第4話 園川さんとの放課後②

「ん~美味しい。やっぱり甘いものは最高だね」 

 

 ケーキを食べて幸せそうな表情をする園川さんを見ているとこちらまで幸せになる。


 甘いケーキを食べて、その上園川さんの天使な笑顔を間近に見れて、幸せ2倍だ。


「あっ、もう1つケーキあるけど、東條くんも食べない?」


 ケーキを半分食べて交換して食べ終えた後、園川さんは追加で頼んだケーキを俺に勧めた。


 そのケーキはチーズケーキで食べようか悩んだものだった。


「ううん、園川さんが頼んだものだからいいよ」

「私は食べてほしいな。美味しいものは共有したいから。はい、東條くん。あ~ん」


 そう言って園川さんは、一口サイズのチーズケーキが刺さったフォークを俺へ向けた。


 これ、紫恵楽から借りた漫画で見たやつだ。まさか現実でもこれが起こるとは思わなかった。


(これはあ~んしてもらえるのか?)


 笑顔を見せてくれる、手を握られるよりも凄いイベントなんだが。


 ここまで来て断るのもなと思い、周りを一度見てから俺は口を開けてチーズケーキを食べさせてもらった。


(ん……美味しっ)


 やっぱりチーズケーキはふわふわの生地がいいな。一度家で作ってみたことがあるがチーズケーキは断然、ケーキ屋さんの方が美味しい。


「ふふふ、美味しいでしょ? 私、チーズケーキ大好き」


 そう言ってパクっと食べて幸せそうな表情をする彼女を見ていると俺はふと園川さんの手元を見て気づいた。


(あれ、あのフォークで俺に……)


「そうだ。写真撮るの忘れてた……東條くん、写真撮るの大丈夫? せっかくだから一緒に撮りたいんだけど」


 スマホを横に向けて先ほどのことでフリーズしている俺に園川さんは尋ねる。


 彼女に話しかけられて、俺はハッとして大丈夫だと答えると園川さんは体を少し傾けて自撮りするような体制にし、俺が画面に映るように調節していた。


「じゃ、撮るよ~」

「うん」


 あれ、こういう時って何かポーズした方がいいのかな。映えポーズとか勉強してないから何もわからない。


 どうしたらいいかわからず困っているとカシャッと音が鳴った。


「ふふっ、東條くん、あわあわしてる。もう一度撮ろっか」

「ごめん、どういうポーズがいいかなと……」

「ポーズは自由でいいよ」

「そ、そうか……」

「うん。じゃ、いくよ」


 ピースしかポーズがわからないので取り敢えず片手でピースする。園川さんもピースをしていた。


 撮った写真は俺にも送ってもらった。あまり自分が映る写真は好きではないが帰ったら撮った写真を見てみよう。


 ここで確認もできるが、園川さんとの写真を見ておかしな表情をしてしまうと絶対に引かれる。


「ね、見てみて。中学1年生の時のバスケ部の写真。懐かしいなぁ……東條くんとは確か中学1年の頃からよく話すようになったよね」

「そうだね。園川さんがよく朝練してて、その時に話して、一緒にバスケして……」


 懐かしいなぁと中学生の思い出を思い出していると園川さんはふんわりとした笑みを浮かべた。


「これ言ったことなかったんだけど、私、東條くんのバスケ姿、結構好きなんだ。バスケが好きっていうのが伝わってきて」

 

 彼女は両肘をテーブルにつき、両手の指を絡める。そして、俺の方をじっと見る。


 俺はよく園川さんのバスケをしている姿を見ていたが、見られているとは知らなかった。バスケ部が同じでも練習の時は男女別だったし。


「俺も……園川さんのバスケしてる姿、好きだよ。カッコいいし」

「……かっ、カッコいいなんて初めて言われたかも。楽しんでるとはよく言われるんだけど、そっか、カッコいいかぁ」


 園川さんは両手を頬に当てて、嬉しそうな表情をする。


「あっ、柊から。一緒にバスケしようだってさ」

「ほんと!? やったっ! 今週の日曜日、楽しみにしてるね」


(あっ、眩しい……笑顔が眩しすぎる)




***



「ただいま」


 園川さんと別れ、家に帰ってくると今日もまたリビングの方からトタトタと足音が聞こえてきた。


「兄様、お帰りなさい。夕食できてますがもう少し後にしますか?」

「あぁ、うん、後にするよ。今日も夕食ありがとう。代わりに明日の朝はお弁当作るよ」

「兄様のお弁当! 楽しみにしてます!」


 両手を合わせてニコニコと嬉しそうに笑う紫恵楽に物凄く期待されているが、彼女のように凄いお弁当は作れないんだよなぁ。


「ところで兄様。ソファに座りませんか? 園川さんとどうだったかお聞きしたいです」


 紫恵楽が先程からそわそわしていたから何かと思ったが、それが聞きたかったのか。


 彼女の勧められ、荷物を置いたりしてからソファへと座る。するとすぐに紫恵楽は、隣へと座った。


「で、どうでしたか? やはり告白でしたか?」


 紫恵楽がグイグイと距離を詰めてくるので俺は逃げようとするが端まで来て逃げれない。


「告白じゃなかったよ。一緒にカフェに行こうって誘われてケーキを食べに行ったんだ」

「告白ではなくデートでしたか。一歩前進ですね!」

「何の一歩前進?」


 告白じゃないかと、デートのお誘いじゃないかと、色々期待はしていたが、園川さんとのカフェ、楽しかったな。


「そうだ。そのカフェのケーキ買ってきたから後で食べていいよ」

「私の分を! 兄様のそういうところ好きです。私、いつも思うのです。兄様の妹で幸せだと」

「ケーキを買ってきただけでそんな……」


 紫恵楽はさっきまで隣に座っているだけだったが、俺の膝の上に移動してきた。


「兄様、次お出掛けする約束はもちろんしましたよね? 今日は楽しかったね、また遊ぼうかとなりませんでしたか?」

「そんな当然のように言われても……出かける約束はしてないけど、日曜日に一緒にバスケをすることになった」

 

 そう言うと紫恵楽は、両手をパチンと合わせて嬉しそうにする。


「バスケデートですね!」

「いや、柊もいるから。というかバスケデートって聞いたことないんだけど」


 女子といると何でもデートと呼びそうな気がする。


 紫恵楽は膝から降りると何かを思い出しハッとした。


「そう言えば、兄様が帰ってくる30分前に依奈さんがこちらのマカロンを持って来てくださいました」


(依奈が……お礼に何か渡そうかな)


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