第2話 爆発物処理班のプライド

「ハァ……ハァ……」



       「ハァ……ハァ……」



ようやく、八本のコードの切断に成功……残るコードの色は『赤』と『青』である。


「やっぱりこの二本が残ったか……blue or red……この先は何年やっても100%の正解は無い。まさにってやつだな……」


『赤』を切るべきか、『青』を切るべきか……確率は二分の一。まさに運命の分かれ道である。


「真田さん、時間がありません! あと八分しかありませんよ!」


「わかってるよ! なぁ、山本……お前ならどっちを切る?」


残り時間わずか八分という時になって、真田は山本にそんな質問を投げかけて来た。


「どっちって言われても……」


そんな事を訊かれても、山本にも正解は判らない……山本は、起爆装置から出る二本の配線をじっと見つめた。



すると、その時である……山本は、この起爆装置のに気が付いたのであった!


「ああ! そうかっ! 真田さん、導火線ですよ!」


「はあ?」


「この爆弾、なんか普通と違うような気がしてたんですが……起爆装置から火薬まで『導火線』で繋がっているじゃないですか! だったら、よ!」


まさに『目からウロコ』 『灯台もと暗し』である。どうして今までその事に気が付かなかったのだろう。しかし、ともかく時間前にその事に気が付いて良かった……


これで起爆装置は無事に解除出来る。山本は、そう思った。



だが………






















は」


「え………?」


「俺達はプロだぞ? そんなが出来るか!」


この道10年のベテラン真田は眉間にしわを寄せ、吐き捨てるように言った。


「そんな事言ってる場合ですか! あと七分しか無いんですよ!」


「七分ありゃ上等~! 残りはあと一本だ!」


真田は、右手の中指を上に立ててイキ捲っている。




「なに言ってんですか! アナタ、死にたいんですかっ!」


「お前こそなに言ってる! この稼業に就いた時から、だろうが!」


「そういうの『無駄死に』って言うんですよ!」


「解除すりゃあ~いいじゃね~か! 確率は二分の一だ!俺に任せろ!」


(ダメだぁ……この人………)



☆☆☆




「う~む……これを作った相手はテロリスト。ならば、本命はやはり『赤』か……いや、しかし逆にそれをトラップにするって事もあるしな……」


二人の命が懸かった配線の色の選択を、『作った人間の性格』というなんとも曖昧な根拠から導き出そうとする真田。


「やっぱり、6-4で『青』を切るべきだろうな」


「6-4って……競馬予想してるんじゃないんだから……」


残す時間はあと七分……その時、山本の持っていたスマホの着信音が鳴り響いた。


「はい、山本……あっ、本部長ですか?」


電話の相手は警視庁捜査本部……その本部長、長嶋だった。


『そっちの様子はどうだ? 起爆装置は解除出来たのか?』


「いえ……それがまだ……」


『なんだって! あと七分しか無いぞ! それは、そんなに複雑な代物なのか!』


「いえ、超簡単です! なんですがね……」


山本は、これまでのいきさつを長嶋本部長に話した。


『…………』


絶句する本部長。


「おい、山本~やっぱり『赤』ってのも捨てがたいよな~」



『なにやってんだああぁぁぁ~~お前らはああぁぁぁ~~~~っ!』



本部長のカミナリが、電話越しでもビルのガラスが震動する位に大きく響き渡った。



☆☆☆



『とにかく導火線を切れ! 真田!』


「嫌です! そんなふざけたやり方は、爆発物処理係の俺のプライドが許さない!」


『そんな事を言ってる場合かっ! そのビル建てるのに何百億かかっていると思ってんだ!』


「僕らの命じゃ無いんだ……」


『あ……いや、別にそういう訳では……』


「とにかく! 本部長といえど、現場に首を突っ込むのは止めていただきたい! ここは俺達のテリトリーです!」


真田はそれだけ言うと、再び起爆装置と向き合っていた。


「こんな調子で、いくら言っても聞かないんですよ……真田さん……」


『まったく、あんなバカ、見た事が無い!……とりあえず電話は切らずにこのまま繋いでおけ!』


「分かりました、本部長」


本部長ですら、真田を説得するまでには及ばなかった。




爆弾の爆発まで、あと六分……





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る