16 そして戦いは続く
「ふう……」
精神世界での修練を終え、俺は現実世界に意識を戻した。
とりあえずレイヴンに勝ったことで、俺の精神力は大幅にアップした。
さらに精神力を鍛える方法はないのか、聞いてみたけれど――、
『この修業は連続ではできないんだ。時間を置き、お前の精神性がある程度の変化、成長を経た後ならともかく』
という返事だった。
どのみち、あまり長時間、精神世界にいると俺自身の精神によくない影響があるらしく、いったん現実世界に戻るように言われてしまった。
――というわけで、俺はこうして意識を戻したわけだ。
「本来のレイヴン……か」
もともと、この体はあいつのものだった。
この体に宿っていた意識はあいつだ。
なら、俺はこの体を借りている、ってことだよな?
そして、その状況を作ったのはレイヴンの言うところの『超存在』――神。
うーん、分からないことだらけだな。
このゲームにおいて神は何体かいる。
主神や戦神、癒しの女神に冥王神など……でも、レイヴンが言っていた『神』はそのどれとも違うニュアンスだった。
たぶん、もっと違う存在ってことなんだろう。
とはいえ、現時点でそれ以上のことは分からないし、考えても無駄だ。
まず、今できることをやる。
今考えるべきことを考える。
となれば――。
結局、マルスにゲームシナリオ通りに覚醒してもらって、対魔王の筆頭戦力になってもらう。
その一方で俺も精神魔法をもっと鍛えて、いざ魔王が『洗脳』という手段い出てきても対抗できるようにしておく。
この二点か。
マルスとの関係は今のところ良好だし、ゲームみたいに敵対関係にはならない……と仮定するなら、彼の覚醒を促すには決勝戦で俺とマルスが対戦し、彼に俺を乗り越えてもらうことだ。
「……よし、トーナメントが始まる前は迷いもあったけど、だんだん方針がはっきりしてきたぞ」
がんばろう。
生きるために。
俺が幸せに過ごしていくために。
破滅の運命を必ず跳ねのけてみせる――。
翌日、俺はいつも通りに登校した。
「昨日はありがとう、キサラ」
「えっ」
「精神世界で鍛錬するための道具を見つけてくれただろ。おかげで俺、精神力がだいぶ磨かれたぞ」
俺はキサラに微笑んだ。
「君のおかげだ」
「じゃあ、自分を乗り越えた、ということですか? 昨日一日で!? すごいです!」
キサラが目をキラキラとさせた。
「自分を超えるための試練って超難易度なんですよ。普通は五年とか十年……いえ、もっとかかる人もいるのに」
「そんなに難しい試練だったのか」
「ええ。ですから普通はもっと簡単な試練からやるのですが……」
「もっと簡単な試練なんてあったのか」
「? 教えてもらえませんでしたか? あの道具を使うと、まず精神世界の案内人のような存在が出てくるんですけど」
「??? 出てこなかったぞ」
「えっ」
「えっ」
どうも話が食い違うな。
もしかしたら、俺の精神世界はなんか特殊なのかもしれない。
転生者ってこともあるし、『神』とやらが本来のこの体の主であるレイヴンを押しのけた影響なんかもあるのかもしれない。
うん、本当に分からないことだらけだ、この世界――。
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