イケメンがブサイクで、ブサイクがイケメン

ちびまるフォイ

イケメンの好み

「悪いなみんな、親の都合で転校なんて」


「そんな! イケメン君がいなくなるなんて!」

「私たちなんのために学校へ行けばいいの!?」


「子猫ちゃんたち、また新しい恋を見つけてくれ。アデュー」


「い、イケメン君~~!!」


その後も電車に走って追いすがる自分のファンはいたが、

それでも新天地を求めてイケメン君は転校した。


転校先は醜魅しゅうみ学園という、

一度見ただけではおそらく漢字かけないであろう学校だった。


イケメン君はなれない土地であっても物怖じしない。

むしろここで待っている新鮮な反応が楽しみだった。

すでに気分は「つよくてニューゲーム」。


学校の顔面偏差値の平均値をぐんと上げてやろうと息巻いていた。


「というわけで、今日から転向してきたイケメン君だ」


「どうも、イケメンです。これからよろしく☆」


1日も欠かさなかったホワイトニングの歯を見せつけた。

これで数人は恋に落とせるはずが、クラスメートの反応は冷めていた。


「なんだ……」

「転校生って期待したのに……」


転校生という属性にワクワクしていた在校生たちは、

やってきたイケメンを見てがっくりと落ち込んでいた。


いやその反応はおかしい。

イケメン君はなおもイケメンっぷりを発揮した。


頭脳明晰、スポーツ万能。

ひとあたりもよくて優しい。


夏になれば彼を題材とした恋愛青春映画が公開され、

試写会に足を運んだ人が"きゅんとしました"とか浅い感想を

カメラの前で熱く語る……というつもりだった。


現実はむしろ真逆だった。


「ば、バカな……! この僕がカースト最下位だと!?」


容姿端麗で人に好かれる要素しか無いイケメン君だが、

この学校においては非モテの烙印を押されてしまうほど追い込まれていた。


なまじ自分に自信があるだけに、現実とのギャップにはひと一倍敏感だった。


「そんなはずはない! こんなにもカッコイイのに!

 みんな一体誰にきゃーきゃー言ってるんだ」


クラスのトレンドに乗れなかったのを認めたイケメン君は

逆に自分を差し置いてクラスで一番の人気者を探すことにした。


なんと、一番の人気はきったない陰キャのデブだった。


「オウフwwwコポォwww」


「「キャーー!! 何言ってるかわからない!! 好き!!」」


貧血により保健室に運ばれる女生徒多数。

現実を直視しても理解するまで時間がかかった。


「あ……あんなのが人気なのか……!?」


イケメン君のように髪も整えていない。

歯なんかまっ黄っきだし。シャツは黄ばんでいる。

勉強もできなきゃ運動もできない。


すべての要素においてイケメン君に劣っているはずなのに。

イケメン君よりもあきらかにモテちらかっていた。


「ななななな、なな、なるほどねねねね……。

 こ、こういう系が、もて、もてててて、もてるのね」


あまりの動揺にろれつすら回らないイケメン君だが、

世界の真理を解き明かしてしまうくらいには頭が回った。


この学校じゃ非モテこそがイケメンのバロメーター。

そう考えると、なぜ自分がモテないのかが腑に落ちる。


イケメン君はふたたび自分のイケメン天下を取り戻すべく、

自分のイケメン要素をひた隠しにし、ブサイクに徹することを決めた。


姿勢正しい立ち姿は、猫背に変形。

キレイに整った髪はボサボサに。

制服は一度泥水につけて汚しをいれる。

靴は捨てられていたものを回収して履く。


外面を見事にブサイク側に寄せ、

持ち前の頭の良さや運動神経もすべて隠す。


「これでモテモテまちがいなしだ!!」


しかし普段モテてているイケメン君だからこそ、

非モテとして扱われたときの振る舞いを正しく理解していなかった。


ブサイクに偽装したイケメン君への評価はむしろ悪化した。


「ねぇあれ何……?」

「めっちゃ無理してない?」

「逆にブサイクだよね」

「見ていて痛々しい」


「なんでだぁぁ!!」


女子トイレから漏れ聞こえる辛辣なコメントに

イケメン君はうなだれて落ち込んだ。


彼はただしく非モテのお作法を理解していなかった。


同じ服とであっても、モデルが着こなしたときと

ブサイクが着たときではまるで違うということに。


もともとの顔や骨格がイケメンに出来上がっているがゆえに、

ブサイクを演じようと努力してもそこには無理が出る。


ファッション雑誌の服を丸コピして、

スカウト目当てに街へと上洛した田舎のブサイク。

そんな風にうつったことだろう。いとあわれ。


「イケメンであり続けてもブサイクだと扱われ、

 ブサイクになろうとしても、やっぱりブサイクだと言われる。

 いつまでブサイクの煉獄地獄から抜けられるんだ!!」


イケメン君が想像したこともないブサイクの苦しみ。

それが今まさに襲ってきたのであった。


イケメン君はブサイクとしての扱いに免疫がない。

常夏の国から雪国にやってきたような男。


毎日続くブサイク生活に限界を感じていた。


「ああ、いったいどうすれば……」


そのときだった。

車のフロントライトが迫ってきているのに気づかなかった。


ドン、という衝撃を最後に意識は途切れた。





次に目を覚ましたのは病院で、顔中に包帯が巻かれていた。


「ここは……病院……?」


「イケメンさん。目が覚めたようですね。

 あなたは交通事故にあって1週間寝たきりだったんですよ」


「この包帯は?」


「その……申し上げにくいのですが、

 事故により体がバッキバキになってしまい……。

 なんとか我々としても手は尽くしたのですが……」


そっと包帯を取り、鏡を見た。

そこには前の面影すらなくなった顔があった。


「どうしてももとの顔には近づけられず……申し訳ないです」


「いいえ! 最高じゃないですか!!!」


鏡に映る自分の顔はあまりにもブサイクだった。


丸く大きかった目は、事故により細く釣り上がり。

きれいなシルエットだった輪郭はいびつな形に。

まっすぐだった歯並びも事故でガッタガタになっていた。


どこに出しても恥ずかしいほどのブサイク。

それはまさに天下取りの顔であった。


「こんなブサイク見たことがない!

 やったぞ! これでスクールカーストのトップだ!」


今まで学校でイケメントップをはっていたブサイクも、

事故後の自分と見比べればちゃんちゃらおかしい。


ブサイクのグレードが違う。

自分のブサイク加減はもはや別次元。


ふたたびイケメン街道に返り咲いたことを心から喜んだ。


「まいっちゃうな。こんなにイケメンだと。

 またモテまくり勝ちまくりの学校生活がはじまっちまうぜ☆」


ふたたび自信を取り戻したイケメン君。

さっそくクラスのSNSに今の自分の写真を投稿した。


クラスの女生徒たちは、イケメン君の変わり果てた姿に狂喜乱舞。

そのあまりに醜さに誰もが夢中になった。


「……来たようだな」


病院に駆け込んでくる足音が迫ってくる。

自分の写真を見てトリコとなった女子たちがやってきたのだろう。


あとは美少女に囲まれながら、

トロピカルジュースをプールサイドで飲む生活になるだけだ。


「イケメン君!! 大丈夫!?」


お見舞いという名目であわよくばを求めやってきた女子たち。

イケメン君のバラ色キャンパスライフが今はじまーーーー……。




「えっ……」



イケメン君はやってきた女子たちを見て顔をひきつらせた。


事故によりとびきりの美少年となったイケメン君。

そんな彼にアプローチできる女子はよほど自分に自信がある人物。

美少女でなければ恐れ多くて、アプローチなんてできやしない。


病室にやってきたのは誰もがかっぷくがよく、

髪はボサボサであぶらぎった顔に、口からはみ出る前歯。


すなわち、まごうことなき美少女たちが大挙して押し寄せた。



「イケメン君、私と付き合って!!」



イケメン君を取り合うハーレム青春活劇はまだ始まったばかり。

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