6 学園生活、1日目終了
「……というわけで、マルスと友だちになったんだ」
学校が終わり、自宅に戻った後、俺はキサラに今日のことを話した。
「まあ、レイヴン様にお友だちが! よかったです!」
キサラは、すごく喜んでくれた。
「私……レイヴン様には友だちなんて誰一人できないんじゃないかと心配していたんですよ」
「そ、そうなの?」
「あ、いえ、昔のレイヴン様はともかく、今のレイヴン様なら友だちができても不思議じゃないですね、えへへ」
地味に昔のレイヴン――要は俺の意識が芽生える前の『悪役』レイヴン――をディスってるな、キサラ……。
まあ、それは無理もないか。
もともとのレイヴンは傲岸不遜にして冷酷非情。
友だちができるようなタイプじゃない。
その絶対的な実力と才能で回りを黙らせ、従えるような暴君キャラだからな。
ゲームの主人公マルスもそんなレイヴンに反発し、やがて敵対していくんだけど――。
俺は、もちろんそんな道は歩まない。
「楽しい学園生活になるといいですね」
「ああ。マルスがいるし、もちろんキサラもいるし」
「えっ、わ、私ですか……!?」
キサラが驚いたように目を丸くした。
「キサラと一緒に学園に通えて嬉しいよ」
「っ……!」
彼女はますます目を丸くした。
「こ、こ、光栄……です……」
か細い声でつぶやく。
狐耳がぴょこぴょこと落ち着きなく動いていた。
「キサラ……?」
「私も……レイヴン様と一緒に学園に通えて、幸せです……」
言って、はにかんだ笑みを浮かべる。
その可愛らしさに、俺は一瞬息を止めた。
やっぱり、可愛いな――。
※
「~~~~~~!」
レイヴンと別れ、自室に戻ったキサラは枕に顔をうずめた。
『キサラと一緒に学園に通えて嬉しいよ』
先ほどのレイヴンの言葉を脳内で繰り返す。
何度も、何度も。
「うふふふふ……ふふふふふふ……」
自然と笑みがこぼれた。
レイヴンの前であからさまにニヤけるわけにはいかないので、一人になるまでずっと我慢していたのだが――。
自室では遠慮する必要はない。
彼に対する恋心は一年近く前から、はっきりと自覚していた。
そう、彼が心を入れ替え(?)、魔法の修行に励むようになってからだ。
それまでは傲岸で、暴力的で、他者を虐げてばかりのレイヴンが苦手だった。
彼は自分に対して手を挙げたり、パワハラやセクハラといった真似はしなかったものの、ひたすら冷淡だった。
いつ爆発するのか分からない存在と接しているようで、毎日が恐怖だった。
けれど、ある日を境にレイヴンは変わった。
まさに『人が変わった』のだ。
以来、自分の力を磨くためにストイックな毎日を送り、使用人をはじめとする他者に対しても優しい態度をとるようになった。
ひたむきに修行する姿と優しい性格、その両方を間近で見続けているうちに、彼に対する嫌悪と恐怖は、好感と敬意に変わった。
そして、それらの気持ちが恋心へと変わっていくのに時間はかからなかった。
(私は……レイヴン様が好き)
もちろん身分の違いは承知している。
決して表にはできない気持ちだった。
自分の胸の中だけに秘めておく気持ちだった。
そもそも彼には婚約者がいるのだ。
自分が割って入る余地などない。
ただ、それでも――。
「今は……今だけは、あなたの側で……」
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