11 敗北者


 SIDE マルス



「負けた……」


 マルスは暗い気持ちで歩いていた。


 胸の中にはドロドロとした感情が渦巻いていた。


 試合が終わった直後は周囲の目もあるため、できるだけ爽やかな態度になるように心掛けた。


 だが、内心は違う。


 悔しさ。


 屈辱。


 怒り。


 そして――憎しみ。


 マルスの心には複数の負の感情が交じり合い、グツグツと煮えたぎっていた。


「ちくしょう……」


 自分自身が許せない。


 競技で負けたことへの悔しさ……というレベルを超えていた。


「うおおおおおおおおお……ああああああああああああああああああああああああああああああっ……!」


 マルスは絶叫した。


 日頃おとなしい彼が、ここまで感情をむき出しにするのは珍しい。


 いや、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。


 それほどまでに、気持ちが揺れていた。


 自分でもコントロールできない。


「あああああああああああああああああああああああ……」


 誰もいない空き地に、彼の声だけが響く。

 と、




『力が欲しいか?』




 突然、どこからか声が聞こえた。


「誰だ……?」

『お前の味方だ、マルス・ボードウィン』


 驚いたマルスに、声は優しい調子で続けた。


『私には今のお前の気持ちがよく分かる。どうしても勝ちたい相手に勝てなかった屈辱、悔しさ、そして憎悪……』

「えっ……」

『それらの感情はいずれも私自身も味わってきたものだからだ。私は――どうしても勝ちたい宿敵に敗れた』


 声に怨念のようなものがにじんだ。


「……誰なの、君は……?」

『ここに「本体」を出すわけにはいかない。人間界との協定があるからな。力ある魔族は簡単にはこの世界に来られないのだ』


 と、声が告げた。


「つまり、君は高位魔族ということか」

『その通り。うかつに人間界に行けば、魔界の有力者たちが私の行動の意図を邪推するだろう。だから、こうして意志だけをお前に届けている』


 そのときマルスの前方に一人の少年が現れた。


『「本体」は出せないが、せめてもの礼儀に私の姿を投影しておこう。私の名は――』


 美しい少年は、艶然と微笑んだ。


『ディフォールという。魔王に匹敵する勢力を持つ高位魔族さ』




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