために、近郊の警察署に知り合いを作っていた。自分も彼らのために、今までいろいろ調べてきたので、

「お互い様である」

 と思った。

 そう、警察というところは、本当は、そういうところでなければいけないのだ。それが、どうしても、

「縄張り意識」

 というようなものがあるために、うまく機能しない警察と言われるのだ。

 そんな、

「悪しき伝統」

 など、ぶっ潰してしまいたいと思っているに違いない。

 そして、今回の事件で、もう一つ気になっているのが、

「木下と、立川と、小山田の関係」

 ということである。

 この三人が、

「それぞれに、殺したい相手がいるのではないか?」

 と感じるのだ。

 立川と、小山田は分かっている、

 となると、次は木下だった、

 彼は、今回の事件で、

「目撃者」

 というものを演じてきたが、果たして、事件全体では、どのようなポジションなのか?

 ということを桜井刑事は考えたが、もう一つ、

「この事件にポジションなどというのが存在しているのだろうか?」

 と考えると、どんどん巣増が膨らんでいき、

「このまま、無間地獄に突っ込むのではないだろうか?」

 と思えたのだ。

 というのは、この三人の力関係を考えてみた。

 というのは、

「三すくみ」

 なのか、それとも、

「三つ巴」

 なのかである。

 それぞれにけん制しあっていて、抑止力が働く関係は、それぞれに循環していて、それが、

「三すくみの関係」

 といえるだろう。

 そして、それぞれの力自体が均衡していて、お互いに手を出せないという、直接的な関係ということで、

「三つ巴の関係」

 ということになるのだろう。

 今度の事件を考えた時、桜井刑事は、

「交換殺人」

 というもをイメージしたのだ。

「お互いに、実行犯と実際の犯人がいるということで、その際に、本当の犯人には、アリバイを作るということである、

 だから、目撃者としての木下が現れるのが、遅れたのである。

「交換殺人は、それぞれに関係性があると考えさせてはいけない」

 という発想から、時間が経ってからでないといけない。

 しかも、

「お互いに同じ立場であれば、最初に事を起こした人が圧倒的に不利である」

 というのが、交換殺人のっ致命的なところであった。

「じゃあ、三すくみの形にしておけば、誰か一人が得をするということはない」

 ということになる。しかも、一人が裏切れば、二人を敵にすることになるし、自分が、結局不利になるということだ。

 だから、三すくみを利用したのだ。

「最初に動いた方が生き残れない」

 というのは、普通の三すくみであり、殺人の場合はそうではない。

「三人ともが生き残るためにやっている」

 ということなので、あくまでも、

「力関係だけの三すくみ」

 である。

 だから、この事件は、それぞれに、

「主犯、実行犯、目撃者」

 とそれぞれに役割がある。

 まるで昔に見た、

「合体もののロボットアニメを思い出す」

 ということであった。

 合体の順番によって、三つのロボットが、

「陸海空」

 とそれぞれに特化した変身で、それぞれの機能を発揮し、相手のロボットを粉砕するというものであった、

 それを思い出したことが、今回の事件を表に出すことができた。

 ただ、この事件が本当に、最後まで解決できるとは限らない。

 やはりそこには、

「犯人たちの、どこかボロを期待するところがある」

 こちらは、交換殺人と同じで、一つが露呈すると、すべてが分かってしまうというもので、桜井刑事はそれに期待していた。

 そう、この事件は、

「三すくみの交換殺人」

 ということで調書が掛かれ、これが、

「解決済み」

 となるか、それとも、

「未解決」

 となるかは、

「神のみぞ知る」

 ということだったのだ。


                 (  完  )

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異次元交換殺人 森本 晃次 @kakku

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