7 魔力測定


「ごきげんよう、レイヴン、キサラ」

「おはよう、マチルダ」

「おはようございます、マチルダ様」


 俺とキサラは家から一緒に通い、通学路でマチルダに出会った。


「あ、あの、私はお邪魔ではないでしょうか……」


 キサラが遠慮がちに言って、俺たちから離れようとする。


「いや、なんで邪魔なんだよ?」

「あたしたちに遠慮しないでよ、キサラ」


 俺とマチルダが同時に言った。


「そもそも婚約者って言っても形式的なものだし。別に恋人同士とかじゃないよな、マチルダ」

「……………………えっ?」


 なんだ、その間は?


 そもそも、どっちかというとマチルダの方が俺に対して冷めた気持ちを持ってるんじゃなかったっけ?


 っていうか、ゲーム内だと君はマルスにデレるんだぞ。


「レイヴン様、鈍感」


 なぜかキサラにジト目で見られた。


「本当に鈍感よね、もう」


 なぜかマチルダにまでジト目で見られた。


「いやいやいや、会話の流れがおかしいって」


 抗議する俺。

 と、


「や、やあ、レイヴンくん」


 遠慮がちに声をかけてきたのはマルスだった。


「おはよう、マルス」


 俺は振り返って挨拶を返し、


「なあ、俺って鈍感じゃないよな?」

「えっ? えっ?」


 マルスは戸惑った様子だ。


「ま、まあ……よく分からないけど、鈍感じゃないんじゃないかな? 昨日も僕を気遣って助けてくれたわけだし……」

「おお、心の友よ」


 俺はマルスの両手をがっしり握った。


 俺を理解してくれるのはお前だけだ。


「……そういう意味の鈍感とは違うんですけどね」

「だよね」


 キサラとマチルダは呆れたような態度で顔を見合わせている。


 なんなんだ、一体――。




「諸君の実技を主に担当するレナ・アーシュレイだ。よろしく」


 教官が壇上から挨拶をした。


 二十代半ばくらいの美人だ。


 ツインテールにした青い髪に、勝ち気そうな容姿。


 ゲーム内では作中屈指の強キャラであり、ファンも多い。


 っていうか、俺も持ってたなぁ、レナのカード……。


「なんだ? 何か言いたげだな、レイヴン・ドラクセル」


 と、レナ教官が俺を見つめた。


「いえ、その……強そうだなぁ、って」


 適当な返しを思いつかず、俺はそんな返答をしてしまった。


 ……『強そう』って。


 もうちょっとマシな返答はないのか、俺。


「……ほう?」


 レナ教官の目つきが変わった。


 ギラリとした眼光を俺に向ける。


「まず強さで相手を判断する――私と似ているな、貴様」

「えっ?」

「確か入試の成績はトップだったな。なるほど、いい魔力をまとっているし、何よりも目つきがいい。『戦士』の目だ」


 なぜか気に入られてしまったようだ。


「貴様を鍛えるのは、なかなか楽しそうだ」


 レナ教官がニヤリと笑う。


 どうぞお手柔らかに……。


 俺は内心でつぶやいたのだった。




 二限目はさっそく実技の授業だった。


「各自の入試の成績は見せてもらっているが、やはり実際に魔法を使うところを見てみたい。今日は全員に攻撃魔法、防御魔法をそれぞれ使ってもらう」


 レナ教官が言った。


 俺たちが集められているのは、魔法修練場。


 その中でも、ここは生徒の魔力や魔法の攻撃力など様々な数値をデータ化できる部屋だった。


 壁の左右には魔導機械らしきものがビッシリと置かれていて、ファンタジーというより科学の実験室みたいな雰囲気になっている。


「順番はランダムだ。最初は――マチルダ・テオドール」

「はい!」


 元気よく答えて進み出るマチルダ。


「向こう側に的が見えるだろう。そこに向かって、自分が一番得意な――もっとも高威力の攻撃魔法を撃ってみろ。その威力が数値化される」

「つまり――このクラスの生徒の『魔法攻撃力』が全部数値化されるわけですね?」

「そういうことだ。当然、貴様らの間での序列もできるだろう。数値がすべてではないが、重要な要素だ。誰の魔法が一番強力なのか――一目瞭然となる」

「では、全力でいきます」

「当然だ」


 マチルダの言葉にレナ教官が促す。


「制限時間は三分。やれ」

「はい……!」




 そして、次々に生徒たちが攻撃魔法を放っていった。


 マチルダの次はローゼ、しばらく順番が飛んでキサラ、さらにバルカン、また順番が飛んでマルス――。


 俺は、クラス内で最後だった。


「うっ、みんなが見てる」


 俺が進み出ると、クラス全員の視線を感じた。


「当然だろう。貴様は入試で一位の成績を叩きだした。現時点でこの学園のナンバーワンなのだから」


 レナ教官が薄く笑う。


「当然、この場ではナンバーワンにふさわしい数値を出さなければ、舐められるぞ」

「プレッシャーかけてきますね……」

「なんだ? この程度のプレッシャーに負けるタマか、貴様は?」


 レナ教官はにこやかな笑顔で言ったた。


「っていうか、めちゃくちゃ楽しんでませんか……?」

「まあ、本音を言うと楽しいぞ。毎年これをやっているが、生徒たちの緊張や序列付けなど、本当に楽しめる。くくく」

「まったく……」


 苦笑しつつ、俺は気合いを入れ直した。


 じゃあ、いっちょ――今の俺の『全力』をぶちかましてみるか。





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