最終話 偽りの太陽
「この世界には二種類の人間がいる。選ばれし者とその他の愚者たち。選ばれし者は世界で一人が絶対原則」
伊邪那美は、出雲御殿大広間にて語る。
「だけど、その絶対が覆ったの。だから天蓋が発生したのか、天蓋が発生したから原則が狂ったのかは不明。この世に二人の選ばれし者が生まれてしまった。アナタたちは知っているでしょう? レジスタンス同心の小娘、ひなよ」
大広間に集合している出雲幹部を見渡し、伊邪那美は語る。
「八十神。そんな不貞腐れないで。ひなはエラーによって生まれた搾りかすよ」
「んなことどうでもいい。……先導者は尊なんだろう?」
八十神は尊に穿たれた胸の傷の疼きを感じていた。拘束具のように全身に巻かれている包帯が、先導者の力の証明だと彼は確信しているようだった。
だからこそ、伊邪那美はその様子が面白く、同時に愛おしくなり微笑む。
「尊の力は凄まじいわ。だけど、違う。この世に生まれた先導者はアナタよ、八十神命。アナタが天照と契約する資格を有する選ばれた者。人類史の転換点に存在した英雄たちが持つ資格をアナタは保持している」
「ッ!? ……俺が? こんな俺が、その選ばれた者だと? 冗談は程々にしろよ」
「勇気と知恵と力。それらを九割九分九厘を受け継いだ先導者(せんどうしゃ)八十神。残りの一厘のみを受け継いだ後従者(こうじゅうしゃ)ひな。この二人と、私の愛しい子が世界を動かしていく」
「愛しい子? ……まさか!?」
全員の視線が、上段の簾(すだれ)の奥に視線を向ける。
「そう。ようやく、将軍の準備が整ったわ。皆に集まって貰ったのは、彼の紹介とこれからのことを伝えるためよ。……お願いね?」
伊邪那美の合図に合わせ簾(すだれ)がゆっくりと上がる。
出雲幹部でも知ることができなかった真の頂点が姿を現した。
「出雲の勇士よ。待たせたな」
行灯のオレンジ色の光りに照らされた山伏の衣装。心地のいい鈴の音。
「オレは偽りの太陽。遍く全てを照らそう。お前たちも例外ではない」
「な、なんで……お前が……」
偽りの太陽。それは、どこかで聞いたことがある言葉だった。
誰かがやらねば誰もやらぬ 2023日本神話 @anemono
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