温かな春がくる
登場人物。
性別:男
年齢:23
身長:176
性別:女
年齢:23
身長:162
性別:女
年齢:23
身長:149
性別:男
年齢:23
身長:186
〈1〉
まだまだ寒い2月の夜。
こたつに深く入っている。
そんな太希のスマホが鳴る。
太希が画面を確認すると高校の時から付き合いがある
「あい?」
そう少し
「太希君。今からイルミネーション見に行こう。」
そう言う水樹の声は太希とは違って元気いっぱいだった。
「イルミネーション?外に?」
「当たり前でしょ?」
そう水樹は少し呆れた声で言葉を返す。
太希の目線は窓の外に向く。
「…嫌だよ。寒い…」
「じゃぁ。待ってるから。
車で迎えにきてね。よろしく。」
そう水樹は太希の言葉をかき消して早口で言うと一方的に電話をきる。
太希は無言で静かになった自分のスマホを見つめる。
「…行くかぁ。」
そう太希はダルそうな声で呟くと寒い外の世界に出かける。
※
「おぉ。綺麗だね。」
そう水樹は並木道に飾られたイルミネーションを見上げて声を
「ほらほら。太希君、なにやってるの?
この先に大きなツリーに飾られたイルミネーションもあるんだよ?」
そう水樹が後ろをトボトボ歩いている太希に声をかける。
「よく、こんな寒い日にそんなに元気でいれるなぁ。さっき道路にあった
そう太希はブツブツ文句を言いながら歩く。
そんな太希に水樹は呆れたため息をこぼすと太希の左腕に抱きつく。
その水樹の行動に太希は「え?!」と言って驚く。
「これで少しは温かいでしょ?」
そう水樹は可愛く微笑む。
「こうやって歩いてると私達、まるでカップルみたいだね。」
そう水樹が嬉しそうな声で太希に話しかける。
その言葉に太希はなんと言葉を返せばいいか分からなかった。
※
「おぉ。大きい~。」
そう水樹は大きな広場の真ん中に立っているツリーを見上げて声を挙げる。
そのツリーには色んな色に輝くイルミネーションが飾られている。
その光景はまるでおとぎ話の世界の様に美しかった。
「綺麗だね。太希君。」
そう水樹は感動した声で言う。
嬉しそうな表情をしている水樹の方へ太希は軽く目線を向ける。
その後、目線を目の前の大きなツリーに向けると小さな声で「あぁ。綺麗だな。本当に。」と答える。
「ありがとうね。付き合ってくれて。」
そういきなりお礼を言われて太希は驚く。
「なんだよ。急に。」
「昔からそうだったよね。」
「え?」
「私の我がままに太希君は文句を言いながらも付き合ってくれる。」
不思議そうな表情をしている太希に水樹は目線を向ける。
「本当にありがとう。
そして、これからも色々と付き合ってね。」
そう水樹は満面の笑みを見せる。
そんな水樹の笑みに軽く微笑むと太希は目線をツリーに戻す。
「りょ~かい。」
そう太希は嬉しさを隠して小さく返事を返す。
※
そして、数日後の2月14日の昼。
太希は仕事部屋で仕事を進めていた。
太希の仕事はWeb小説家だ。
依頼された作品を書いたり、ネットの小説サイトに自分の作品を投稿したりしている。
だが、今日はどうも調子が悪い。
全然筆が進まないのだ。
(実際はパソコンで書いてるので正しくは指が進まないである。)
かれこれ朝から5時間ほどパソコンの前で文字をうっては違うと言って消し、また文字をうつを何回も繰り返している。
「今日はダメだな。」
そう諦めた太希は仕事部屋を出る。
そしてそのままキッチンに向かうと
インスタントのミルクティーを作る。
そのミルクティーを持ってこたつに入るとスマホを確認する。
すると水樹からメッセージがきていた。
〔今日、太希君の家でバレンタインパーティーをやるのでチキンを買っておくように。〕
「バレンタインパーティー?なんだそれ?それにチキンはクリスマスに食べるものじゃなかったか?」
そう言いながら太希は首を傾げる。
その後、太希の目線は窓の外に向く。
「…外…寒そうだなぁ…。
でもまぁ、暇だし買いに行くか。」
そう呟くと太希は“了解”とメッセージを返す。
〈2〉
そして、その日の夜。
「チキン。チキン。チキン。」
そう水樹はこたつに入って子供の様にチキンコールをする。
「うっさいぞ~ぉ。今温めてるだろうがぁ。ワインでも準備してろい。」
そう太希がキッチンから水樹に声をかける。
「イエッサー。シェフ。」
「誰がシェフじゃい。」
※
「それではロマン溢れるバレンタインに乾杯。」
そう言って水樹は赤ワインが入ったグラスを掲げる。
「へ~い。」
そう太希は適当な返事をして水樹のグラスに自分のグラスを当てる。
その後、2人は赤ワインを1口飲む。
「う~ん。美しい味がするね。」
そう水樹がどや顔でワインの感想を話す。
「なんだよ、美しい味って。」
そう太希が呆れた目を向けながらツッコム。
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃん。
チキン食べよう。チキン。」
そう言って水樹は皿に乗ってあるチキンを1つ掴むと1口食べる。
「うま~ぁい。」
そう水樹は感動の声を
そんな水樹の嬉しそうな様子を見ながら太希も1口食べる。
「これはどこのチキンですか?奥さん。」
「誰でも知ってる有名チェーン店のチキンですよ、奥さん。」
※
「ふ~ぅ。食べた~ぁ。飲んだ~ぁ。
幸せだ~ぁ。」
そう水樹は幸せそうにこたつの机の上に顔を乗せる。
「そのまま寝るなよ?起こすの面倒だから。」
そう太希は流し台に洗い物を置きながら水樹に言う。
「わ~ぁてますよ~ぉ。」
そう答える水樹の声に力はない。
そんな水樹の様子に太希はため息をこぼす。
※
「そうだ。太希君に渡すものがあったんだ。」
そういきなり元気に水樹は起き上がる。
その後、自分の鞄の中から四角い箱を取り出すと太希に渡す。
「なんだ?これ?」
そう太希は受け取った箱を見つめながら首を傾げる。
「バレンタインのプレゼント。
開けてみて。」
そう水樹に言われて太希は包み紙をやぶる。
プレゼントは銀色の腕時計だった。
「太希君、腕時計1個も持ってなかったでしょ?普段はずっと家に居るから使わないかもだけど、1個ぐらい持っててもいいかな?って思って。」
そう水樹が笑顔で話す。
「ありがとう。大切にするよ。」
そう太希は腕時計を見つめながら答える。
その返事を聞いた水樹は1つ深呼吸をすると真剣な眼差しを作る。
その水樹の様子に太希も緊張する。
「…ねぇ…太希君。私達って結構長い付き合いだよね?」
「まぁ、高1の時からだからな。」
「…その時から今までずっと言えずにいた言葉があるんだ。」
そこまで話すと水樹はもう1度深呼吸をする。
「・・・太希君…高校生の時から…ずっと好きでした。私と…付き合ってください。」
そう水樹は真っ直ぐ真剣な眼をして想いを伝える。
その水樹の告白に太希は一瞬頭が真っ白になるがすぐに意識を現実に戻す。
「オレも…」
そう返事をしようとした太希を水樹が止める。
「返事は1ヶ月後にお願い。」
「え?」
そう太希は驚いた顔をする。
「1ヶ月後の3月14日はなんの日?」
そういきなり質問されたが太希は考える。
「ホワイトデー?」
「正解!!」
そう水樹は嬉しそうに微笑む。
「だから、私の告白にOKなら今日私があげた腕時計のお返しをして。
そうだなぁ。私に似合うネックレスでいいよ。」
そう話す水樹の言葉を太希の頭が理解するのに数分かかる。
「…つまり…返事はホワイトデーまでするなって事か?」
そう太希は尋ねる。
「そう。普通にするよりもロマンチックでしょ?嫌かな?」
そう水樹は少し不安そうに尋ねる。
そんな水樹の表情を見て太希は思い出す。
{これからも色々と付き合ってね。}
(なるほど。色々ってこの事か。)
そう太希は理解する。
「いいよ。それで。オレの返事は変わらないから。」
そう太希は優しい微笑みを見せて答える。
「ありがとう。どんな返事がくるのか楽しみにしてるね。」
そう水樹は嬉しそうに微笑む。
〈3〉
次の日。
「・・・まるで遠足を楽しみにしてる、小学生のガキだな。」
そう太希は小さく呟くとベッドから下りる。
そのまま体を伸ばすと顔を洗うためにキッチンの流し台に向かう。
顔を洗った太希は「よし。今日は気分よく小説が書けそうだ」と嬉しそうに呟く。
※
その日の昼間。
水樹は幼なじみで親友の
「えぇ~!!
そう話を聞いた七海は大きな声で驚く。
その声に周りに居る他のお客さん達が目線を向ける。
そんなお客さん達に小さく頭を下げると七海は声を小さくして話を続ける。
「で?返事は?もちろんOKよね?」
「ううん。まだ聞いてない。」
「はぁ?!」
そうまた驚いて大きな声を出しそうになるのを七海はなんとか抑える。
「なんで?聞いてないの?」
そう小声を続けたまま七海は尋ねる。
「それはロマンチックのためだよ。」
「ロマンチックのため?」
そう訳が分からない七海は聞き返す。
「そう。私、告白した時にね、腕時計も一緒にプレゼントとしたんだ。
バレンタインのプレゼントとして。
ホワイトデーにそのお返しと共に告白の返事を聞くの。普通に返事を聞くよりもロマンチックだと思わない?」
そう水樹がニコニコした笑顔で言う。
水樹の個性的な考えに七海の頭はついていかない。
「なんと言うか…あんたらいしわね。
ともても個性的な考えだ。
さすが芸術家ですよ。」
水樹はSNSで人気の個性的なイラストを描くイラストレーターなのだ。
その絵はファンの間で芸術と呼ばれている。
「私は別に自分のことを芸術家だとは思ってないけどね。」
そう水樹は抹茶を飲みながら言葉を返す。
「とにかく楽しみだなぁ。ホワイトデー。」
そうウキウキしている親友の様子を七海は優しい瞳で見つめる。
(まぁ、正直、返事は聞かなくても分かってるけどね。)
そう七海は心の中で思う。
※
その日の夕方。
仕事を終えた太希は身体を伸ばす。
「うん。今日は大分進んだな。
やっぱ、メンタルって大事なんだなぁ。」
そう太希は1人深く頷く。
そんな太希のスマホが鳴る。
画面を確認すると中学から付き合いがある親友の
「おう。久しぶり。」
そう太希は明るい声で電話にでる。
「おう。久しぶり。今時間大丈夫か?
調度こっちに帰っててな。良かったら、飯でも食いに行かねぇか?
高校の時によく行ってた回転寿司。」
そう圭吾が聞いてくる。
「いいぜ。調度仕事も終わったとこだし。」
「じゃ、現地集合ってことで。」
「OK。」
そう返事を返すと太希は電話をきる。
「圭吾か。確か2年ぶりぐらいか。」
そう呟くと太希は着替えて家をでる。
※
「で?どうよ?小説のほうは。」
そうマグロを食べながら圭吾が尋ねる。
「ん?そこそこって感じだな。
お前の写真のほうは?」
そう今度は太希が質問する。
「まぁいい感じだよ。好きなとこ行って好きな写真撮れてんだ最高に楽しいよ。」
そう圭吾は微笑む。
「そりゃいいね。オレの小説が文庫化したら、表紙に使わせてくれよ。
お前の写真。」
そう言いながら太希は大好きなサーモンを口に運ぶ。
「喜んで。」
そう圭吾は答える。
「そういえば、
そう圭吾が尋ねる。
「あぁ。昨日、告白されたよ。」
「へぇ。そうなんだ。…ん?」
そうあっさりと言われたので圭吾は一瞬聞き流す。
「…すまん。もう1度言ってくれ。」
そう圭吾がお願いする。
「昨日、告白された。」
そう太希は真顔を真っ直ぐ圭吾に向けて答える。
「はぁ?!まじで?!」
その圭吾の大きな声に周りのお客さん達がビックリする。
「公衆の場ではお静かに。」
そう太希に軽く注意されて圭吾は声を小さくする。
「で?なんて答えたんだ?
もちろん、OKしたんだよな?」
そう聞かれて太希は昨日の事を説明する。
「・・・はは。神川さんも変わらないなぁ。」
そう笑いながら圭吾は熱いお茶を飲む。
「でも、OKするつもりなんだろ?」
「…あぁ。」
そう太希は静かな声で答える。
「じゃ、お返しのネックレス買わねぇとな。安物なんか買うなよ?100万ぐらいの買って驚かせてやれ。」
そう圭吾が明るい声で言う。
「バーロー。そんな金ねぇよ。」
そう太希は言葉を返す。
〈4〉
3月の初め。
(さ~ぁて、どのネックレスにしようかな?)
そう悩みながら太希はガラスケースに並べられたキラキラ輝くネックレス達を見つめる。
{私に似合うネックレスでいいよ。}
※
ネックレスを買った太希は店をでる。
「うぅ~。3月に入ってもまだ寒いなぁ。」
そう愚痴をこぼす太希のスマホが鳴る。
「
そう太希は疑問に思いながらも電話にでる。
「はい?」
「や、
そう太希の名を呼ぶ
「どうしたんだよ。そんなに慌てて。」
「水樹が…」
「水樹が?」
「事故に
その七海の言葉を太希の頭が理解するのに数分かかる。
※
静かな病院の椅子で太希と七海は並んで座っていた。
「それ。水樹に渡すネックレス?」
そう聞かれて太希は自分の横に置いてある紙袋を見つめる。
「…あぁ。」
そう太希は元気のない声で答える。
「そう。だったらちゃんと渡してあげなよ。」
そう言い残すと七海は立ち上がり病院を出ていく。
1人になった太希は静かな視線を紙袋に向ける。
紙袋を少し見つめた後に太希は重たい身体を立たせて水樹が居る部屋へ入っていく。
※
太希は無の感情で動かなくなった水樹を見下ろす。
太希は今日、人は簡単に死ぬのだという事を理解した。たった1度の不運でこうも簡単に人は死んでしまうのだと。
しばらくの間、水樹を見つめていた太希は紙袋からネックレスを取り出すと水樹の首に優しくつけてあげる。
「…うん。ちゃんと似合ってるよ…水樹。オレのセンスもなかなかいいだろ?
なぁ。水樹…。」
そう太希は水樹に話しかけるがもちろん返事など返ってこない。
その現実が太希の心を強く締め付ける。
{高校生の時から…ずっと好きでした。私と…付き合ってください。}
「…返事を言わせてくれよ…。
オレも…ずっと好きだったって…言わせてくれよ…。なぁ…水樹…」
{どんな返事がくるのか楽しみにしてるね。}
「…まだオレの返事…伝えてないぞ?
オレの想いを…伝えてないぞ?
なのに…
お前の我がまま…。いつも文句言ってるけどさ…。本当は…嬉いんだぜ?
お前が笑顔で…笑ってくれるから。
だから…これからも…」
太希は苦しくてその先の言葉を口にする事ができない。
太希はもう…泣き崩れる事しかできなかった…。
その
※
太希が病院を出るともうすっかり夜になっていた。
「…寒いなぁ。」
そう太希は小さく呟く。
{これで少しは温かいでしょ?}
水樹の声が太希の耳に響く。
その声に太希は目線を自分の左腕に向ける。
だが、そこに自分を温めてくれる水樹の姿はない。
太希は寂しい背中で1人、夜道を歩いて帰る。
※
約2週間後の3月14日。太希の自宅。
「なぁ、
そう太希はインスタントのミルクティーを飲んでいる圭吾に話しかける。
「ん?」
「本当は今日だったんだよな。」
「なにが?」
「オレが水樹に返事を返す日だよ。」
そう太希が言うと2人の間に少し沈黙が流れる。
「…まだ
そう今度は圭吾が質問する。
「…どうだろうなぁ。
まだ、心がフワフワしてるんだよ。
時間が心の傷を癒してくれるのには結構な時間がかかるのかもな。」
そう太希は答えると1口ミルクティーを飲む。
「そうか。まぁ、ゆっくりやれよ。」
そう圭吾は優しい言葉をかける。
「なぁ、圭吾。」
「ん?」
「もし、オレと水樹が付き合ってたら、どんなカップルになってたんだろう?」
そう尋ねる太希の視線は遠い空を見上げていた。
「…さぁな。でも、意外と今までと変わらなかったかもよ?」
その圭吾の言葉に太希は「え?」と言って驚く。
「だって、元々お前等カップルみたいに仲良かっただろ?」
そう言われて太希は水樹の言葉を思い出す。
{こうやって歩いてると私達、まるでカップルみたいだね。}
「・・・そうかもな…。」
そう太希は軽く微笑む。
親友の少し嬉しそうな表情に圭吾は笑みを見せると目線を窓の外に向ける。
「…そろそろ暖かくなるなぁ。」
そう圭吾は太希に話しかける。
「…あぁ。やっと少し温かくなってきたよ…。」
そう太希は言葉を返す。
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