16 悪役と天使


「ごめんね。放課後にわざわざ呼び出して。決勝戦、近いのにね」

「別にいいよ。その決勝戦の調整のためにも、適度に対人練習ができる方がありがたい」

「あたしじゃ練習相手にならないかもよ?」

「それはない」


 俺はセレンを見つめる。


「君は、強い」

「……へえ?」


 俺の言葉にセレンの片眉がぴくりと上がった。


「どうしてそう思うの? そりゃ、学年平均よりは上だよ。だってあなたたちと同じクラスにいるんだし。でも、学年最強のレイヴンくんから見たら――」


 彼女の能力は未知数だ。


 セレンというキャラはゲームには登場しない。


 ただ、だからといって彼女がモブなのかといえば、多分それはない。


『編入生が来る』なんていかにもなイベントをモブキャラクターに割り当てるわけがない、と思ったからだ。


 まして『主人公』のマルスや『悪役』の俺がいるクラスに。


 なら、彼女には重要な役割があるのかもしれない。


 しかも、それがゲーム外のキャラクターとなれば――。


 セレンは【神】に関連するキャラクター……という可能性がある。


 とはいえ、確証はないし、俺がそう思っていることを彼女に伝えるのは早計だろう。


「魔術師のカンってやつだ」


 俺はニヤリと笑った。


「決勝戦の相手、マルスは手ごわい。俺も万全の準備をしたいんだ。だから未知の強豪かもしれない君は、練習相手としてすごくありがたい」

「じゃあ、やってみよっか?」


 セレンがにっこりとした顔で促す。


「あたしも楽しみ。学年最強――いえ、学園最強のあなたの力を味わわせてね……ふふっ」


 ごうっ……!


 彼女の全身から魔力のオーラが立ち上る。


 確かに、魔力は高い。


 けれど、それは一般的な基準での話だ。


 一年の中では上の中レベルじゃないだろうか。


 俺や帝王ブライたちに比べれば、かなり劣る――。


「……いくよ?」


 次の瞬間、セレンが突っこんできた。


 背中に輝く翼が生える。


 魔力が翼のような形になっているのか……?


 ごうっ!


 俺も魔力のオーラを噴出し、迎撃態勢を取った。


 果たして、セレンの実力のほどは――。




「ふうっ、やっぱり全然敵わない……」


 数分後、セレンはその場にへたりこんでいた。


 試合は、俺の完勝だった。


 拍子抜けするくらい、彼女はほとんど何もできなかった。


 けれど――、


「今のは、本気だったのか?」


 俺は強い違和感を抱いていた。



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