15 レイヴンの正体


「ふん、大した奴だ」


 レイヴンが俺を見て、小さく笑った。


「……お前のことを聞きたい」

「何?」


 俺はさっき思いついた『こいつの正体』について確かめることにした。


「お前は――『本来のレイヴン・ドラクセル』なんじゃないか?」


 俺はしばらく前に突然『前世』を思い出した。


 ただ、それ以前から俺は自分の意識を持っていたし、『前世の自分』に意識を乗っ取られたわけじゃない。


 自分の記憶の中に『前世の自分』の記憶が新たに現れた――と、考えていた。


 けれど、本当に『俺』は最初から俺だったんだろうか?


 もしかしたら、もともとは『レイヴン・ドラクセル』というゲームそのままの意識が存在し、そこに俺の意識なり魂なりが宿った――という可能性はないだろうか?


 そして今、俺は自分の精神世界で『レイヴン・ドラクセル』に出会った。


 だから、以前の疑問が解消された気がしたんだ。


『前世の記憶』がよみがえったあの日――『俺』は『レイヴン』を乗っ取ったんじゃないか、と。


「……だいたいは察しているようだな」


 レイヴンが言った。


「俺がお前を乗っ取った、ということか?」

「乗っ取るというのは少し違うな」


 レイヴンが笑った。


「もしかして罪悪感でも持っていたのか?」

「まあ、な」


 俺はうなずいた。


「けど、乗っ取りじゃないというなら――お前の正体はなんだ?」

「だから『レイヴン・ドラクセル』さ。お前の想像通り、な」


 レイヴンが笑う。


「ただ、お前の存在によって俺の意識が『レイヴン』の体から追いやられたわけじゃない。俺は――『神』によってこの体から追い出されたんだ。正確には『主導権』をお前に譲るよう命令された」

「神……?」

「便宜的に俺はそう呼んでいる。実際の正体は分からない。神か悪魔か、それとも別の何かなのか――」


 たずねる俺にレイヴンが言った。


「ただ、この世界には俺たちの考えが及びもつかないような『超存在』がいるようだ。そいつによって俺はこの体の『主導権』を失った。精神世界の片隅に宿り、お前が人生を謳歌するのを羨む毎日さ」

「レイヴン……」


 俺は彼を見つめた。


「その神はどうしてお前から『主導権』を奪ったんだ?」

「分からない。神の思し召しだろうさ」


 レイヴンが冗談めかして言った。


「だが忘れるな。お前が今、『レイヴン・ドラクセル』なのは間違いなく『神の意志』だってことをな。俺もお前も――神の操り人形に過ぎないのかもしれん」

「操り人形……」


 その言葉は、俺の胸に重く響いた。





****

〇『魔族のモブ兵士に転生した俺は、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために限界を超えて努力する。やがて下級魔族でありながら魔王級すら超える最強魔族へと成長する。』

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