旅路の計画
数日間の船旅を終え、終点である国境付近の街の河港へとゆっくりと滑り込んだ。目的地に到着したことを告げる鈴の音が船上に響き渡り、乗客たちはそれぞれの荷物をまとめ始めた。アランとシモンも静かに立ち上がり、トランクケースと手荷物を手に取りながら甲板へ向かった。
去り際にアランは船長へお礼を述べた。
「ここまで乗せて頂きありがとうございました。」
船長は笑いながら軽快に答えた。
「いいってことよ。人が一人二人増えたところで何も変わらないさ。それに、お小遣いもありがとな。おかげで次の航行は少し気楽に行けるよ。」
シモンも続けて礼を言い、二人は甲板を降りていった。
街に足を踏み入れると、まず目に入ったのは街全体に漂う独特の雰囲気だった。ここはヴィルエナが近く、ストリナ教の信仰が深く根付いている土地であり、その影響が至る所に感じられた。石畳の道沿いには風の女神ストリナに捧げられた旗が掲げられ、青や銀の色彩が強調された教会の装飾が目立つ。人々は敬虔な態度で教会へ向かい、祈りの時間を大切にしているのがすぐにわかる。
「同じ国内だがここは空気が違うな」
アランが感慨深げに言うと、シモンが微笑んで答えた。
「ここでは宗教が生活の中心にあるからね。他の地域とはまた少し違うんだよ。」
アランはうなずきながら周囲を見渡した。教会の鐘の音が響く中、通りを行き交う人々は穏やかな表情を浮かべており、信仰に支えられた日々の暮らしがあることを感じさせた。ここでは風の流れさえも、ストリナ教の教えの一部として大切にされているようだった。
「今日はここでコネツヴィルまでの旅の用意を整え、明日出発しましょう。」
シモンは提案し、アランはそれに同意した。
二人はまず宿を探すことにした。街の中心部へと向かい、いくつかの宿を見て回りながら、快適で落ち着ける場所を探し始めた。
やがて二人は、運河沿いに面した小さな宿に決めた。木造の建物で、風の流れを感じることができる落ち着いた雰囲気が気に入ったのだ。受付で宿泊の手続きを済ませ、部屋へと案内された。
部屋に入ると、アランはまずトランクケースを開けて荷物を整理し、シモンと共にテーブルに地図を広げて旅の計画を話し合った。
「コネツヴィルまでは、ここから歩いてはおよそ一週間ほどかかるだろう。しかし、飛行魔法を使えば3、4日でたどり着くことができる。」
シモンが慎重に言った。
「シモンさんも飛行魔法を使えるのですか?」
少し驚きながらアランは尋ねた。
「ああ、普通の飛行魔法とは少し異なるが扱うことができる。これもストリナ様のおかげですね。」
シモンのその言葉からはストリナ様への厚い信仰が感じ取れた。
飛行魔法についてさらに話を聞くと、風魔法を応用した宗教魔法で、並の飛行魔法よりも早く飛ぶことができるとのことだった。この恩恵は一緒に飛ぶアランも受けることができるらしく、アランの想定より早くコネツヴィルに着くことができそうだった。
「しかし、少し懸念する事が一点ありますね。」
シモンは神妙に話した。
「それはなんですか?」
アランは尋ねた。
「南の山脈にいる魔獣です。普段は山に生息していて麓に降りてくることは少ないのですが、この時期ですとたまに麓に降りてくる事があるんですよね。」
「それは厄介ですね。」
アランが続けようとしたが、シモンがそれを制して話を続けた。
「まあ、注意を払えば大丈夫でしょう。お互いの魔法を駆使して安全に進みましょう。」
二人はその後も細かい旅の計画を立て、道中の注意点や休息のタイミングについて話し合った。
「よし、計画はこれで大体固まったな。今日は夜までに買い出しを済ませ、明日に備えよう。」
シモンがそう言い、アランも同意して頷いた。午後は街の市場を周り、食糧等を買い揃えた。夜になると彼らは旅の疲れを癒すため、部屋の静かな空気の中でそれぞれ思い思いに過ごし、やがて眠りについた。明日から始まる長い旅路を前に、二人は心の準備を整えていた。
魔導運送士 @kan-pan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。 魔導運送士の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます