File16:機械兵士vs幻想生物

「シィちゃん、そっちはどうだった? こっちは――ラミアの集落は大丈夫だった。……何があったのかは全然わからないけど、みんな機械兵士が石化してたんだよね。たぶんリヴィアの奥の手だろうな」

 

 ソフィアはシィに連絡を取っている。無線は使えないが、機械人形同士で連絡を取り合うことは可能だ。


「私の方も、大丈夫でした。理解不能なんですが、アクィラさんは風の精霊さんと一緒にいて、お二人の力で機械兵士を一掃されていましたね」


「そっか。良かった……というか、あれだね。みんな……強いね?」


「そうですね……皆さん奥の手があるというか、模擬戦でない『戦闘』だとやっぱり全然違う、ってことですね」


 当たり前だが、彼らはリーダーであり戦士だ。他の種族から仲間を守り、獲物を狩り、率いる。きっと仲間と共に戦うときに真価を発揮するのだろう。正面切って戦えばソフィアたちも負ける可能性がある。


「うん。それで、この後の動き方だけど――」

 

 ソフィアはしばし考える。選択肢は幾つかある。海中への進行の可能性を考えて助けに行く、エントの様子を見に行く、草原にいたはずの獅子獣人を探す、ドラゴンや精霊に会う。――いや。現状を踏まえると、彼女たちの取りうる選択肢は別にある。


「先輩? 誰かの様子を見ますか?」


「――いや。私たちが今やるべきことは、元凶を叩くことだ。この世界で生まれ育った彼らはそんなに弱くない。魔力、っていう計算不可能な要素もあるしね。防衛は、彼ら自身に任せて、私たちはシャロームを倒そう。……シィちゃん、返事はいらないから、こちらからのメッセージを皆に届けることはできる?」


「音声を通信機にデータとして送って、届き次第再生する、という形であればおそらく可能です。通信ができないのは妨害によって回線を安定させることが難しいからなので、一方的に送るだけなら何とかなるかと」


「オーケー。じゃあこのメッセージを届けて。『現在、機械兵士がみんなの領土に侵略してきています。彼らは敵です。各自の判断で自分と仲間を守ってください。私とシィちゃんは、元凶である機械人形を倒しに行きます! みんな、よろしく!』」


◆◇◆◇◆◇◆◇


 機械兵士には感情がない。だが、指示を受け、状況に応じた適切な行動をとるだけの知能は存在する。ベースとなる人工知能は、感情面がそぎ落とされており、処理能力も低いが、機械人形たちの頭脳と大きくは変わらない。


 彼らにとって、この世界の任務は不確定要素の連続だった。まずこの大陸自体、彼らの持つデータベースには存在しない。地形はおろか、大気の組成も、存在する動植物も、何もかも違うのだ。情報は適宜収集しながら、任務のために歩を進める。


 彼らの任務は、この大陸に住む知的生命体に、『シャロームの配下となれ』と伝え、了承を得ること。得られない場合は武力で制圧すること。この二つだ。この世界の文化レベルはやっと道具を使い出した程度。旧人類史と異なり、種族は多数いるようだが、まだ数も多くない。いわば、だ。人類史は滅びたとはいえ、当時の最新に近い技術で造られた機械兵士に負ける道理はない。


「――お断りだよ」


 大陸にあるとある海岸。知的生命の生息地域だという情報を元に訪れ、目標である二つの種族がいたので、それぞれに配下となるよう伝えてみたが、その回答がこれだった。だが、ここまでは想定通りだ。――武力で制圧するとしよう。


 人間に似た姿の種族と、イルカに手足が生えたような種族は、それぞれ海中へと消えた。こちらも海中戦を想定し、換装パーツを持ってきている。肩と脚部、背部にスクリュー。視界を確保するライト。水中用のライフルに爆雷。弾丸等は一応、自然に影響を与えない特殊素材で作られている。


 不慣れな水中かつ複数種族を相手取る可能性があるということで、機械兵士は五十名の部隊だ。十名ずつ編成を組み、海中へと潜行していく。


 ――視界は良好。データにはない、様々な生き物が生息している。


 ――今のところ目視では発見できず。引き続き索敵を続ける。


 ――引き続き、反応なし。この分だと時間がかかるかも――。


 水中を進む機械兵士たちの視界が、少しずつ真っ黒に染まっていく。敵の妨害か。


 ――視界が奪われたのでソナーを使った探査に切り替える。だが――。


 周辺の海中すべてが、謎の超音波で包まれた。海中では電波が使えないため、音波を使った探査となるが、それが完全に妨害されている。視界が奪われ、ソナーも使えない状況。これはつまり、海中において、何も見えない、聞こえない状況になった、ということだ。可能なのは機械兵士間での通信のみ。


 ――誰か、状況がわかるものはいるか?


 ――見えない。聞こえない。わからない。


 ――近くに、何か――。


 ――隊員十名のうち、五名が音信不通。何かあったのではないか?


 ――何かに掴まれた。動け――。


 他の隊員全員と連絡が取れなくなった。黒い視界の中、巨大な触手のようなものが見える。全身に絡みつき、身体が締め付けられている。身動き一つとれなくなり、ようやくその全貌が、見えた。知っている、アレは――『悪魔の魚』だ。


 粉々に身体を砕かれながら、人工知脳は最期に思う。そもそものミスは、原始人なんて認識違いをしたことだった。奴らはいわば――だ。機械兵士ごときが、勝てるはずのない相手だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


『おう。トレントのじいさん。無事だったか』


 森にそびえる巨大なナラの木の姿をしたエント。その前に降り立ったのは、最強の生命であるドラゴンだ。


『おお、ディアスボラか。分身はパーティで顔を合わせたが、この姿で会うのは久しぶりじゃの』


 トレントの分身はソフィアによって種から育てられ、今は彼女たち機械人形の研究所の植木鉢で成長している。


『あぁ。そうだな。……てっきり、誰も来てないのかと思ったら、そういうわけじゃないんだな』


 ディアスボラが目を凝らすと、トレントの枝や、根の先に、たくさんの機械兵士たちが巻き付かれ、貫かれている。全員、微動だにしない。


『あぁ、こやつらか。失礼なことを言いおったのでな。全員処理した。金属のように見えるが、土に返る素材のようだ、せいぜい養分になってもらおう。おぬしのところにも来たのか?』


『おう、さすがに警戒されていたのか、ここの三倍くらいの数だった。だが……大したことはなかったな。一応、怪我とかした者がいないか、各種族の住処を見回ってたところだが、我が会った相手は皆無事だった。本当にこいつら、旧時代の兵士なのか?』


 ドラゴン対策ということで様々な装備を持ってきていたようだったが、どれもディアスボラに傷すらつけることができなかった。


『想定している敵、つまり旧人類が脆弱、というせいもあるんじゃろうが、おそらく、あの機械兵士どもは『魔力』が一切かよっておらんな。じゃから、ワシらの攻撃が良く効いて、やつらからの攻撃ではダメージを受けづらい』


 トレントの分身がソフィアと話した情報によると、旧時代に魔力は観測されていなかったらしい。もしかしたらあったかもしれないが、少なくとも技術としては確立されていなかったようだ。


『なるほどな……。だとすると、ソフィアたちも同じ、ということか? 前の戦闘をしている限りだとそんな感じはしなかったが、シールドが張られていたせいだろうか』


 機械兵士と同じ出自だとすれば、機械人形たる彼女たちも、魔力を持たない存在であるはずだ。


『――ディアスボラよ。この世界における魔力は、どこにある?』


『ん? 大気中にもあるし、水中にもある、そして、あらゆる生命の中にもあるな』


 この世界の生き物は皆体内に魔力を持っている。その多寡はそれぞれだが、呼吸や、食事や、入浴など、あらゆる手段で魔力を取り込み、消費して生きているのだ。


『そうじゃな。ではもう一つ。ソフィアと、シィ。彼女たちは――生命か? 機械か?」


『――――どうだろうな。自分では、機械人形、って名乗ってはいるが』


 だが、機械兵士たちとは明らかに違う。自分の意志を持ち、日々成長し、そして、よく笑う。少なくともディアスボラが見る限り、彼女たちは生命にしか見えない。


『そうじゃな。きっと、それ次第じゃよ。――彼女が機械なのか、生命なのか。もしかしたら今、新たな種が、生まれようとしているのかもしれんな』


◆◇◆◇◆◇


レポートFile16:機械兵士


 人工知能により制御される人型に近い姿をした機械の兵士。金属を模したバイオ素材で作られており、銃弾くらいなら弾き飛ばす強固な装甲を持つ。浮遊機構を備えており、様々な地形での活動が可能。また、オプションパーツを用いれば空中や水中での機動力確保もできる。光学センサーの他、音波、電磁波、熱などを検知することができ、太陽光をエネルギーに変更可能。様々な武器を装備でき、武装に応じた各距離での戦闘が可能。機械人形と違い感情はなく、個性もほぼ存在しない。その結果、与えられた役割通りの動作を基本的に行うので、臨機応変さに欠ける。


 機械人形の方が処理性能が高く、武装のアタッチメントも多いため戦闘能力ではそちらに軍配が上がるが、生産が容易で、旧時代の人間程度ならあっさり倒せる程度の能力はある。ただし、魔力を一切持たないため、新時代の生命体には弱い。


 人工知能や外見については、カスタマイズも可能で、それにより指揮官機を設定したり、個人的なボディガードとしての扱いも可能。


 推しポイント:実は猫顔アタッチメントがあり、給仕ロボとしても活躍可能

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