4 勝者と敗者
「へへ、いい度胸だ」
バルカンがほくそ笑んだ。
俺が思案している中、状況は止まらず、動いていく。
「おい、レイヴン。お前は手を出すなよ。いいな、絶対だぞ?」
俺をチラチラ見ながら念を押すバルカン。
相当俺にビビってるな、こいつ……。
「――分かった。約束しよう」
この場はこう言うしかない。
「マルス、大丈夫か?」
と、マルスに耳打ちした。
「はは、本当のことを言うと自信ないんだ」
……だよな。
「大丈夫だ。君には素質がある。自分を信じろ」
うーん、ありふれたアドバイスだなぁ、我ながら。
まあ、マルスに素質があるのは事実だ。
実際に、彼は成長力でいえば、天才である俺をも凌ぐ。
ただし、現時点でのスペックはバルカンより数段下だった。
まともに戦っても勝ち目はない。
「……俺がひそかにサポートしてマルスを勝たせるしかない」
だけど、方法が難しい。
俺がマルスに助力したことをバレないようにしないとな……。
となれば、炎や稲妻といった派手な魔法を使うのは論外だ。
不可視の攻撃か。
あるいは――。
「さあ、始めようか。危険防止のためにお互いに防御結界を三重にかけ、攻撃魔法を撃ちあう。三発食らった方が負け。これでいいか?」
「了解した」
言いながら、マルスの顔は青ざめていた。
緊張と不安が見て取れる。
マルス自身も、バルカンとの実力差は分かっているんだろう。
それでも逃げない。
さすが主人公の心意気……なんだけど、世の中はそんなに甘くない。
マルスは確実に負ける――。
「へへへ、いつでもいいぜ」
互いに三重の防御結界を展開し終えると、バルカンが言った。
「お前から撃ってこいよ」
「くっ……!」
挑発通り、マルスが魔法弾を放つ。
「遅い遅い」
が、バルカンは【加速】の魔法であっさりとそれを避けてみせた。
「速い――」「驚く前に、反撃に備えな」
ばしゅんっ!
バルカンは無詠唱で魔法弾を放ち、マルスに命中させた。
「こんな一瞬で魔法を発動するなんて――」
「ハア? お前、まさか無詠唱魔法も使えないのか?」
バルカンが呆れたような顔で言った。
「……使えない」
マルスは悔しげだ。
「はあ……それじゃ相手にもならねぇな」
馬鹿にしたように肩をすくめつつ、バルカンが魔法弾をまた放った。
今度も無詠唱魔法だから発動が早い。
「くっ……」
避けきれず、マルスが二発目を食らってしまった。
これでツーアウト。
次に食らったら、マルスの負けだ。
マルスの方も何度か反撃はしているけど、バルカンの【加速】の前に全部避けられてしまっている。
やはり実力差は大きいか――。
「ははは、相手にならねぇな!」
バルカンが三度魔法弾を放った。
マルスは避けきれない。
だが――、
どんっ!
「えっ……!?」
驚いたような声を上げるバルカン。
奴が放った魔法弾は、マルスがいる場所から数メートル離れた場所に着弾したのだ。
「くそっ、俺としたことがコントロールミスを――」
バルカンは舌打ちしつつ、ふたたび無詠唱で魔法弾を放つ。
どんっ!
が、結果は同じだ。
奴の攻撃がマルスから離れた場所に着弾する。
「な、なぜだ――」
バルカンは呆然とした様子だった。
「やれ、マルス!」
俺は彼に指示した。
呆然と立ち尽くしているバルカンになら、マルスの腕でも攻撃を当てられる。
「よ、よし! 【魔弾】!」
マルスは魔法弾を放ち、バルカンに命中させた。
「し、しまった――」
さらにバルカンは何度か魔法弾を放つが、いずれもマルスを捉えられず、あさっての場所に着弾する。
対するマルスはその隙をついて【魔弾】を放ち、またもや命中。
これで二対二の同点になった。
次の一撃を当てた方が勝利だ――。
「どういうこと……?」
ローゼが眉を寄せる。
「単なるコントロールミスじゃない。バルカンは何かをされている……」
つぶやきつつ周囲を見回し、さらにマルスを見つめる。
そして俺にも視線を向けた。
……明らかに俺が疑われている。
まあ、そうだろうな。
バルカンに攻撃魔法のコントロールミスを誘発させる――。
そんな高等魔術をマルスが使えるはずがない、と踏んでいるのだ。
実際、その読みは大体当たっている。
俺は――バルカンの認識を阻害する魔法を使っていた。
奴のコントロールが微妙に外れるように――奴の『距離感』を少しだけ変えてあるのだ。
だから、普通に撃てばマルスから少し外れた場所に着弾する。
とはいえ、この【認識阻害】は俺の固有魔法だった。
ゲーム内でこれを使えるのはレイヴンだけ。
たぶん他の連中はこの魔法の存在すら知らないだろう。
そう思って試しに使ってみたけど、やっぱり誰も気づいていない。
なので遠慮なく使い続ける。
どんっ!
やがて最後の一発をマルスが当てて、バルカンの敗北が決まった。
バルカンの方は最後まであさっての場所に攻撃を撃ち続けていた――。
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