第3話 園川さんとの放課後①

 紫恵楽が告白なんて言ったので翌日、授業が全く集中できなかった。


 時間があるかないかというメッセージに俺は特に予定はないから時間はあるよと返信した。その後、園川さんから「じゃあ、明日の放課後、教室に残ってて」とメッセージが送られてきた。


 彼女のメッセージからわかることは何もない。けれど、予定の確認や放課後、教室にとあるともしかしたら本当に告白なのではと思ってしまう。


「お~い、朔。放課後だぞ」

「言われなくてもわかってるよ」


 顔を上げるとそこには柊がいた。そう言えば柊に今日は一緒に帰れないと伝えてなかったな。


「柊。今日は、少し学校に残る用事できたから先に帰っていいよ」

「用事?」


 用事が気になるのか柊は俺の席の前に座る。園川さんはまだ友達と話しているので、柊に用事の内容を話すことにした。


「実は昨日、園川さんと連絡先の交換をしたんだ」

「おぉ、頑張ったな」

「いや、俺から連絡先の交換をしようと言ったわけじゃなく園川さんの方から」

「それ気になってるやつじゃん!」


 ダメだ。柊も妹の紫恵楽と同じ考えの持ち主だったわ。なぜ、皆、すぐ恋愛に繋げようとするのだろうか。


「で、連絡先を交換して昨日やり取りしてたら最終的に園川さんに放課後教室に残ってとメッセージが来たんだ」

「それは告白だな」

「いや、昨日久しぶりに話したんだ。それはない」

「昨日、一目惚れしました的なやつかもしれないぞ」

「ここは漫画の世界じゃないから」


 昨日、カッコいいことを彼女の前でした覚えは一切ないので一目惚れは絶対にない。というかあの太陽みたいに眩しい園川さんが俺を好きになるわけがない。


「まぁ、何が起こるかはお楽しみだな。ところで、前から聞きたかったんだけどさ、朔は園川さんに彼氏ができたらどう思うんだ?」

「園川さんに彼氏……」


 噂では園川さんに彼氏はいないと聞いたが、噂なのでいる可能性はないわけではない。


 園川さんに彼氏ができたらそれは大きな出来事だが、俺はどう思うのだろう。


「嬉しいけど、何日かは家に引きこもるかも」

「ファンかよ」

「ファンだよ」


 彼氏ができたら自分にダメージはあるかもしれないが、素直に良かったねと祝福できる自信がある。好きな人には幸せになってほしいから。


「じゃ、俺は先に帰るわ。明日の報告、楽しみにしてる」


 ニヤニヤしながら柊は、椅子から立ち上がり、教室を出ていく。


 1人になると再び、今から何が起こるのかとドキドキし始める。


 告白は絶対にないだろうと思ったその時、誰かに頬をふにふにされた。


「お待たせ、東條くん。待たせたよね?」


 声がして顔を上げるとそこには園川さんがいて、さっきまでいたクラスメイトは皆、教室からいなくなっていた。


 ホームルームから時間が少し経ったので残っているのは俺と園川さんだけになっている。


「ううん、さっきまで友達と話してたから大丈夫」

「そうなんだ。実は昨日予定を聞いた理由なんだけど……」


 園川さんがカバンからスマホを取り出す中、俺はまず告白は違うと確信した。だが、何があるのかわからないので心拍数は早くなっていく。


「ここのカフェに東條くんとケーキを食べに行きたくて」


 スマホの画面を園川さんは見せてくれて、何かと見てみるとそこにはカフェのホームページが載っていた。


「今からどうかな? 甘いもの好きって前に聞いたから一緒に行くなら東條くんかなって。私の友達は甘いもの苦手な人が多くて」


 園川さんとカフェ……これってもしやデートに誘われてる? いやいや、デートの定義がわからないがこれはデートのお誘いじゃない。ただ単に一緒に行こうと誘ってるだけだ。友達感覚で。


 彼女とカフェなんて夢のような話だが、これは現実。誘ってもらって断るのは違う。だから答えはもう決まっている。


「俺で良ければ」


 そう答えると園川さんは俺の両手を取り、ぎゅっと握ってきた。


「やったっ! じゃあ、今から行こっか」


(て、手を握られ……お金いるかな)


 今日は帰りが遅くなると紫恵楽には今朝伝えてあるので夕食の心配はないので、せっかくの園川さんとのカフェを楽しもう。



***



 園川さんが案内してくれたカフェは新しくできたところらしい。


 いつもは混んでいるが今日は空いており、すぐに席に案内された。園川さんと向かい合わせに座り、テーブルに置かれた水を一口飲み、メニュー表を開く。


「せっかくだから2つ選んで分けっこしようよ」

「あぉ、それいいな。2種類食べれるし」


(なっ、何がそれいいだよ)


 さらっと答えてしまったが、園川さんと分けっことかそんな簡単に起こっていいイベントなのか!?


「私、このミルクレープがいいかな。東條くん、ミルクレープ食べれる?」

「うん、食べれるよ」

「じゃあ、1つはこれにしてもう1つは東條くんの好きなものを選んでね」

 

 お互い1つ好きなものを選ぶことになり、俺はチョコレートケーキを選んだ。


 頼むものが決まると園川さんが注文してくれた。店員さんが立ち去ると俺はメニュー表を元に戻す。


 入るまでは楽しく話しながら来ていたからあまり意識していなかったんだが、今、園川さんと2人っきり……なんだよな。


 チラッと彼女の方をみると園川さんと目が合った。すると笑顔でニコッと笑いかけられ、俺は倒れそうになる。


(天使すぎ、可愛すぎ)


 こんな間近で園川さんの笑顔が見られるとなると明日の天気は雨か雷だな。と、そんなことを考えていると園川さんは口を開いた。


「そう言えばたまに矢野くんとバスケやるって言ってたけど、いつやってるの?」

「毎週日曜日に駅の近くにあるバスケットコートで。試験が近づいてきたらやらないけど」

「そうなんだね」


 彼女は手を口元に当てて何やら考えている素振りを見せる。どうしたんだろうかと気になっていると園川さんは俺のことを見た。


「その……今週の日曜日にやるなら私も混ぜてもらってもいいかな? あっ、嫌なら全然断ってもらっていいからね。一緒にバスケしたいなぁって思っただけだから」


 最後になるにつれて園川さんの声はだんだん小さくなっていく。それが可愛らしくて、俺は心の中で「可愛すぎ」と呟く。


「俺もまた園川さんとバスケしたいし、後は柊に聞いてみるよ」

「ありがとう!」


 さっそく柊に今週の日曜日に園川さんも来ることをメッセージで送ると頼んでいたケーキと一緒に頼んだ紅茶が運ばれてきた。






      【第4話 園川さんとの放課後②】

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