箱の中の人魚

もち雪

第1話

 俺はさびれた漁村に住んでいた。


 子供の頃から親父に泳ぎを仕込まれ、今でも漁に行かない時、一人になりたい時は、海に潜り静かに自分と向き合う時間を大切にしていた。


 そんなある日、気まぐれにいつもは行かない島に行き一人で海に潜っていると、少し大きめの箱を見つけた。箱の周りをみると綺麗に、彫られた彫刻がとても美しかった。


 人間、誰しも習慣とはあるもので、箱をノックしてみた。いや、何もリアクションはないだろうと思い、少し笑えた。


 しかし、驚いた事にゆっくりは箱は開くのだ。驚き目を見開いて見ていると美しい女性の上半身が出てくる。それと同時に、俺の酸素も限界だった。


 海面まで上がってシュノーケルを使い息を吸い込む。いや……待て、あれは人形かも? そう思いもう一度潜るとそこに青い海の中を、優雅ゆうがに泳ぐ人魚がいた。


 金髪に碧眼へきがんの彼女は、箱の周りをゆったりと泳いでいる。彼女は、僕を見つけると手を振りこちらへやって来る。


 きっと彼女は、何も知らない人魚なのだろう……人間の恐ろしさも知らず無垢むくな笑顔を俺にむける。人間との間の壁を乗り越え人間に近づいた、人魚の末路を僕は思いここから離れる事にした。


 僕が、黙っていれば彼女の一生くらいは幸せに過ごせるかもしれない……。そう思い見つめていた僕に、彼女は箱を指さして見せる。


(あっ、そのハントサインは、人魚も知っているんだ)


 そう僕は思い、少し驚いた。しかしもっと驚く事が、彼女は、親指と親指を底にし、そしてをその他の指を左右くっつてけ、ひっけてハート♡のハンドサインを作る。


(それ……わりかし新し目のハンドサインじゃ……)


 そう思い固まっている僕を見て、彼女の顔が曇る。そしてハートを2つに割って見せた。僕は戸惑いつつ落ち着いてと、両手をパタパタと上下に動かし、息継ぎする事を知らせる為に上と口元を指さしてから、ゆっくりと海面を目指す。


 そうすると何故か人魚はついて来て、海面に一緒に顔を出す。


「あの箱!」


 人魚はとても可愛い声で話した。


「あのはこ?」


 僕はちょっと、ばかぽかったかもしれない……。


「凄くかわいいでしょう?」


 彼女は、ハートのハンドサインをしながらそう言った。どっちかと言うと箱より人魚の彼女の方が可愛かった。


「うん、かわいいねぇ」


「作って!」


「えっ?」


「ハートを作って! そしてて可愛いって言って!」

 

 彼女は俺の目の前に、ハートを見せつける。彼女はとっても必死で、なんか可愛かった。


 俺は言われた通り、ハートを作り、「きみは、とってもわかいいね」と言った。


 彼女は、ピンクのサンゴのみたいに顔を赤くしていた。


 それが、俺と嫁の馴れ初めです。


       おわり

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