5 運命は変わり、友情が芽生える
「か、勝った――」
マルスが呆然と立っていた。
一方のバルカンもまた呆然自失だ。
「負けた……この俺が……」
がくりとその場に崩れ落ちる。
「ち、ちょっと待って! こんなのおかしいわ!」
抗議したのはバルカンの双子の姉、ローゼ。
「実力ではバルカンがはるかに上! こんな奴に弟が負けるはずがないのよ!」
キッとマルスを、そして俺をにらむ。
「君が何かしたんでしょう、レイヴン!」
「なんの話だ?」
俺はすっとぼけてみせた。
「バルカンが弱体化するような魔法を何か使ったんでしょ! 分かってるんだから!」
「仮に俺が何かをしたとして、一体どんな魔法を使ったというんだ?」
俺はニヤリと笑った。
彼女たちにとって未知の魔法である【認識阻害】を使っているんだ。
バレるはずがない――。
「た、たとえば、防御魔法で彼を守っていたとか……」
自信なさげにつぶやくローゼ。
「俺が防御魔法を発動するところを見たのか、君は」
「み、見てない――」
ローゼがうつむく。
「そもそも俺が何かの魔法を使うところ自体、君は見ていないだろう? 君が言っているのは単なる妄想だよ」
俺は淡々と諭した。
「それともう一つ言っておく。バルカンがマルスに負けるはずがない。実力では彼の方が上だから――と君の主張は間違っている」
「なんですって……?」
「実力が勝っている方が勝つんじゃない。勝った方が――勝利という事実こそが実力の証明なんだ」
「っ……!」
ローゼが言葉を失う。
実際、結果を出したのはマルスだ。
その結果の前に、負けた方が何を言っても言い訳になる。
「お、覚えてろ……っ!」
バルカンが吐き捨てた。
「ああ、ちょっと待て、バルカン」
俺はそんな彼を見据えた。
「君とマルスは正々堂々の勝負をして、君が負けた。だからこの件はこれで終わりだ。遺恨なんて残らない、ちゃんとした勝負だった。そうだよな?」
「レイヴン――」
「もし仮に、今後の学園生活で君やローゼがマルスに何かをするなら……遺恨を残すなら、そのときは俺も間に入らせてもらう」
「レイヴンくん……?」
マルスが驚いたように俺を見つめる。
「言ったろ。君は俺が守る、って」
俺はマルスにニヤリと笑った。
「友の危機は俺の危機。必ず守る」
ローゼとバルカン、そしてその取り巻きは去っていった。
姉弟はかなり悔しそうだったが――。
「ありがとう、レイヴンくん」
マルスが俺に礼を言った。
「最初にバルカンくんに絡まれたときは、正直言って怖かったんだ。君が一緒についてきてくれてよかった」
「役に立てたならよかったよ」
「それはもう! 僕一人じゃ怖がって、何もできなかったと思う。ただの臆病者だからね、僕は……」
根はネガティブなんだな、こいつ。
「何もできないなんてことはないだろう」
俺はマルスに言った。
「君は俺の陰に隠れていることもできた。でも、それをせずにバルカンに立ち向かった。勇気がある証拠だよ」
「レイヴンくん……」
「君が成し遂げたんだ。胸を張れよ」
俺はにっこり笑った。
「ありがとう……君にそう言ってもらえると、なんだか勇気が湧いてくるようだよ」
マルスは目をウルウルさせ、感激しているようだった。
「何度も礼を言わなくていいよ。友だちだろ」
俺はニヤリとする。
「友だち……」
「ああ」
俺はマルスに手を差し出す。
「友だちになろう」
「よ、喜んで……っ!」
マルスは俺の手を握り、さらに目を潤ませた。
こうして――。
俺は、将来俺を殺すであろう相手と友人になることに成功した。
運命が変わるのか。
変わらず、俺は死ぬのか。
先行きはまだ分からない――。
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