File21:最終決戦
ソフィアたちの前には、様々な呪いの表情を浮かべ、蛍光する巨大な顔、仮称『
先ほど精霊のイフリートから聞いた話だと、『
「ディアスボラ。アレ、倒せそう?」
ソフィアがこの中で最強戦力の一人であるドラゴンのディアスボラに問う。
「……我と、あの精霊が主戦力だろうが、正直厳しいな。魔力量が多すぎる。強い恨みが、遥か長期に渡り残り続けた結果、通常ではありえない強度の存在となっているようだ」
よく考えれば人類が滅びた後、知的生命体が生まれるまでの気が遠くなるような時間存在し続け、熟成された恨みなわけだから、強い力を持つのも当然かもしれない。
『うむ。そういった想いは死後強くなり、土地や他者に害をなすこともある。その究極系という感じじゃな。……ソフィア、シィ、そしてシャローム。三人が協力する必要があるじゃろう』
トレントの言葉に、ソフィアたち三人は顔を見合わせた。
「……でも、私たち物理攻撃しか使えないよ?」
ソフィアをはじめとした機械兵士たちの武装は実弾やビーム、電磁ムチなど種類はあれど、別に魔力がこもっていたりするわけではない。ただの兵器である。先ほどは啖呵を切ったものの、何ができるかは正直よくわかっていなかった。
『先ほどいったとおりじゃ。『魔術』を使い、その武器を魔力で強化する。そうすればあの『
「魔術って、どうすればよいんですの? わたくし魔力がある、ということすらもピンと来ていなくて……」
シャロームの言葉にソフィアもシィも頷く。生物になって魔力を扱えるようになった、とはいえ感覚すらわからない状況だ。
『なるほどのう。少し訓練がいるかもしれんな。……ディアスボラ、イフリート。二人で他の連中を指揮し、『
「ああ、わかった。なるべく急げよ」
ディアスボラは言葉と同時、翼を広げて空中へと飛び立った。他の種族たちも各々得意な距離で戦えるよう、体勢を整えている。
『さて。では『魔術』を教えようと思ったのじゃが……おぬしらそもそも魔力を認識できておらぬのか。ふむ。どうするかな……』
教師がいきなり悩んでいる。
「トレントさん! なんかないの、こう……未知の力に目覚めさせるすごい技とか」
『ないこともないが、今わし無線機の向こうじゃからの。声以外は届けられん。一度感覚を理解できれば忘れないはずなのじゃがな』
そこですっ、とシィが手を上げて発言した。
「先輩、シャロームさん。私たちは、生物になったとはいえ、基本的には機械です。機械が、感覚とかそういう不確かなものに頼るのは良くないと思います」
「う、うん。それは確かに……」
機械人形にも感覚器官はそれぞれあるが、基本的にはセンサーであり、それぞれの情報を分析して行動している。感覚、というのは抽象度が高すぎるのだ。
「でも、わたくしたちのセンサーでは魔力は検知できませんわよね? 実際、今このあたりには魔力が溢れているはずですけれど、わたくしにはよくわかりませんもの」
シャロームの言葉に、ソフィアも頷いた。
「それは、そもそも魔力を知らないからだと思います。でも、先ほどのディアスボラさんの発言を信じるなら、今私たちの体内には魔力があります。先ほどまでの私にはなかったはずなので、私の蘇生前後の体内を走査し、差分を抽出、分析すれば――」
シィはそう言いながら目を閉じた。恐らく体内情報の分析を行っているのだろう。詳細なものは研究所でないと難しいが、体内に入った異物の確認くらいならここでも実施可能だ。
「――見つけました。非常に微細な粒子が体内を巡っています。こちらを仮称魔力と命名。この大気中にも存在することを確認。お二人にもデータを共有します」
「――きた。へぇ。これが、魔力。確かに体内に存在してるね。循環してる」
「わたくしも認識はできました。これをどうすれば良いのかしら」
『なるほどのう。そういう段階を踏めば、見つけられるのか。いや、面白い。――では『魔術』の使い方じゃが、いきなり難しいことをやるのは困難。まずはその魔力を自分の一番得意な武器に集めるが良い。魔力は自分の意志である程度操作が可能なのでな、まずはその感覚を身に着けるのじゃ』
「…………」
三人は無言で、検知した魔力に干渉しようと試みる。しばし、試行錯誤の時間だ。ちなみに『
「……できた、気がします。見ていただこうと思ったのですが、トレント様、無線機の先でしたわね」
シャロームは手にした電磁ムチに魔力を纏わせたようだ。シィは大口径のライフルに、ソフィアはビーム剣にそれぞれ魔力を込めている。
『自分でできた、と思ったらもう出来ておるよ。魔力とは、『魔術』とはそういうものじゃ。――さぁ、おぬしらの新たな力、試してみるといい』
◆◇◆◇◆◇
――苦しい、悔しい、妬ましい、なぜ、なぜ、なぜ。
――生まれてから一度も、平穏な世界を目にしたことはなかった。
――物心ついたときには、もう人類は滅亡すると聞かされた。
――何の未来も、希望もない生活。次の世代のために、と、ずっと研究をさせられる日々。
――一度も、外に出ることもなく。遥か未来の見知らぬ誰かを助けるために。
――ふざけるな。
――助けてほしいのはこっちだ。救ってほしいのはこっちだ。
――人生に価値はあったかもしれないが、意味はなかった。
――だから今度は、好きなようにしてやるんだ。
新世代の住人たちが、自分を傷つけようと襲ってくる。
火を吹く竜が。火に包まれた大男が。鳥人が、獅子男が、タコが、イルカ人が、蛇女が。
僕を倒そうと、攻撃を仕掛けてくる。
いいだろう。よくわからないが、僕は新たな力を手に入れた。機械人形にできないのなら僕自身が、この世界を支配してやる──!
思い切り叫び声を上げると、その衝撃波でその場にいた全員が吹き飛んでいった。爽快だ。
しかしその直後、何かで思い切り頬を叩かれた。
「──もう、あなたの思い通りにはなりませんわ! わたくしが、あなたを倒します!」
僕の意志を継いだはずの機械人形が、ムチで僕を叩いてきたらしい。
──なんで。僕の命令は、絶対のはず、なのに……。
その攻撃に気を取られていたら、遠くから砲撃を喰らった。痛い。
「──あなたの心情は理解できます。でも、この世界は、渡しません」
アレは、別の誰かが作った機械人形……? 鬱陶しい。先に壊してやる……!
そう思った時、剣を持ったもう一体の機械人形が、僕の前に立ち塞がった。いきなり攻撃されるかと思ったが、両手を広げて、こちらに話しかけてくる。
「──あなたはさ、きっと真面目で一生懸命で、優しい人だったんだと思う。世界の終わりに立ち会うなんて、そんな絶望、私には想像もつかないけど」
──僕は、この声を知っている?
「だってさ、本当にどうでもよかったら、何にも残さずに終わりを迎えても良かったんだし、それこそ世界をまた壊しちゃうような仕掛けを作ることもできた。でもシャロームみたいな機械人形に、自分の意思を託した。また生まれた世界が、同じ未来をたどらないように」
──僕は、この顔を、知っている。
「まぁちょっと強引ではあるけどさ、でも少なくとも滅びを願ってたわけじゃないよね。やり方が違うだけだ。──みんな仲良くしたい、っていう、私たちの願いとは」
──僕は、この願いを、知っている。
ふと、思い出した。滅びが迫った世界。その中に存在した、いくつかの施設。連絡を取り合った、一人の少女。
──絶望の中でも微笑みながら、新世界の誕生を、その発展を、平和を願った、優しい研究者のことを。
世界中の通信機能が途絶えそうな時、最後に彼女と交わした言葉を思い出す。
「私はね、次世代では争いが起こらないよう、みんなに仲良くしてほしいんだ。それが、願い」
「そんなの、うまくいかないだろ。そもそも新世界なんて、あるかもわからないのに」
「あるよ。いつか、ずうっと先に、必ずたどり着く。だから、その時に、私はその願いを届けるんだ」
「この絶望的な状況で、そんなこといつまで言ってられるかねぇ」
「言い続けるよ、いつまでだって」
「面白い。じゃあ見届けてやるよ。最後の時まで言ってられたら、僕の負けだ」
「その言葉、忘れないでよ!」
そうして、二度と彼女と話すことはなかったけれど。
──あぁ、そうか。君は最後まで、変わらなかったんだな。
彼女と同じ声で、同じ顔で、同じことを言う、機械の少女。
遥かな時を超えて、僕は彼女の勝利を知った。
「──私たちの願いのため、あなたはここで、倒す!」
剣を構え、こちらに向かってくる機械の少女。
その振るわれる剣を、受けるまでもない。
『僕の負けだよ、ソフィア』
遥かな昔、交わした約束の成就と共に、蓄積された呪いは、消え去った。
――あとに残ったのは、願いを乗せた、機械の少女。
こうして、旧時代は本当の終わりを告げた。
◇◆◇◆◇◆
レポートFile21:ソフィア(人間)
旧時代における最後の人類の一人。新たに生まれてくるであろう後継に『みんな仲良く』という使命を与えた研究者。各地に残った人々は、やがて通信手段が閉ざされ、狭いコミュニティの中少しずつ絶望の中で命を落とした。その状況でもソフィアは自らの信念を変えることなく、後世に技術を、知識を、想いを残すことに注力した。
最後に、自らの遺伝子や性格設定を用いた機械人形を設計し、知的生命体の監視業務を与えた。寿命が来たらそのコピーを作成し、業務を引き継ぐよう命令を下した。
――物語の始まりは、遥か未来、彼女を元にして作られた機械少女が、知的生命を発見するところから。
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