2 悪役と主人公
「よう。お前、名前は?」
と、バルカンがまっすぐマルスに歩み寄った。
「マルス・ボードウィンです」
答えるマルスは生真面目そうな少年だった。
良くも悪くも凡庸な印象を受ける。
実際、この時点のマルスの能力はA組の連中より、かなり見劣りする。
学園側の手違いでA組に入っただけで、本来なら最下位のE組相当の実力だからだ。
ただし――成長性は高い。
ゲーム内では数々のイベントを通して、魔力をアップさせていき、やがてはA組の生徒を上回るほどの魔術師へと成長していく……というのが、ゲーム内での大まかなストーリーだった。
「大した魔力を感じねぇなぁ。お前、本当にA組か? ええ?」
バルカンが脅すように言った。
いやな絡み方だ。
「お近づきのしるしに手合わせしてくれねぇか? 今日は昼までで学校が終わりだから、その後に。中庭で待ってるからな」
「て、手合わせ……?」
「A組同士だ。本気の魔法バトルをしてみようぜ。俺は強い奴と戦うのが大好きでなぁ」
バルカンは好戦的な性格だ。
手合わせといいつつ、マルスを叩きのめすつもりだろう。
そうそう、ゲーム内でもバルカンとマルスの決闘イベントがあったなぁ。
俺は記憶をたどった。
いわゆる負けイベントであり、主人公が最初に魔法学園で挫折を味わうことになる。
ただ、その負けがきっかけで、主人公はさらに努力をして強くなっていくんだけど――。
「じゃあ、待ってるぜ」
バルカンはニヤリと笑って背を向けた。
「ど、どうしよう……」
一方のマルスは青ざめた顔だ。
「僕、なんでA組なんかに入ったんだろう……」
「災難だったな」
俺はそんなマルスの元に歩み寄った。
「君は……」
「レイヴン・ドラクセルだ。初めまして」
俺はマルスに微笑み、手を差し出した。
ゲーム内での『レイヴン死亡』の運命を変えるために――。
俺はマルスと友だちになる。
「よ、よろしく」
マルスは俺の手を握り返した。
「……さっきのやり取りを見てたよ。クラスに入った早々、嫌な奴に絡まれたな」
「うん、どうしよう……」
「心配するなよ。俺が一緒についていくから」
「えっ」
「俺が君を助ける」
マルスに向かって、俺はにっこりと笑った。
今日は入学初日ということで、自己紹介や年間のカリキュラムの説明、校内施設の案内などで終わった。
で、昼までにそれらの行事が終わり、早々と下校時刻になる。
「はあ……中庭に行くんだっけ……」
帰り支度を整えている生徒たちの中で、マルスが憂鬱そうにため息をついているのが見えた。
俺は彼の元に近づき、
「朝に行った通り、俺が一緒に行くよ」
「レイヴンくん……じゃなかった、ドラクセル伯爵令息」
「そんな堅苦しい呼び名じゃなくていいよ。レイヴンって呼んでくれ」
「えっ、でも――」
「ここでの俺は貴族じゃない。ただの生徒だ」
俺はにっこり笑った。
我ながら爽やかな態度を取れたと思う。
「俺も君のことをマルスって呼んでいいかな?」
「も、もちろん」
「よかった。じゃあ、よろしく」
俺はマルスと一緒に中庭に向かった。
そこにはバルカンとローゼ、さらに十数人の生徒が待っていた。
「ん? 一緒にいるのはレイヴンくんか。マルス一人で来ると思ったのに」
俺には『くん』付けで、マルスは呼び捨て……この辺からして扱いが違うな。
「彼は体調が優れないそうだ。代わりに俺が相手をさせてもらうよ、バルカンくん」
ニヤリと笑って、バルカンに語り掛ける俺。
「……………………はい?」
さすがに予想外だったのか、バルカンがポカンとなった。
「マルスと手合わせしたいって話だったろ? けど、あいにく彼は調子が悪い。だから俺が代わりに戦う。分かったか?」
「えっ、いや、その……」
バルカンは目に見えてうろたえだした。
本当は、この人数の前でマルスを叩きのめし、彼に大きな屈辱感を与えたかったんだろうが――。
そうはいかない。
屈辱を味わうのはお前だ、バルカン。
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