13 レイヴン・ドラクセル


「レイヴン・ドラクセル。お前自身さ」


 彼が名乗った。


「とはいえ、本質はまったく違うけどな。お前みたいな甘ちゃんと違い、俺は運命を受け入れた存在だ」

「えっ……?」

「この世界において『悪役』となるレイヴン――お前はそれを受け入れられず、運命を変えようとしている。自分が生き延びるために」


 な、何を言ってるんだ、こいつは――。


 まさか。


 まさか、こいつは――俺がこの世界で味わう出来事や、その行く末を知っているのか?


「いや、ここは俺の精神の世界のはず。なら『俺が知らないことを知っている』存在なんていない――」


 普通に考えればそうだ。


 だけど、俺は頭の片隅で『もう一つの可能性』を考えていた。


「まず、お前の力を見てやろう」


 レイヴンがあごをしゃくった。


「来い。全力でな」

「それは精神世界の鍛錬につながるのか?」


 たずねる俺。


「当然さ。俺はお前の前に立ちはだかる『自分自身』だ。それに勝つということは『自分自身を乗り越える』ということ。それができれば――お前の精神力は飛躍的に成長する」


 レイヴンが説明した。


「なるほど……じゃあ、お前に勝てば俺の精神力が強くなる、ってことだな」


 分かりやすくていい。


 ボウッ!


 俺は全身から魔力のオーラを発した。


「さっそく挑ませてもらう」

「なかなか好戦的だな」

「戦いが好きなわけじゃない。ただ強くなりたいだけだ」


 俺はレイヴンを見つめた。


「強くならなきゃ、俺は未来をつかめない」


 破滅の未来以外の未来を――つかめないんだ。


「だから……全力でお前を倒す!」

「いいだろう。やってみせろ」


 ボウッ!


 レイヴンも全身から魔力のオーラを発した。


 強い――。


 俺と同じか、もしかするとそれ以上……!?


 信じられないほど強大な魔力を身にまとっている。


 修行を続けてきた俺の方が、まったく努力しないレイヴンより魔力だって大きいはずなのに――。


「先に言っておく」


 レイヴンがニヤリと口角を吊り上げ、笑った。


「俺は強いぞ」

「俺もだ」


 俺もニヤリと笑みを返す。


 半ば虚勢だけど、ここで気圧されるわけにはいかない。


「いくぞ――」




 戦闘が、始まった。


 最初に宣言していた通り、確かにレイヴンは強い。


 俺の魔法は奴の魔法にことごとく撃ち落とされた。


「こいつ……っ!」


 相手の攻撃も俺の魔法で撃ち落とせるから、少なくとも攻撃魔法の威力はだいたい互角らしい。


 なら、勝負を決めるのは――。


「【バニッシュフレア】!」


 俺は得意の火炎魔法を放った。


「【ファイア】!」


 レイヴンも火炎魔法でこれに対抗する。


 同じ火炎魔法でも俺の方がランクはずっと高い。

 そもそもゲーム内のレイヴンは【ファイア】【サンダー】【シールド】の三種の魔法しか使えないからな。


 ただ、やはりこのレイヴンの魔力は俺より高いらしい。

 その差が、俺とレイヴンの攻撃魔法のランク差を埋め、ちょうど互角の勝負になっているのだ。


 俺たちの火炎は空中でぶつかり、ともに消滅した。


 またも互角――。


「おおおおおおっ……!」


 俺はその瞬間、突進した。


「何……!?」


 レイヴンが驚いたように俺を見つめる。


「遠距離からの撃ち合いじゃキリがない。ここは――接近戦といこうか」


 ……俺は知っている。


 ゲーム内のレイヴンは確かに最強の魔術師だけど、近接戦闘能力が低い。


 めちゃくちゃ低い。


 だから、目の前のレイヴンも同じように近接戦闘は弱いんじゃないだろうか?


 対する俺は――魔法学園に入るまでの一年間、みっちり格闘を鍛えてきた。


 もともと自分のスペックが『近接戦闘が弱すぎる』ってことを知っていたからな。


 それを少しでも克服すべく、ずっと鍛えてきたんだ。


 同じく『近接戦闘が弱い』者同士でも、何も努力していない者と一年間必死に努力してきた者――。


「さあ、強いのはどっちかな……!」


 俺はレイヴンに肉薄する――。



****

〇『魔族のモブ兵士に転生した俺は、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために限界を超えて努力する。やがて下級魔族でありながら魔王級すら超える最強魔族へと成長する。』

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