箱の中の人魚

もち雪

第1話

 俺はさびれた漁村に住んでいた。


 子供の頃から親父に泳ぎを仕込まれ、今でも漁に行かない時、一人になりたい時は、海に潜り静かに自分と向き合う時間をつくる。


 そんなある日、気まぐれにいつもは行かない島に、親父の残した小さな船に乗り一人赴く。


 いつもより少しだけ澄んだ海に潜る。柔らかな海藻と魚たちの勢いが明らかにいつもの場所よりはましている。


 体をあたためるための休憩の後、場所を少し変えて。


そこには捨てられたものにして、きれいに彫刻の彫られた大きめの箱を見つけた。海の中の様子が彫られているようで、一面、一面に彫刻されている魚が違うようだ。


 俺は海の中でニヤリと笑い、これが本物の玉手箱なのかもな。そうくだらない事を考えた。


 そしてくだらない考えはまだ続くようだが、その前に人らしく一度呼吸をすることにした。


 

面まで上がると、島を探す。どうやらそんなに離れていない場所にいるようだ。砂浜にいた、白い鳥がこちらを見つめいる様にこっちを見ている。


それだけ確認すると、ふたたび海の中へ。


やはり箱をそこにあり、そしてくだらない遊び心は、ノックかをする事で達成した。


おそらく何もリアクションはおこされないだろう。 


やはり自分はくだらない事しかやってないらしい。しかし箱は売れるのではないか? と、今度は妙に現実な事を考える。


 しかし、驚いた事にゆっくりは箱は開くのだ。

 

驚き目見開いて見ていると美しい女性の上半身が出てくる。それと同時に、俺の酸素も限界だったようだ。


 海面まで上がって、シュノーケルから大きく息を吸い込む。


「死体か? 人形か? まさか……」


 恐怖を打ち消すために、口から心がこぼれた。しかし現実的に考えてあれは人形だろう。


 遺体でありませんように。願うように、祈るようにもう一度、空気を蹴り手を伸ばす。


青い海の中には、人形も遺体もありはしなかった。


ただ優雅ゆうがに泳ぐ人魚がいた。


 金髪に碧眼へきがんの彼女は、箱の周りをゆったりと泳いでいる。彼女は、僕を見つけると手を振りこちらへやって来る。


 きっと彼女は、何も知らない人魚なのだろう……人間の恐ろしさも知らず無垢むくな笑顔を俺にむける。


人間との間の壁を乗り越え人間に近づいた、人魚の末路を思い出してここから離れた方がいいとなんとか説明しなければ……。


そう思い見つめていた俺に、彼女は箱を指さして見せる。


(あっ、そのハントサインは、人魚も知っているんだ)


 そう僕は思い単純に驚いた。しかしもっと驚く事が、彼女は、親指と親指を底にし、そしてをその他の指を左右くっつてけ、ひっけてハート♡のハンドサインを作る。


(それ……わりと新し目のハンドサインじゃ……)


 そう思い固まっている僕を見て、彼女の顔が曇る。そしてハートを2つに割って見せた。


僕は戸惑いつつ落ち着いてと、両手をパタパタと上下に動かし、息継ぎする事を知らせる為に上と口元を指さしてから、ゆっくりと海面を目指す。


 そうすると何故か人魚はついて来て、海面に一緒に顔を出す。


「あの箱!」


 人魚はとても可愛い声で話した。


「あのはこ?」


 僕はちょっと、ばかぽかったかもしれない……。


「凄くかわいいでしょう?」


 彼女は、ハートのハンドサインをしながらそう言った。どっちかと言うと箱より人魚の彼女の方が可愛かった。


「うん、かわいいねぇ」


「作って!」


「えっ?」


「ハートを作って! そしてて可愛いって言って!」

 

 彼女は俺の目の前に、ハートを見せつける。彼女はとっても必死で、なんか可愛かった。


 俺は言われた通り、ハートを作り、「きみは、とってもわかいいね」と言った。


 彼女は、ピンクのサンゴのみたいに顔を赤くしていた。


 それが、俺と嫁の馴れ初めです。


       おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱の中の人魚 もち雪 @mochiyuki5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説