10 優勝者
「優勝――レイヴン・ドラクセル!」
学園長の宣言とともに、周囲から割れんばかりの歓声と拍手が起こった。
「負けた……」
マルスは呆然とその場にうなだれていた。
「惜しかったな、マルス」
俺は彼の元にしゃがみこむ。
「……やっぱり、君は強かったよ」
マルスが微笑んだ。
負けても爽やかだ。
周囲からは万雷の拍手が鳴りやまない。
観客席を見れば、キサラやマチルダが俺を見て、涙ぐんでいた。
試合に感動したんだろうか。
「立てるか、マルス?」
「……ちっ」
俺が声をかけると、小さな舌打ちが聞こえた。
「マルス……?」
「あっ、い、いや、ごめん……大丈夫だよ……」
マルスは俺の手を取らず、自分で立ち上がった。
「強かったよ、お前も」
俺はマルスを見つめた。
主人公を瞬殺できるくらいに強くなろうと志したけど、まだ俺の強さはその域には達していなかったらしい。
けれど、そんな当初の目標よりもマルスとこれだけの試合ができた喜びの方が勝っていた。
闘技場を降り、会場の方に戻る途中、
「おめでとうございます、レイヴン様!」
キサラが駆け寄ってきた。
「ありがとう、キサラ」
「すごかったわよ、レイヴン!」
マチルダもやって来た。
そのまま、俺に抱き着く。
「う、うわ……っ!?」
「あたしの分まで頑張ってくれたのよね? 約束、守ってくれたね?」
彼女が負けたときに、側にいて慰めたことを思い出す。
「ああ。君の分まで、な」
「ふふ、よかったです」
キサラが反対側から俺に寄り添う。
「キサラの分もだ。二人の想いを背負って戦ったよ」
俺は彼女たちに微笑んだ。
「さ、戻ろうか」
これで長かった学内トーナメントも終了だ。
俺の立ち回りは果たして正しかったのか?
今後の破滅ルートを回避する方向に働いたのか?
あらためて検証する必要があるな――。
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