僕っ娘幼馴染が毎日愚痴りに来て困っている

@madogiwadotchan

第1話

階段を上ってくる足音が近づい来る

トン、トン、トン


「入るよー」


ガチャリと返事も聞かずにドアを開ける


「なんだ、いるじゃん。いるなら返事ぐらいしなよ」


返事をする間もなく開けたのは誰だという目で訴える


「なにその目、気に入らないなー、もう。君のためにいるかどうか聞いてるんだから返事ぐらいしなよ。せっかく僕がきいてあげてるのにさあ」


部屋主の訴えを無視して入り込み、目の前を横切ってぼふっとベッドに横たわる


「ああー、ベッド最高ー。今日も疲れたよー。疲れた。疲れた。疲れた。つーかーれーたー」

「僕がこれだけ疲れたって言ってるのに労いのお菓子どころか言葉すらないのは重犯罪だよ」

「ほらほら、早くお菓子か『今日もお疲れ様、頑張ったね』ってかっこよく、そして優しく言って」


何も言えずに目線で出ていけと訴える


「はあー、まあいいよ。どっちも期待はしてなかったから。それより、聞いてよ!」


彼女は身体を起こしてベッドの上に座りなおす


「今日さあ、朝サイフ忘れて家出ちゃってさあ。気が付いたの駅の真ん前で。まじか~って立ち止まっちゃったらさ。誰かに後ろから押されて倒れて膝擦りむいたんだよ。ひどくない? ひどいよねー。見てよ、ここ。ここだよ、おっきな絆創膏あるでしょ。かわいい僕の膝に傷が残ったら末代まで呪ってやるよ、君を」


「なんで自分がって顔をしているな。君があの場所にいて僕を支えてくれなかったからケガしたんだかんな。んもー、なんでいなかったのさ」


「ん? いてもとっさには無理だって。言い訳するなよー。無理って言うなー、こらぁー」


「じゃあ、練習しよう。僕を支える練習。練習すればいい。練習すればできるようになる。うん、いいね、練習練習」


ベッドから立ち上がって近づいてくる


「んー、右側に僕が立つのと」

「左側に僕が立つのどっちがとっさに支えやすい?」


「ほらさ、利き腕とか利き足でとっさに動きやすい方向ってあるじゃん。君はどっちかなって」


「右側?」

「左側?」


彼女は部屋主の左右を反復しながら尋ねる


「ふぅー」


彼女が右耳に息を吹きかけてくる


「あっははは。驚いた? 驚いたよね、かわいいー」

「なんでしたかって? そこに耳があったからじゃよ」

「だって、逆の立場で考えてみなよ。無防備な可愛らしい耳があるんだよ。いたずらするしかないでしょ。僕はする、したい、した!」


「そんな顔するなよー。いいじゃん、さっきのことは水に流してあげるからさ。僕はやさしいだろ?」



「さっきのことが何かわかってない顔してるな、君は。目を閉じて胸に手を当ててよく思い出すんだ」

「わかんない? わかんないかー。しかたないなあ、ヒントをあげよう」


彼女が背後に回り耳元でささやく


「さっき僕は、膝に怪我をしたお話をしました。そして、膝に貼ってある絆創膏を君にみせてあげました」

「君は本当に絆創膏だけを見ましたか? 膝よりも上の部分を見ませんでしたか?」

「はい、答えて!」


「…………」


「んー、その沈黙は肯定とみなします。ぎるてぃー」

「僕のかわいいふとももをタダ見なんて許すまじ。もっと愚痴を聞けえ!」


「とりあえず、立ちっぱは疲れる。ほら、ここに座ることを許す」


ぽんぽんと、彼女はベッドの上に座ってその正面をたたく


「はあ、ほんとにさあ。僕は疲れているんですよ。そこんところ君はわかっていますか?」

「ほっぺたがぷくーてふくれるぐらい不満もたまっているのですよ、わかりますか君は」

「僕は君のほっぺたがふくれるところを見たことがありません。君に僕の気持ちはわからないんでしょうね」

「ほら、試しにふくらませて御覧なさい。僕に見せてみなさい」


「……」


「ぶっさいくだなあ。可愛くなーい。癒されないぞ」

「やっぱり、疲れた時には笑顔だな。にかーって笑って見せてよ」


「…………」


「ノーコメントで」


アラーム音がなる


「ん、ちょっと待ってて。……あー、時間だ。帰んなきゃ」


「続きはまた今度ね。お菓子ちゃんと用意しよけよ、僕の好きなの。じゃあな」


ガチャリとドアを閉めて、トットットッと足早に階段を下りていく





「今日も来てやったぞ、もてなせー」


ガチャリとドアを開けて勝手知ったると部屋に入ってくる



「ねぇねぇ、聞いてよ。きょうさー」


いつもより少し疲れた声で話す彼女


「僕のお弁当にトマト入ってたんだよね。僕、嫌いなのに」


「君、なんで入ってたか知らない?」


「ふーん、知らないんだ。お隣さんなんだから僕のお弁当の内容ぐらい知っててよ。そんで、トマトがあったら僕が見つける前に食べといてよ、君の役目でしょ」


「ほんとにさ、僕トマト嫌いなんだよ。食べたら一日へにょんってなるぐらい」


「食べなきゃいいって。いやさあ、お弁当をさあ。作ってもらっているのにさあ、食べられないわけでもないのに残すのはさあ。悪いじゃん、作ってくれた人に。だからさあ、僕はがんばって食べたわけよ。ほめろよ」


「トマトってなんで存在するんだろね。あの微妙な甘さとすっぱさと噛んだらグチュってなる最悪な食感。トマトを好き好んで食べる理由がわかんないよ」


「だいたい、有毒なものって派手な色してるでしょ。トマトも真っ赤で派手じゃん。つまり、トマトは有毒。人類にトマトは必要ないよ」


「リンゴも赤いって? 君はバカだなあ。リンゴが赤いのは皮だけで身は白いでしょ。トマトは身まで赤い、つまり有罪だ。あと、僕はリンゴが好きなのでいくら君でもリンゴを貶めるような発言は見過ごせないな」


「罰としてアップルパイ食べたくなったから買ってきてよ」


「なんでだよー、買って来いよー。僕がへにょんとなってるの君も嫌だろー」

「むう。次に来るまでに買って用意しとけよ、約束だからな」


「なんだかお腹すいてきた。なんかない? 何もない場合は君を噛んで空腹を紛らわせます」


「なんか持って来いよー。じゃないと本当に噛むぞー。その耳たぶとか軟かそうでいいじゃん。ちょっとかませろよー」


「え!? いや、流石に君の舐めかけの飴玉は――」

「なんだよ、別に赤くなんてなってないだろ!」

「おい、やめろ! 僕をトマトなんかに例えるな!」


「はあ、僕はとっても疲れてるのに君はひどい奴だね。もっと、僕を甘やかすべきだよ」

「リンゴ食べたいなー」


「トマトなら冷蔵庫にあるって? ぶん殴るよ、君」


アラーム音がなる


「……あー、時間だ。帰んなきゃ」


「また今度ね。アップルパイちゃんと用意しよけよ、僕の好きな店の。じゃあな」


ガチャリとドアを閉めて、トットットッと足早に階段を下りていく






ガチャリとドアを開けると彼女はそこにいた



「ん、お帰りなさい。僕に会えなくて寂しくなかったかい、坊や」


「怒るなよー、坊や呼びしたぐらいでさー。僕は君に会えなくて寂しかったからさー。そういうことにしてあげるから、怒るなよー」


どこかうれしそうな声色で話す彼女


「ん? 今日は機嫌がよさそうに見えるって? 僕はいつも上機嫌だよ」

「そんな不思議そうな顔するなよー、わかってるくせに」


「……え? 本当にわかんないの?」

「冷蔵庫にアップルパイがあったから僕のために買ってくれたんじゃないの? お店も僕のお気に入りのだったし」

「貰い物? へー、そうだったんだ……」


「ん? 別にがっかりなんかしてないけど。僕はアップルパイが食べられそうでご機嫌ですけど」

「君が、僕のために買ってきてくれたアップルパイであろうとなかろうとアップルパイであることに変わりはないのでえ、なんの問題もないよ……」


「……期待して損したじゃないか」

小声で彼女はつぶやいた


「さっ、早く持ってきてくれよ。君が帰ってくるのを僕はかいがいしく待っていたんだから」


「ん~、やっぱりこの店のアップルパイはおいしいね。待っていた甲斐があったよ」

「この絶妙な甘さがいいんだよね。甘すぎずバターとリンゴの風味を引き立てるほど良いこの感じがさ」

「先に食べてたらよかったって? 馬鹿だなあ君は。美味しいものは一人で食べるより誰かと分かち合いながら食べるほうがいっそう美味しくなるんだよ、知らなかったの?」


「ほら、あーんしてあげる。遠慮するなよー、こうしたほうがおいしくなるんだぜえー」

「はい、あーん。ね? 美味しくなったでしょ」



「それにしてもこのアップルパイを選んだ人は実によい目を持っている。いや、この場合は舌になるのかな?」

「実はあの店の一番の推しはアップルパイじゃなくて、カスタードプリンなんだよ。だからあの店のお土産なんかでもらう商品はそっちがほとんどで、アップルパイを貰うことはめったにないんだよ」

「でも、あの店で一番おいしいのはこのアップルパイなんだよ。これはお店の人もこの街の人も気が付いてない真実なのだよ。まったく、この真実を知らない人が多すぎるのは世界の陰謀だよ。きっと、秘密結社がこのアップルパイの美味しさを世に広めることを妨害しているに決まっている」

「僕が広めればいいって? そんなことしたら僕が買えなくなっちゃうだろ! これだけ美味しいんだ、みんなこぞって買いに行くに決まっている。だから、この美味しさは知る人ぞ知る美味しさであればいいのさ。わかったか」


「もう一個たべていい?」

「太ったりなんかしないよ! 僕はちゃんと計算して食べてるし、運動だってしてるからね」

「ほら、お腹だって全然でないだろ」

「服でごまかしてなんかないよ! うぅ、君は疑り深い奴だな。だったら、触ってごらんよ」

「服の上からだかんな! あと、変なところ触んなよ!」

「……っん、……っん、ん。――触り方がいやらしいからもうだめ。終了!」



「さあ、僕の言った通りだろ。だから、もう一個持ってきてよ」


アラーム音がなる


「……あー、時間だ。帰んなきゃ」


「アップルパイちゃんはもらってくからな。じゃあな」


ガチャリとドアを閉めて、トットットッと足早に階段を下りていく




「おーい、遊びに来てやったぞ」


ガチャリとドアをあける


「君もいるならいるでちゃんと返事しなよー」

「コミュニケーションは返事があってこそ成り立つんだよ?」


「そんな君のために今日はゲームをしよう」

「嫌そうな目をするなよ。どうせ暇なんだろ、なら僕に付き合うのは君の義務だろ」


「ほら、そんなとこにいなくて僕の目の前に座りたまえよ」

「それじゃあ、ゲームをはじめよう」

「えーとね、次の質問にあなたが最初に思い浮かんだものを選んでください」

「あなたは病院の待合室で順番を待っています。あなたの番が来る前に診察室からできたのは誰ですか?」

「1,おばあさん。2,子供。3,家族の誰か。4、動物。5,家族以外の親しい誰か。6,その他」

「さて、君は何番を思い浮かべたん?」

「なんだよ、その目は。心理クイズだってゲームみたいなものだろ。選べよ」

「5番ね。5番はねー。あーなるほどねー。やっぱり君はそういう奴なんだな」

「気になる? 気になるよねー。でも、教えてあげない」

「これは心理クイズの答えを教えてもらえずもやもやする君を僕が楽しむゲームだからです」

「あっ、こら。逃げるな。僕に付き合えよ」


ガチャリとドアを開けて部屋主は出ていく


「なんだよー。つきあえよなー」

「はあ、僕を一人にするなよー」

「寂しいだろ」









トントントンとドアをノックする


「どぞー」


ガチャリとドアをあける


「いらっしゃーい。で、何しに来たん?」


「あー、借りてたアレね。うん、ある。あるはず。ないわけがない」

「そんな怖い顔するなよー。僕がかわいそうだろー」

「とりあえず、そのクッションにでも座りなよ」


部屋主は目の前を横切ってクローゼットをあけ、中を探す


「あれぇ? ここにしまったと思ったんだけどなあ」

「こっちだったかな」


また目の前を横切ってベッドの下を探す


「うーん、ないなあ」


目の前に座る部屋主


「ごめん、なくなっちゃった。ゆるして」


パンと手を合わせて謝る彼女


「いたいいたい! 耳ひっぱらないでよ。 ごめんってば」

「大丈夫だって、この部屋からは出してないから、見つからないだけで探せばあるから!」

「明日には見つけて返すからゆるしてよー」


「うー。耳が痛い。僕の耳がウサギみたくなったら責任取ってもらうからな。覚えとけよ」

「とりあえず、探し出して見つけたら返すから今日は帰れよ」

「一緒に探さなくていいからな。僕にだって見られたくないものぐらいあるんだからな」

「えー、すぐにいるの? 明日じゃだめなん?」


「えー。すっごく嫌なんだけど。乙女の部屋を正当な理由なく荒すってどうなんよ」

「あっ、はい。正当な理由ならあります。ありますから耳から手を放してください」


「それじゃあ、君は机とベッドの周りを探してくれ。その辺なら変なものは出てこないはずだ」

「変なものが何かって聞くなよ。あれだよ下着とかだよ。見つけても見なかったことにしろよ、いいな」

「僕はタンスやクローゼットの中をもう一度探すから」


ガサゴソと物を探す音


「ないなー。どこにやったけなあ。借りて使ったあと邪魔だからクローゼットにしまったと思ったんだけどなあ」

「使い終わったなら返しとけって、君が必要になるまで僕に貸すって言ったんだぞ。よって僕は悪くない、すぐに取り返しにこない君が悪い」

「うーん。ないなあ。そっちはどう? ありそう? あー、本と季節物の服しかないか」



「あと、ありそうなのはクローゼットの高いところなんだけど。台があっても僕は手が届かないんだよね」

「だからないとは思うんだけど。一応見てみようか」

「よし。じゃあ、かがんでくれ」

「君なら手が届くかもしれないが、僕も覚えてないものが置かれている可能性が高い」

「よって、君の眼に触れることは禁ずる。いいな」



「うーん。この歳で肩車すると目線が高くてちょっと怖いな」

「でも、君より上にいるというのは心地がよいな」

「おりゃおりゃ、しっかりバランス取って僕が落ちないようにしてくれよ」


「さてと、どうだろうかなっと」

「お、それっぽいのがあったぞ」

「けっこう、奥まったところにあるからちょっと待ってくれ」

「よっと。ん、っと。うー、ん。取れた!」


「ほら、ちゃんとあっただろ。なんであんなところにあったのかは覚えてないけど」

「じゃあ、それもってさっさとかえ――らないでください」

「部屋を片付けるの手伝って? ね?」

「君のために部屋を散らかしたんだから君にも責任があるよね?」


ガチャリとドアを閉める


「手伝ってよお! 馬鹿ー!!」





バンッ! と音を立ててドアが開く


「なんだ、いたのか」

少し怒気の混じった声で彼女が話す。



「はー、疲れた」

「なに? 別に怒ってなんかないよ」

「……で、聞かないの?」

「何をって、なんで怒ってるのかって。僕がこんなにも怒ってるのって珍しいでしょ。だから、聞きなよ」


「別に、もう怒ってるわけじゃないんだけどね」

「ただ、こう気持ちの置き方が悪いっていうかなんかこう胸の奥がもやもやするのさ」


「さっきさ、家に帰ったらさ。なかったんだよ」

「何がって、プリンが! あの店のカスタードプリンが!」

「僕が! 帰ったら! 食べようと思っていたのに!」

「ひどいと思わないか? 今日一日、僕はあれを食べることだけを楽しみに生きていたのに……」

「帰って冷蔵庫を開けた僕の悲しみが君にわかるかい? いや、わかるわけない!」

「だから、君には僕の受けた悲しみを癒す義務がある」

「反論は聞いてない。おとなしく、僕の言うことを聞くのだ。さもなければ、あることないこと叫びまわってやるからな」

「僕は落ち着いてるよ。だから、言うこと聞けよ」

「とりあえず、こっち来て、ここに座ってよ」

「そんじゃ、頭撫でて。やさしくな。慈しみをもってなでろよ」

「ん、そうそういい感じだ。なかなかセンスがあるよ、君」

「もうちょっとなでてて。……んー」

「よし、次っ。次はねえ。こう、後ろから抱きしめる感じで。そんで、優しく耳元で『お疲れ様、ゆっくり休んでいいんだよ』って言って」

「嫌がるなよ! 君に嫌がられたら僕が傷つくだろ!」

「恥ずかしいって、何が恥ずかしいんだよ」

「台詞が嫌? だったら言わなくてもいいから優しく抱けよ! 僕が傷ついているんだぞ」

「あっ、優しくだからな。やらしくやったら許さないからな」


「ん、……んん-ん。思ったより落ち着かないな。おい、人の頭に顎を乗せるな! 僕は小さくない! 君が大きいんだからな!」

「んーん。なんか違うんだよなあ。何が違うんだろう」

「頭の位置? 確かに。僕より君の頭が上にあるのは気に入らない」

「うーん、どうしよっか。あっ、そっか」

「えいっ」


彼女が部屋主をベッドに押し倒す


「座ったままだから位置調整が難しいんだよ。君が横になればあとは僕のほうで調整できるじゃないか」

「よっと。んー。この辺かな? いや、もうちょっと上のほうだな」

「よし、この辺がいい。んじゃ、こう、優しくおなかに手を回す感じで抱きしめてくれ」

「そうそう、そんな感じ。あー、なんかすっごい安心感あるね。僕このまま眠れそう」

「いや、ほんとうに寝たりしないって。あ、こらっ、動くなよ。もー。もう少しおとなしくしててよー」

「ねえ、ほんとに台詞言ってくれない?」

「言わない……。あっそ、はいはい、いいですよ、別に」


(寝息)


「っと。寝てないよ。僕は起きてますよ」

「ひゃっ、急に動くなよ。顔が近いんだよ、離れろよ」


「ったく。人が気持ちよくなってたのに。君には人の気持ちがわからないのか」

「いたいいたい。耳ひっぱらないでよ。ごめんってば」


「ふう。じゃあ、次はね――」

「なんだよ、その目は嫌なのか」

「僕の愚痴を聞いて、僕を癒すのが君の役目だろ」

「まあ、たしかに。ここに来た時よりは怒りは収まってるけどさあ」

「プリンをさあ、食べたかったんだよ。いつもの僕だったら別にここまで怒ったりしないよ」

「ただ今日はさ。……君と食べたかったんだよ。だから、プリンは三個買ってあったんだよ」

「なのに、帰ったら一個しかなかったんだよ!」

「なんで、勝手に食べたのって聞いたら、一個残してるだろって言うんだよ!」

「そうじゃないんだって、僕はっ!僕は……。君と食べたかったんだ」

「そう、君にあの店のカスタードプリンを食べさせて美味しいのはアップルパイだって知って欲しかったんだ」

「なのにこんなことになって、僕の怒りは正当なものだろ?」

「あのプリンは確かに美味しい。だけど、アップルパイのほうがもっとおいしいんだ」

「それを君に――」

「え? 残ってるプリンを寄こせって? 食べ比べてみるって?」

「君はバカじゃないのか? 君が食べたら僕の分がなくなるだろ!」

「僕の! 分が! ないだろ!!」

「ん。わかればいいんだ。別に今日でなくとも機会はあるんだからな」

「まったく、そんなにプリンが食べたいなら自分で買って来いよな。あっ、僕の分も忘れるなよ」


アラーム音がなる


「……あー、時間だ。帰んなきゃ」


「じゃあな」


ガチャリとドアを閉めて、トットットッと足早に階段を下りていく




階段を上ってくる足音が近づい来る。いつもより足取りが遅いようだ

トン、、トン、、トン


「入るよー」


ガチャリと返事も聞かずにドアを開ける


「ねえ。君には好きな人とかいる?」

少し寂しそうな声で彼女は話す


「友達にさ。恋人ができたんだよ。それは喜ばしいことなんだけどさ。その子とは仲がよかったんだよ」

「だけど、恋人ができたらさ。なかなか一緒に話したり遊んだり出来なくってさ。ほんとは喜んであげないといけないんだけど、僕はなんだか寂しくてさ。友達を取られたみたいで心がもやもやしてさ」

「君は恋人ができても、僕とこうして会ってくれるかい?」

「まあ、そうだよね。流石に恋人ができたらほかの女の子と二人っきりであったりできないよね」

「まあ、幼馴染の僕の気持ちすら満足にわからない君にほかの女の子のことなんかわかりっこないけどね」

「つまり、君に恋人なんてできやしないってことだな。ふふふ、要らない心配をしてしまった」

「なんだ、反論があるのか? できないだろう。君はそういう奴だからな」


「でも、万が一、億が一にも恋人ができたら隠さずにちゃんと僕に言うんだぞ。そうしたら、もうここには来ないからさ」


「さて、今僕は寂しくて寂しくて一人だと死んでしまうかわいそうなうさぎちゃんなわけだ」

「君が僕にしないといけないことはわかるな?」


ガチャリとドアを開けて帰宅を促す


「違う! そうじゃないだろ!」


「ほら、君の手はここだ。さあ、優しくなでたまえ」

「ん。そうそう。やっぱり君は僕の頭をなでる才能があるな。その才能を見出した僕に感謝しろよ」


「……君は、こういうことをしていてもなにも思わないのかい」

「もう慣れたって。慣れるほど撫でられた記憶が僕にはないんだが」

「まさかっ!? 僕以外にも頭を撫でる女の子がいるっていうのか!? どうなんだ!?」


「いないのか。まったく驚かせないでくれよ」

「ま、まあ。君がよその誰かの頭を撫でてようが僕には関係ないことだけどね」

「……でも! 君のそのあたまなでちからは僕によって培われたものだからな! 忘れるなよ!」




「ところで、君は恋人ができたらしてみたことってある? あっ、えっちなのはだめだからね!」

「えー、特にないの? ほんとー? 僕はたくさんあるよ。」

「例えばー。ちょっと、ここに座ってみて」

「あっ、いや、膝立ちがちょうどいいかな」


「ん-。僕はねえ。恋人ができたらー」

「こうして、後ろから優しく抱きしめて『お疲れ様、今日も一日がんばったね。えらいえらい』って言ってあげたい」

「僕の身長じゃ、相手は幼稚園児だって!? そこまで僕は小さくないぞ、バカにし過ぎだぞ!」

「別に立ってる相手にしてあげる必要はないじゃないか、座ってる相手なら僕にだってできるぞ」

「僕は別に小さくなんかないからな」

「あと、これは僕がしたいんであってされたいわけではないからな勘違いするなよ」

「ニヤニヤするな! 顔が見えなくてわかる。僕にはわかる。だからニヤニヤするなっていってるだろ!」


「不愉快だから帰る」

「また来るからな。そのときまでに恋人としたいこと考えておけよ。僕だけ教えるなんて不公平だからな。絶対だぞ!」


「じゃあな」


ガチャリとドアを閉めて、トットットッと足早に階段を下りていく




ガチャリとドアを開けると彼女はそこにいた


「おー、おかえりー。おじゃましてるぞ」

彼女はベッドの上でポテチを食べながら漫画を読んでいた

「あっ、なんで漫画とるんだよ」

「ポテチはちゃんとお箸で食べてるし、ベッドも汚してないだろ」

「君の漫画は僕のものでもあるんだから、ポテチの油とかで汚れないようにぐらい配慮するさ」

「君はさー。僕のこともっと信用して信頼してもいいと思うよ、うん」


「ポテチ食べるでしょ。食べろ。はい、あーん」

「おいしい。おいしいでしょ。なにせこの僕が食べさせてあげたんだから」

「ふふん。はい、これあげる。君も食べたんだから片付けよろしく。あっ、ちょっと残ってるからちゃんと食べてね。お残しはだめだよー」


「え!? あーんって。僕はいいよ、恥ずかしいし」

「したいの? この前の恋人としたいことなの?」

「しょ、しょうがないなー」


「うー。ちょっと、待ってね」

「うん、はい。おっけい。よし、こい!」


「うん、あ~ん」

「ん。おいしかった。やってみるとなんてことないね」

「なんで恥ずかしがってたんだろ」

「ね、もう一回しよ」

「はい、もう一回。あ~ん」


「うん、おいしい。いいね、これ。僕気に入ったよ、うん」

「今度はアップルパイでしてもらおう、約束だぞ」

「ほら、残りを片付けてさ。飲み物のおかわり持ってきてよ。ポテチ食べて喉乾いちゃったからさ」


「ねえ、ほかにしたいことないの? ないのか。君にはがっかりしたよ」

「僕はまだまだあるよ。例えばねえ、風邪をひいたときに看病してあげたい」

「ほらほら、ちょっと横になってみてよ」

「そしたらね。君はひどい風邪をひいてしまって。一人で、辛くて、寂しくて、今にも泣きそうになっているのさ」

「そこで僕は君の手を握ってあげて、優しく『大丈夫だよ、僕が側にいるからね』って言ってあげるんだ」

「それで、薬が効いて熱が下がったかを確認するためにね」

「こうやっておでこを合わせて『もう大丈夫だよ』って言ってあげるのさ」

「ふふふ、こうすることで君は僕を心の底から信頼するようになるのさ」


「ねえ、君はおでこ合わせたときドキッとした? 僕はドキッとしたよ」

「僕はね。本当は君のことが好きなのさ」

「この世界で誰よりも君のことが好きな自信があるよ」

「いままで、君といろいろ理由をつけて僕のしたいことをしてきたけどさ」

「本当はね。ただ、僕が君としたかっただけなんだ」

「ここに来るのも君に会えなくて寂しくなるから来てたんだよ」

「気づいてた?」

「な!? 気づいてたんならもっと積極的に僕に協力してくれてもよかったんじゃないか?」

「ふう。君はいじわるだね。でも、僕はそんな君が好きなんだ」

「これまでは、友達として君と過ごしてきたけどこれからはそれじゃあダメみたいなんだ」

「だから、僕を恋人にしてくれますか」

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