17 迫る決戦
「ん? 本気だよ?」
セレンが微笑んだ。
「『君は強い』なんて評価してもらって申し訳ないけど――残念ながら、これがあたしの力。期待外れだったらごめんね」
「……いや」
俺は首を左右に振り、
「そういえば、君の背中から翼みたいなものが生えていたけど、あれはなんだ? 見たことがない術式だった」
「ん? 魔力を翼の形にして噴出してるの。空中移動とか加減速に便利なんだよ? 一回起動すれば、いちいち別の術を使わなくても移動術系統は一通り使えるし」
と、セレン。
「あたしは【天使の翼】って呼んでる」
「天使……か」
まるで【神】の使いであることを暗示するような名前だ。
「天使みたいに可愛いあたしにピッタリでしょ?」
あ、天使ってそっちか……。
「相手してくれてありがと。噂の超天才さんと試合ができて光栄だった」
「いや、こちらこそ。未知の術式を相手にできて勉強になったよ」
「あはは、そう言ってもらえたら、ますます光栄だね」
言って、セレンは背を向けた。
「決勝戦、がんばってね」
「……ああ」
――それから、しばらくの時間が経った。
「いよいよ明日ですね」
その日の夜、実家でキサラが話かけてきた。
「ああ。マルスとの決勝戦――」
自然と言葉に力がこもる。
あいつとは、いい友人になれたと思っている。
前世にはそういう存在はいなかったけど、もしかしたら親友って呼んでもいいのかもしれない。
だけど、だからこそ――。
「負けたくない」
俺の言葉に、さらに熱がこもる。
「お友だちなのに?」
「友だちだからだ」
キサラの問いに俺は答えた。
そう、友だちだから負けられない。
マルスは、俺に憧れていると言っていた。
そんな『憧れのレイヴン』が弱かったら、マルスもがっかりするだろう。
俺は奴の憧れを壊さないためにも、『強い俺』であり続けなきゃいけない。
それが友としての責任だ。
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