第2話 命の呪い

「花は美しい。しかし、いつかは枯れてしまう。ぼくはそれが惜しい」

「いいでしょう、あなたの願いを叶えましょう」

月を背に、二つの人影は、やがて重なり合った。


ゴールドオーラ帝国の片隅の村にて。

ジョアナは村の屋台にへばりつき、イオに抑えつけられていた。

「宮殿であんなにいいもの食っといて、あんたはなんなんだ、まったく」

「だって……多少ジャンキーなほうが、味がするんですもの」

「なんなんだよ全く、あの宮殿の味に文句でもあんのか?」

「そ、そんなことは……」

ジョアナは栗色の髪に白いフードをかぶり、いつもの仕事姿でうろついていた。宮殿にいたころにくらべ、はるかに動きがよく、イオは苦笑に似たため息をついた。

「全く、おまえは姫だとは言っても、根はまるで一般人だな」

そろそろ行くぞ、とイオは声をかけた。

ジョアナは乗り換えようの馬車に乗り、シルバー王国をめざして進んだ。

プラチナ皇国から、ゴールドオーラ帝国を抜け、東へ。それはまだまだ、長い道のりだった。


「この馬車、夜盗によくねらわれるな……」

「行きはそんなに居なかったですのにね」

「ああ、あんたらはプラチナ皇国の偉いさんだな、お忍びで復興支援とは恐れ入るが、これは一般市民用の馬車だ。そういうわけで、少しの騒ぎや危険はあきらめてくれよ。」

「わあ、大変ですね、イオさん」

「何でこっちを見るんだよ」

「あなた、わたしの護衛でしょ?」

「あんたが迂闊だから、旅程の管理役だ。あまり荒事に長けた覚えはない」

「え、じゃあ何かあったらどうしましょう!」

「……なにもなければいいが、なんかあったら金目のものを少し出せ。護衛が雇えるならそうしているが。あんたらはそうしなかったしな」

馬車の引き手の言葉に、イオはため息をついた。

「目立つのは避けろ、とは言われていたが、もう少しなんとかすべきだったか」

「えっと、ですね。なにかあれば、お話すればいいとおもいます。わたし、少しならありがたいお話、知ってますし」

「え?」

「いや、さすがにそれは……普通は通じませんよ。」

イオと馬車の引き手は唖然としてジョアナを見た。

「なんかあったら、じゃあどうやって話すんだよ」

「あなたもありがたい神様に愛されてるので、なにも奪う必要はありませんよ、って?」

「それが通じりゃ、物語だな。ありがたいお話に、感動して武器を捨てる……貧しい者にはあり得ない話だ」

「まあたしかに、聖なる物語の一節なのですが……教会育ちなので、わたし」

「姫だけどな。しばらくだったが、だいぶ宮殿暮らしで頭がゆるんだみたいだ、こいつ」

「イオさん!」

「なんだ、姫だから気を遣えとか、そんなんは俺は好かないぞ。なんせ、権力は大嫌いなんだ」

イオがいやそうに言うと、ジョアナはふるえて言った。

「いえ、わたし不安で……これ以上わたしの頭がゆるんでしまうと、もう歯止めがきかなそうですので」

「自分で言われますか」

わはは、と馬車の引き手は笑い出した。

馬車はしばらく、でこぼこした木々の間をすすむ。その間、いくらかの追い剥ぎが現れたが、ジョアナはプラチナ皇国から、いくらでも価値のある宝石を贈られており、それを惜しみなく分けようとした。

しかし、それらにあまりにも価値があったため、安易に渡すのは馬車にて叱られてしまった。それを見ていた追い剥ぎにも、なぜか心配されていた。

「俺たちはこんなもんでいいや。あんまあると、またきっと奪い合いに巻き込まれるからな……」

指輪二つで許してくれた追い剥ぎは、「もっと貧しそうにして、あまり見せびらかすな」と教えてくれすらした。

「やっぱり、話が通じるかもしれませんね」

ジョアナがそんなことを言うと、イオはため息をついた。


馬車はしばらくすると森を抜け、広い場所へ出た。その向こうには、高い壁がある。壁の近いところには、大きな門がある。門には、門番、検問、料金係がいた。そこへ馬車は一列に並び、支払いなどの手続きを待っている。

「ここからは、帝国領のなかでもちゃんとした区域を進む。追い剥ぎにも会わなくてすむし、宿や食料ならいくらでも手に入る。」

「ちょっと待ってください、では、あの村あたりは……なぜあんなに素朴なんですか?」

「ああ、あれは……」

馬車の引き手は一瞬、言葉をとぎった。

「意図してつくられた、階級社会の影だ。プラチナ皇国は格差が少なく、みな農民も豊かにやっている。が、ゴールドオーラ帝国は違う。国境を越えた途端、風景は変わらずとも、住民は苦労している。重税に転居制限、就学制限……わざとつくられた地獄だ、あれは。」

「な、どうして!」

ジョアナは声を上げた。ほかの馬車からひとつ落ちた、つややかな大きいリンゴ。イオはそれを見てつぶやいた。

「さっきの村から来たあの馬車のリンゴ、さっきの村の売り物より、ずいぶんきれいだな」

「なんだか、つらいです」

ジョアナはうつむいた。

「さあ、じゃあ、門を通るぞ。……ここでも、許可なき部外者や村の者だと、通行料はかなり高くつくんだ……」

馬車の引き手は言った。


中流区域、とよばれるそこは、帝国領のほとんどを占めていた。そして中央にある上流区域は、さらに大きな壁で隔てられているらしい。

「ここらは、わりと普通に暮らせるが、高いものや贅沢品もけっこう出回っている。が、上流区域ほどじゃない」

「へえ、きれいなお店がたくさんありますね」

ジョアナは顔を上げ、あたりを見て言った。

「下流とされた方がたはなぜああさせられているか、まるでわかりませんが。ここにも人のいろんな思いがあるのでしょうね」

「まあ、何も考えずにいたら、贅沢なんて意味ないからな」

「そうか?」

馬車の引き手は、イオの言葉に首をかしげた。

「ああ、すべてどうでもよければ、生きる必要すらない。土を食っても、何も思わないやつもいるさ」

「そうか……」

馬車の引き手は暗めにつぶやいたが、イオのほうは、淡々と言ってのけていた。

「贅沢なんて、なんのためにあるのかわからない。おれには。」

「……イオさん!」

ジョアナは声をあげた。

「なんだよ、生きてりゃいいことある、なんて言うなよ」

「それはきっと、必ずではありません。ここからは、あなた次第ですよ。死者も、自ら行く先を決めて転生するといいます。生きていても死んでいても、あなたはあなたが選んだほうへ向かうべきです」

「……何も思わず生きているなら、死んでるも同然、というわけか」

イオはうなずいた。

「死ぬまではここにいる、ならば、諦めず、それなりに行けばいいか」

「ええ、ですよね~!」

ジョアナは微笑んだ。その杖を握る両手には、力が入っていた。

「その小さな杖は?やたらボロボロだな、姫の持ち物とは思えないが」

「昔からもってたやつです。怪我した人々のため祈っていた頃、大事にしていました。」

「もってきてたのか」

「いつも、もっています」

ジョアナは言って、前を見た。馬車は進む、複雑な道に、大きな建物がたくさん並ぶ町を。


そのうち、夕暮れが迫ると、急に暗くなった。

高い建物や、大きな区域の仕切りになる壁が、赤い日差しを遮る。

「もうすぐ宿です。お疲れ様でした」

「ありがとうございました」

ジョアナは馬車を降りると、イオに言った。

「わたし、夜行馬車があれば乗りたいです」

「体力もたないだろ。すっかり宮殿暮らしでなまったくせに、いきなりとばすな。」

「でも……」

「昔からおまえは聖堂にこもっていたんだろ?シルバー王国についたら、へばって寝込んでました、じゃ意味がないぞ」

「……はい」

ジョアナは指定された宿に、イオに急かされて入っていった。

すると、先を行くイオは、扉を出た人にぶつかった。

「わ」

「うわー!!」

ぶつかった男は、しばらく地面でひっくり返ったまま。さらに、駄々っ子のように、そのままくるくる回り始めた。身なりは高級で格調高い服装なのに、そのさまはまるでおもちゃだった。

「うわああ、助け起こせ!おまえ、貧民だろう!?わたしは偉いんだから!ほら!」

元気に足で回りながら手を差し出す男に、イオは眉をしかめた。

「なんだおまえ、カメか」

「大丈夫ですか!?」

そこへジョアナが現れ、手を差し伸べようとしたので、イオはかわりに、急いで男の手を引いた。

「あんたがやらんでいい、知らん人にさわるのは」

「ふう……おや、貧民、ここは辺境にしては高級な宿だぞ。お前たちの来るような場所ではないが?」

すると助け起こされた男は、いきなりそう言った。

「なんだおまえ……!」

イオは苛立って言ったが、ジョアナは一礼した。

「すみません、私たち、予約しているんです」

「……?おまえたちが?」

男はすこし不思議そうにジョアナたちを眺めまわすと、首をかしげたまま去った。

「なんと。不思議だな。やれやれ……」

「まったく失礼なやつだな、このへんの貴族か」

「あのかたは、王の住まいにより近い、上流区域のハープナーさまです、どうか粗相のありませんよう……」

宿の女将は頭を下げた。イオは不可解そうに、不機嫌そうにチェックインした。

「ジョアナの実家で選んだ宿だから、まわりの目もあってこんなとこにしたが、まさかあんなやつに出くわすとは……」

「見た目がこうでは、このような場所では不適切でしょうか……」

「いいだろ、別に。おれたちは客なんだし」

通された部屋にて、イオはソファに座り、すぐに寝息を立て始めた。

「外にひとりで出るなよ」

そう言い残して。

「……すこし残念ですが、わたしも眠いです……では、おやすみなさい」

ジョアナはそう言うと、三つあるうちの一番手前の寝室に入った。非常に豪華な客室は、いくつも部屋があり、まるで高級な家のようだった。が、二人は気にすることなく眠り続けた。


次の日。

チェックアウトしてから宿を出ると、町は明るく照らされていた。

と、同時に、朝から異様な気配に包まれていた。

「ハープナーさまのお成り!」

だれかの声から、あたりが一斉にざわめく。ハープナーは神輿のようなもので担がれ、大通りの中心で手を振っていた。

「へんきょ……ごほん、中流区域のみなのもの、ごきげんよう」

ハープナーはきらきら輝く貴金属を身につけて、大通りのほうから叫んだ。拡声魔法であたりに拡がり、響く声。

街中の人々は、わっと盛り上がる。

「ハープナーさまだー!」

「またきてくれた!」

「権力者が、なんでわざわざ遊びに来てんだ?」

イオは嫌悪感丸出しで言った。

「ハープナー様は、このへんが地元なんだ。たまに演説に来て、ありがたいお話をしてくれるんだよ」

ポップキャンディをなめながら、元気な子供がイオに話しかけた。

「じゃ、地元なのに辺境にもだのと見下すのかよ、あいつ」

イオはますますいやそうに顔をしかめた。

「人々よ、この格差社会を生きる民よ、明るい光は辺境にも当たることはあるだろうか。いや、まずない。」

しばらくハープナーは語り出した。辺境と言われたこのあたりだが、ここまで栄えていると、一見プラチナ皇国の首都圏よりも派手な街だった。プラチナ皇国はあまり格差がないかわり、どこもわりとのどかだ。

派手な街の端々まで、ハープナーの声は響く。

「民たちよ、しかし希望を持て。上流区域の技術は明るく国を照らす。それは、わたしの計らいにより、まずここから広まることとなった」

「え」

「すごい!ハープナーさまバンザイ!」

キャンディの子供は跳ねた。あたりじゅうも拍手喝采だった。

「わたしは特別なはからいにより、ここナイクベスシティの者たちに、上流区域の輝きを授ける。では、みな、頭を下げよ」

「え、今?」

イオは戸惑った声を上げた。

人々は一斉に腰を曲げ、頭を下げた。キャンディの子供も、あたりを見回し、真似している。いまやジョアナたちが見るのは、街中がそうする異様な光景。ハープナーは堂々と、神輿の上で笑った。

「さあ、授けよう。上流区域の輝きを……魔女様、よろしくおねがいします……」

「ふふ、ではやってあげる。」

妖しげな女性の声はハープナーの声に混ざり、拡声魔法で一瞬広がる。そして、なんらかの詠唱が続いた。

「枯れない花はない。そのことわりを壊す、これは、夢まぼろしの秘術……」

光が、そしてあたりを焼いた。街中が光に包まれると、ジョアナは悲鳴を上げた。

「きゃー!」


街中は、一瞬にして、取り憑かれたような静寂につつまれていた。

「う」

「うう…」

ジョアナはあたりの声に、顔を上げた。

すると、街中は、すでに異様な光景に一変していた。

うつろに呻きながら、あたりをさまよう、腐り老いた人々。子供や動物までもが、さっきまでの服装などのまま、生気なくうろつく。

ジョアナはあたりを見回してから、悲鳴を上げた。すぐに自分の顔をさわり、窓で確かめる。

「わ、わたしは……無事?なんで?」

横で、イオもうなずいた。

「このへんだけは、大丈夫だったようだな」

近くの子供は、見た感じではどうやら無事のようだったが、キャンディを取り落とし、半狂乱でどこかへ駆けていった。

「おかーさーん!お兄!じいじにばあば!」

「きゃー!どうしたんですか、上の階から化け物がたくさん……!」

宿の女将は叫びながら出てきて、扉を強く閉め、ジョアナにしがみついた。

「わかりません、でも……」

ジョアナも泣きそうになりながら、イオと目を見合ってうなずいた。

「ハープナーさんに、事情を聞きに行きましょう」

すると、

「あいつなら、もうダメだよ」

アハハ、と軽薄で酷薄な響きの女性の声。ジョアナたちは振り返る。宿の横に、短いマントで身を隠した女性が立っていた。その下は貴族の娘のような、豪奢なスカートのフリルが揺れている。どこもかしこも、墨を垂らしたように黒い。冷たい氷を思わせる銀髪が、ゆるくカールしながら肩より下に長く垂らされていた。

「あなたは」

「レビエルだ。命を愛する魔女だよ、聖女様。お見知りおきを……」

レビエルと名乗った女性は、明るく笑いながら詰め寄った。

「なんであんたがこんなとこに。ジョアナ、あんただけは、ここに居ちゃいけないんだ」

「え、えー?」

ジョアナはショックを受けた様子で、一歩下がった。それでも一言聞く。

「そ、それより、あなた、ハープナーさんや街の人に、何を?」

「世のことわりのためだよ。栄光あるゴールドオーラ帝国のためにも……あはっ」

レビエルはうれしそうに笑い出し、さらにジョアナに詰め寄った。そのころには表情は一変し、鬼気迫るものになっている。

「なのに、あんたはきっと台無しにする!だったら……かわいいジョアナちゃんや、あんたには今、消えてもらう!」

「ええええ」

ジョアナはさらにショックを受けた様子で、よろめき、地にくずおれた。そしてむせび泣く。

「ああ、そんな悲しいことを言われたら、わたしはもう立てません……うっうっ……」

「じゃ、魚にでもなりなさい。地を泳ぐまでもなく、ここでひからびろ」

レビエルは杖を振った。イオは庇おうと前へ出たが、レビエルの魔法の光は、イオを貫通し、ジョアナまでを焼いた。

「うわー!?」

二人は叫び、それぞれの頭をかばった。

「……は、あはっ」

やがて、レビエルは笑いだした。膝をつく。

「あはは、なんで、なんであんたは」

枯れたような笑い声。レビエルは、泣き笑いの表情で、やがて姿を消した。閃光のように一瞬広がるのは、小さな暗闇。それに呑まれて、レビエルは去った。

「うぅ……あれ、なんともありませんね」

ジョアナはきょとんとして、自らを確かめた。イオも不思議そうに、自身を見る。ジョアナたちから少し離れたところには、いくらかの魚が跳ねていた。

「まさか、ジョアナの力、なのか?」

「もしかして……」

ジョアナは首元から、なにかを引っ張り出した。それは首飾りだったが、真ん中の石がこわれている。

「プラチナ皇国から持ってきた、路銀代わりのネックレス……」

「まさか、魔法防ぎになっていたのか。プラチナ皇国の技術、なかなか悪くないな」

イオは感心したように言った。


「ジョアナ……なぜここでまた会うの?なぜ私の魔法をことごとく破るの?絶対、絶対潰して……いえ、そこまでしなくても、きっと思い知らせてあげるわ」

レビエルは自分の暗い部屋のなかで、大きな丸い鏡を前に言った。叩きつけた手のひらから、鏡にひびが広がる。そして、レビエルはカゴをあさった。リンゴを取り出して……。

「いえ、ここはかわいらしく、イチゴにしましょう。新鮮なやつを探しに行かないと」

レビエルはリンゴを投げ捨て、扉をあける。と、そこには、混沌とした魔法使いたちの商店街が広がっていた。強気な足取りで、歩み出て行きながら、レビエルはヒールの音を響かせた。


「どうしましょう、街の人たちが……」

ジョアナは街を走り回りながら、あたりを見回した。あたりはもう、死と生の境で無理矢理動かされたような人々ばかりだった。また、街のより遠くから訪れ、困惑し、おびえる人々の悲鳴も聞こえてくる。

「本で読んだことがある、死者を無理に生かす呪い……それは死生人を生むと。あの魔女、街の人をいったん殺しかけて、呪いでこの世につなぎ止めたにちがいない。」

「死生人?ひぇー……なんとかしないと……」

ジョアナは聖堂を見つけると、一目散に走って行った。ゴールドオーラ帝国も、シルバー王国も、プラチナ皇国を宗主とする宗教の国だった。そのため、祭壇はジョアナの見知ったそれと、同じようにできていた。

「これなら……!」

ジョアナは祈った。すると、あたりにうっすらと柔らかな光が満ちたように、空気が一瞬輝く。

聖堂のなかでうろついていた少しの死生人たちは、魔法を受けたはじめは、あたりをゆっくりうろついていた。しかし、しばらくすると無気力に倒れ込んでいた。そこへ、祈りによる柔らかな光に当てられると、やがて肌や身体に生気と若さを取り戻し、ゆっくり立ち上がった。

「これは……今まで、私たちは何を?」

「よ、よかったー……?」

ジョアナはそれを見ると、微笑み、静かに倒れ込んだ。すぐに寝息を立て始める。


「……申し訳ない!!貧民かと思いきや、あなたがたはプラチナ皇国からの光そのものだったとは!」

翌日、ハープナーは平身低頭、ジョアナに謝罪した。土下座までしながら、そのまままた回転しはじめる。

「この誠意を!どうか、見て!ください!」

「だからって、回らなくていい。それより、あの魔女は……?」

「ゴールドオーラ帝国の新しい契約業者だ。王がしきりに推すので、ならば!と思ってな。どうかこのような辺境にすぎない、あわれなわたしの地元を、そのありがたい魔法にては、まず最初に救ってもらおうと……」

「救う?」

イオは首をかしげた。ハープナーは胸を張った。

「ゴールドオーラ帝国のあらたな繁栄策だ。つねに我が国は最先端を行き、漸進的に発展し続けるため、さまざまな最新鋭の方策を惜しまない。だが、あれはいったい……命を愛し、命を授ける魔女様だと聞いたが」

「喰らったなら、わかるだろ。一度殺してから呪いで人を生に縛る。あいつはそういう魔女だ。」

「……なんてことだ。では王は……!」

ハープナーは焦り、走り出した。さらに転び、回転しながら階段を降りていく。

「いたた!王はだまされているんだ!早くなんとかしないと!」

「わ、いたそう……早く治療しに行かないと」

ジョアナはそれを見て、すぐに追いかけた。元気に駆けるハープナーとともに、大通りへ飛び出していく。

「あのおじさん、べつに治療いらないだろ」

一方、イオはしばらく考え込んでいた。宿の部屋から、大通りのある街を見ながら。

「にしても、いったい、ジョアナはなぜレビエルの魔法を破る?なぜレビエルは、ああもすでにいくらかを知ったように語る?……また、会うだろうか?あいつに……」

薄暗い空は、まだ午前だというのに、ゴールドオーラ帝国の帝都のほうに分厚く広がっていた。

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蘇生聖女の逆襲 ににしば(嶺光) @nnshibe

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