File22:未来

「アレ……? おわっ、た?」


 ソフィアが剣を振るおうとしたところで、巨大な顔をした呪いは、満足そうな笑みを浮かべて消えていった。――いや、なんだろう。なんか釈然としないような。


「先輩、あの人……知り合いだったんですか?」


「いや? データにはないなぁ。そもそも製造されてから私人類と会ってないし」


「でも、『僕の負けだよ、ソフィア』って言ってましたわよ?」


「そうなんだよねぇ……あ、そうか――」

 

 ソフィアは、自分の生成データを思い出す。


「私の名前とか見た目とか性格設定って、最初っから決められてたんだよね。しかも、前任者も同じっぽくて。――もしかしたら、最後に残っていた研究者が、自分の外見や名前、性格をデータ化して、機械人形に設定していたのかも」


 ――その人の人生は終わっても、代わりになる機械人形に、夢を託したのかもしれない。


「……じゃあ、わたくしに命令をしたあの方と、お知り合いだったんでしょうね」


 遥かな時を越えて、彼らは確かに邂逅したのだろう。


「……まぁ取りあえず――疲れたし、帰ろうか」


「そうですね、私たちの研究所へ」


「えっ、あの、わたくし置いて行かれるんですの?」


 シャロームが焦りの表情を浮かべる。


「だって、シャロームさん色々荷物もあるし、データの移行も必要でしょう? 準備が整ったら来てください、お部屋作っておきますから」


 シィの言葉は正しい。一応衛星ネットワークはあるとはいえ、物理的に必要なものも多い。特にシャロームはソフィアやシィとは別系統の機械人形だったため、各種パーツの規格が異なる可能性もある。


「ぐぐぐ……それはそう……なのですけれど……寂しいのですわ!」


「じゃあ戻ったら映像通信繋ぐから。それならこっちの様子も見れるし、いいでしょ? ね、早く準備してきたらいいじゃん」


「わ、わかりましたわ! 急ぎます!」


 シャロームは一礼すると、荷造りのためか高速で移動していった。


「みんなも、ありがとねー。何とか片付いたよ」


 ソフィアはディアスボラをはじめとする各種族たちに声を掛ける。


「あぁ。……最後はよくわからなかったが、解決したなら良かった」


「うん。みんなも、いったん帰るでしょ? 大丈夫怪我とか」


「とりあえず問題はないだろう。リオンが少々怪我をしているが、まぁ獣だ、すぐに治るだろう」


 そういえば、ライオン獣人のリオンは、ネズミ獣人救出の時に怪我をしてたっけ。あとで傷薬を差し入れよう。


「ディアスボラ、またみんな送っていってもらえる?」


「ああ、そのつもりだ」


「ありがと、助かるわ。今回の件のお礼、ちゃんとしたいからさ、またみんなに連絡するよ。トレントさんにもあってお礼言いたいから、あそこの森でパーティしよ」


『ほう。それは楽しみじゃのう』


 無線機の向こうから、トレントの声が響く。彼がいなかったらこの勝利はなかっただろう。


「じゃあ、悪いんだけど、私とシィちゃんは先に帰るね。……正直、自分がどう変わったかとかもよくわからないからさ、色々調査しときたいし」


 ソフィアは改めて、各種族の代表たちに向けて頭を下げた。


「みんな、改めて、本当にありがとう! すっごく助かったよ! とりあえず目の前の問題は解決したので、また国造りのために頑張っていこうと思うから、これからも色々協力よろしくお願いします!」


 各種族たちは、思い思いに返事をしたり、手を振ったりしてそれに応える。


 ――こうして、旧時代の遺物のろいは消えた、今日、本当に新時代が始まったのだ。


◇◆◇◆◇◆


「ソフィア様、お料理持ってきましたわー!」


「ありがとう、そっちのテーブルに乗せておいて!」


「先輩、飲み物、ここでいいですか?」


「うん、大丈夫、ありがとう!」


 それからしばらく経ったある日、ソフィアたちはトレントの住む森の中で、祝勝パーティを開いていた。


 シャロームの配下である機械兵士たちを使い、パーティ用の各種道具や食べ物や調理器具、各種機材の運搬、会場整備などを行い、時間をかけてしっかり準備をしたうえで開催している。


 移動用の大型ドローンも準備し、さらに宿泊可能な施設準備など、森を一部切り開いている。トレントや森の生物ともしっかり話し合ったうえで、環境に影響がないような方法での開拓を行った。今回だけでなく、今後も様々な活用ができることを目指している。


「……しかし、関係者、増えましたね」


 シィが飲み物を準備しながら、集まってくる人たちを眺めて呟く。あれから、いくつかの新種族が発見され、どんどん交流を増やしている。各種族の人数も増え、この会場にいるだけで百名を優に超える数だ。


 竜が、鳥人が、獣人が、鱗人が、木人が、魔人が。様々な種族たちが、それぞれの仲間を伴い、お互い笑い合いながら会話をしたり、食事をしたり、楽しんでいる。


 前回のパーティの時は、数も少なく、種族間の交流もあまりなかった。だが、先日の戦いを経て、仲間意識が強くなったのか、交流が活発になっている。


 ……もしかしたら、大量に準備したお酒の力もあるかもしれないけれど。


 ソフィアはその光景を見ながら、少し目を細めた。


「そうだね。……最初はさ、私、一人ぼっちだったんだ。研究所の中で毎日本を読んで、知的生命体発見されず、っていう報告を聞いてずっと暮らしてた。――それがさ、こんなことになるなんて、想像もつかなかったよ」


 ――あの日、知的生命体発見の報を受け、自分の足で、歩いて、ドラゴンに会いに行ったことを昨日のように思い出す。


 それからの日々は怒涛だった。気が付けば、こんなにも多くの知的生命体が発見され、こうして交流を重ねている。


「私たち自身も、知的生命体、になっちゃったわけですしね」


「そうだね。食事による栄養吸収効率が上がってたりとか、自己再生機能が強化されてたりとか。機械の身体ではあるけど、生物っぽくなってて、不思議」


 まだまだ調査中の段階ではあるし、従来の生物の定義には合致しないが、それでもソフィアたちは『生きている』のだ。


「これだけの人がいたら、国の作り甲斐がありますね」


「――人、か。そうだね。みんな、人だ」


 この世界にはまだ人間はいないけど、高い知能を持ち、お互いに交流し合えるのなら、それはもう、みんな、人と言って良いんだろう。


「うん。――よっし、いい国造ろう! さ、せっかくのパーティだし、みんなと話さないと勿体ない! シィちゃんも行こう行こう」


「そうですね、行きましょう」


 二人がテーブルに近づいて行った時だった。


「あっ! ソフィア様! シィ様! 大変です! あの、この騒ぎを聞きつけて、新しい種族の方が見に来たんですが……」


「えっ! どんな人!?」


 シャロームの言葉に問いかけるソフィア。シャロームの後ろにいたのは、特徴のない、良く見慣れた姿で――。


「に、人間!?」


 ――新しい出会いは、まだまだ続く。


◇◆◇◆◇◆◇◆


レポートFile22:人間

 

 旧時代においては唯一の直立二足歩行を行う知的生物だったが、新時代では類似の特徴を持つ生物が多数存在する。筋力、知能、各種感覚器官など、特筆すべきものはなく、他の知的生命体と比べると凡庸。ただし、それゆえに道具、言語など様々な開発能力に優れ、学習能力も高い。


 他の生物たちが動物的に優れた特徴を持ち、その点を強みとする代わりに、知的欲求が非常に高く、魔術などの研究や開発についても文化レベルを考えると驚異的に進んでいる。


 ただし、動物的な本能より感情や欲求を優先する傾向があり、他の種族とは異質な存在。ただ、性格面においては個体差も大きいく、一概に性質を決めつけることは難しい。国を創るという点においては注意が必要な種族。


 推しポイント:素手だと一番弱い。でも一番怖い。




 

 







 

 

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