3 強者と弱者

「さあ、手合わせしようか。軽くな」


 俺はバルカンに言った。


「……どういうつもりだ」


 バルカンが俺をにらむ。


「言葉のままさ。俺も他の生徒の力を知っておきたいし」

「くっ……」


 平然とした俺とは対照的に、バルカンはすでに青ざめている。


 自分より実力が劣る相手を叩きのめそうとしていたところに、明らかに自分より強い相手――つまり俺が現れたから、精神的にかなり揺らいでいるようだ。


 学生時代にも、そして社会人時代にもいたよな、こういう奴。


 自分より弱い相手には徹底的に居丈高、だけど自分より強い相手には媚びへつらう。


「ま、待て、俺もちょっと調子がよくなくて……」


 バルカンが弱腰になって言った。


「今日はちょっと――」

「そうか。じゃあ、日をあらためよう」


 俺はバルカンに微笑んだ。


「えっ? えっ?」


 バルカンは戸惑っているようだ。


「ど、どうして俺と戦いたがるんだ? 別に俺たちが戦う意味なんてないだろう――」

「どうしてって……強い奴と戦いたいからさ」


 俺は微笑を絶やさず、


「君だってそうだろう? もともとはマルスの力を知りたくて手合わせを申し出たんだろう? その相手が俺に代わっただけだ」

「うう……」

「それとも――マルスに手合わせを申し込んだのは、もっと別の理由があるのか?」

「っ……!」


 痛いところを突かれたはずのバルカンは言葉を失う。


「……それくらいにしておいたら、レイヴン」


 ローゼが進み出た。


「君は強いわ。悔しいけれど、現時点では新入生の中で頭一つ二つ抜けているでしょう。そんな君が、わざわざ格下のバルカンと戦うの? 自分より確実に弱い相手をいたぶりたいの? それは強者のふるまいとは言えない」

「じゃあ、バルカンがマルスとわざわざ手合わせしようとしたのはどうなんだ?」


 俺はローゼを見つめた。


「バルカンこそマルスを格下とみなして挑んだんだろ? 俺はそれが気に入らなかっただけだ」


 言って、俺は視線をローゼからバルカンに移す。


「うっ……」


 バルカンは気圧されたように視線を逸らした。


「……いいんだ、レイヴン」


 マルスが突然会話に割って入った。


「マルス……?」

「僕のために気遣ってくれてありがとう。けれど、これはやっぱり僕の戦いだ」


 マルスは凛とした顔で言い放つ。


「バルカンの挑戦を、僕は受けるよ」


 おお、さすがは主人公だ。


 ……なんて感想言ってる場合じゃないか。


 この場面、俺はどう立ち回るべきか――。


 結局、回り回ってゲームシナリオ通りのシチュエーションになってしまった。


 もしかしたら、俺が思っているよりも、この世界の――いわゆる『修正力』は強いのかもしれない。


 俺がどんなに運命に――つまりゲームシナリオに抗い、ゲームシナリオとは違う歴史を作ろうと考えても、結局『世界の修正力』みたいなものが働き、シナリオ通りの流れに戻されてしまう。


 だとすれば、俺がいずれ殺される運命は変わらない可能性がある。


「……冗談じゃない」


 絶対に覆してみせる。


 シナリオを。

 運命を。


 その『試金石』として、このイベントはうってつけだ。


 マルスの負け確イベントである、この戦いを『マルスの勝利』という形で終えられたら――。


 それはつまり『運命を変えられる』という何よりの証拠になる。







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